■あらすじ
2012年、航空宇宙局(NASA)は、高度に訓練された6人の宇宙飛行士(地質学者:ジュリア・マイヤーズ、社会学&人類学者:トム・ジェイソン、元空軍パイロット:ウィル・サックス、臨床医:ルーク・ミレンズ、医学博士:ネリー・ルーガン、元海兵隊員:デーン・ハンカード)を、南極の密閉された“ICE-SAT5”というタンク施設に入れ、アメリカ史上、最も過酷な宇宙ミッションに向かわせるための模擬訓練を行う。訓練期間は471日間。6人きりで任務遂行のためのテストを続けていくうち、彼らは現実と訓練の境界線が見えなくなってくる。そしてタンクは悪夢の空間となり、恐怖は極限の寒さよりも命取りとなる結果を生むのだった…!(メーカーサイトより)
■ネタバレ
*2012年4月、宇宙飛行士候補6人が南極に渡った。ICE-SAT5と言う[タンク]に入り、471日間に及ぶ火星探査シミュレーションを行うためだ。日光や新鮮な空気を奪われて、外部との接触のない空間で共同生活を送る事になる。家族へのメッセージは週に1回、火星を想定して送信は45分遅れる。
*しかし実際には火星に行く計画はなかった。2011年度末の時点で多額の余剰金があった財団が、没収を逃れるために無用な模擬訓練で予算を支出しようとしたのだ。後の予審会で責任者リード・ベイカーとカーンズが激しく叱責される。「このような惨劇は宇宙探査史上初めてだ」「チームの殆どが死亡した。壊れ易い心を利用して、命を弄んだ。分かってるのか?」予審が終われば、並行して刑事事件の捜査が進められる。ベイカーはある隊員の精神鑑定結果を隠して採用していたため、より重い罪になるだろう。
*そんな事情は知らず、元空軍パイロットでこのプログラムの隊長ウィル・サックス、地質学者ジュリア・マイヤーズ、社会学及び人類学者トム・ジェイソン、医用生体工学士ルーク・ミレンズ、医学博士ネリー・ルーガン、元海兵隊員デーン・ハンカードが4月26日にタンクへ入る。タンク内は広くはないが各々の個室・真空状態になり宇宙服で活動するシミュレーションルーム・検査や分析等を行うラボ・トレーニングルーム・医務室等を備えている。
*記録用の映像には真摯に実験に取り組む姿やふざけて笑い合う様子、限られた食材で工夫してピザパーティを楽しむ光景等が残されている。半年程度は大きな問題なく過ぎるが、11月12日にはトムのチョコレートがなくなる事件が起きる。タンクの中では貴重品だ。犯人は分からず仕舞いで、ウィルは各自1本ずつトムにチョコバーを渡すよう指示する。
*険悪な雰囲気を緩和しようと、トランプのゲーム大会が始まる。罰ゲームは6週間のトイレ掃除。勝ったデーンが神に感謝すると、信心深いルークがその軽薄な態度を咎める。結局タンクの雰囲気は却って悪くなる。
*夜になりデーンとネリーが彼の自室でセックスしていると、タンク内が停電になる。集合して連絡を試みるが、本部からの応答はない。電力がなければ暗いだけではなく暖房も使用出来ず、何より密閉されたタンクではやがて酸素がなくなってしまう。不安が募る中、トムが痙攣を伴う発作を起こす。持病等はない筈で、恐らくストレスと酸素不足によるものだろう。他の隊員の精神状態も穏やかではない。
*デーンやネリーは「プログラムを中止するべきだ」と主張。一方ルークは「こんな事で諦めたくない」と譲らない。またしてもデーンとルークが対立する構図となり、遂に2人は殴り合いを始める。その時、ふいに電力が戻る。長時間の停電は、緊急時の対応についてのテストだったのだ。皆が仲裁し表面的には和解するが、デーンとルークの亀裂は決定的になる。
*12月中旬には、メンバーは単独で過ごす事が多くなる。家族への連絡も毎日可能な訳ではなく、それぞれ孤独を抱える。ウィルは自分の過失によりプールで娘を亡くし、その後妻が自殺していた。彼の孤独はより深い。発作を起こした事や盗難騒ぎの中心となってしまった事で、トムもまた孤立していると感じる。大晦日にはジュリアとネリーだけがささやかなパーティを開くが、他の隊員はバラバラだ。
*4月9日、デーンは宇宙服で作業中に転倒し、右足に酷い怪我を負う。一方ルークは神や聖書への傾倒を強めている。ジュリアは彼が作業場で誰かと会話するのを目撃。実際にはその場に居たのはルーク1人だった。彼女はウィルにそれを報告する。精神鑑定を依頼すべきだろうとの結論になる2人。やがてジュリアの娘の、次いでウィルの娘の話題になると、彼が娘を亡くしていた事を初めて知るジュリア。泣き崩れるウィルを抱き締め宥めていると、どちらからともなくキスをする。「やっぱり無理だわ」「僕が悪かった」とそのまま身体を離す2人。
*2013年8月6日、任務最終日。ジュリアとネリーは「あなたが支えだった」と抱き合い友情を再確認する。他のメンバーも晴れ晴れとした表情で、任務終了の12時を待たずに荷造りを済ませている。デーンは4月の怪我を引き摺っているが、それでも表情は明るい。隊長としてメンバーを称えるウィル。そんな中、1人沈んだ表情で「皆馬鹿だ」と言い出すルーク。「シミュレーションじゃない、タンクから出た瞬間に俺達は死ぬ。連中に騙されたんだ、俺達はもう火星に送られてる」
*最初は誰も取り合わないが、ルークは手製の銃を取り出す。作業場に籠って、架空の誰かと会話しながら密かに作っていたものだ。「今から何をするべきか、俺が指示する」と言うルークをどうにか宥めようとするが、弾みで発砲してしまいジュリアに命中する。彼女の胸部から血が噴き出す。それでもルークは態度を変えない。「俺の話を聞かないなら、あんた等を殺す」
*ネリーが救急キットを取りに行く事は許可するが「あのドアは開かない、騙されたんだ。本部は何をしてる?責任者は何処だ?」と捲し立てるルーク。更に誰も居ない隣りに向かって「邪魔をするな、お前とは話してない」と怒鳴る。異様な光景に面喰いながらも、デーンは「話を聞かせてくれ、俺達が知らない情報を持っているんだろ」と訊く。「俺と仲良くしたいなら真実を言え、タンクの中は嘘だらけだ」とルークは答える。
*ルークは聖書を投げ寄越して、デーンに[ヨハネの福音書8章32節]を読ませる。そこには『真実を知れば自由になれる』と書かれている。隊員の秘密を嗅ぎ回った挙句、真実を告白する事が救済への道だとルークは考えたようだ。銃口を向けたままトムを彼の私室へと促す。ウィルとデーンも一緒だ。
*トムの部屋でパネルを外させると、壁に小さな穴が開いている。隣りのデーンの部屋を覗いていたようだ。「トムは変質者なのさ、地獄行きだ」と言うルーク。デーンにトムの日誌を読ませると「デーンに抱かれて眠る事ばかり考える」と書かれている。嫌悪感を露わにするデーン。トムはルークに向かって「地獄に落ちろ」と叫んで走り出す。彼はトイレに逃げ込み隠れるが、また発作を起こしたらしい。ドアを抉じ開けた時にはトムは息をしていなかった。ウィルの救命処置も虚しく、トムはそのまま絶命する。
*神への祈りを唱えるルークに「これが望みか」と問い掛けるウィル。「違う」「お前が殺したんだ。これが偉大な計画か?」「知らない、知らなかった」「俺を殺したいのか?殺せよ」激昂するウィル。ルークは自分の頭部へ銃口を向けて、神に対して「愛しています」と呟くと引金を引く。
*ネリーは1人でジュリアを診ていたが、諦めたのか恐怖のせいか姿を消している。デーンはトムとルークの遺体を片付け、流れた血を拭い取る。停電とは違って「テストではない」とベイカーは言う。それは本部からの通信で、3日前の映像だ。南極一帯に暴風雪が発生し、タンクに迎えが到着するのは2週間から最長で4週間後になる。2週間どころか、ジュリアは2日と持たないだろう。デーンは「火星の方がマシだ」と悪態を吐きながらも、落ち着きを失ったウィルを宥める。狭いタンクの中なのに、ネリーはまだ見付かっていない。
*幸い電力は問題なく、食料も当面はどうにかなりそうだ。しかし気象状況は今までになく悪いらしい。強い突風に見舞われて、タンク全体が大きく揺れる。更に吹雪は続きタンクが横転、反転して何回転もする。漸く動きが止まった時、また電力が途絶えてタンク内が暗くなる。ジュリアは息絶えており、手には2人の子供達へのメッセージが握られている。デーンは元々足を痛めていたが、骨折して足首から骨が突き出している。
*このままではデーンは敗血症で死に至る。脚を切断するしかない。残っている設備と道具で、ウィルがデーンの右足を切る。次にウィルは防寒のために宇宙服を用意する。重いため先ず1着だけ運び、もう1着を探しているとネリーが見付かる。彼女は宇宙服の中で事切れていた。ネリーの遺体から宇宙服を脱がせて、自分が中に入るウィル。
*もう出来る事は殆どない。デーンと2人で宇宙服を着て、並んで座る。持って来た『罪と罰』を燃やして暖を取る。タンクに来てから1度も本を開いていないが役に立った。気が付けば外は静かになっているようだ。嵐が去ったのなら近々救助が来るだろう。しかしデーンには間に合わない。「遂に来た、怖いよ。俺は何処に行く?」「快適な場所さ、タンクよりもな」「妙な気分だ、想像していたのと違う」
*もう何も言わなくなったデーンに「直ぐに会おう」と言うウィル。とうとう1人になってしまった。すると暗いタンクの中が明るくなり、死んでしまった娘のジェシーが現れる。ウィルの手を握るジェシー。「パパ、諦めないで。今はまだ早いの。ずっと待ってるわ」ジェシーが姿を消すと、周囲はまた暗くなる。しかし間もなく別の光が現れる。密閉されたタンクの壁を焼き切るバーナーの炎。火花が散る。救助が来たのだ。
■雑感・メモ等
*映画『ザ・タンク』
*レンタルにて鑑賞
*南極を舞台にした密室系サスペンス
*あらすじではNASAとなってるけど違うんじゃないかな。組織名等は明確には出ないから、適当に『財団』て事にしたけど。(ユニフォームのロゴ等には[GSA]の表記あり。)作品によってはこんなにコストを掛けて実験するメリットある?て思ったりもするけど、この映画の場合は潤沢な資金を消化するのが目的だからその辺は納得。没収されるだけじゃなくて、今後の予算も付かなくなると言う事なのかなと。
*後半丸々が任務最終日の出来事。あれこれ軋轢が生じる過程が前半で描かれる。とは言え前半ではそんな大層な事は起きない。問題のある人物が壊れる事が殆ど全ての元凶だから、前半は割と静かで退屈。2/3辺りで元凶であるルークは死んで、残りは不運なトラブルと言う感じだからこれまた地味。
*本当の元凶と言える人物ベイカーが、予審で徹底的に締め上げられてるのは良かった。ここが手緩いと苛々しそう。この予審の時に「精神鑑定結果を隠して採用」と言う情報が出る。ウィルやトムも些か怪しいけど、結局一番不審な人が捻りなく該当者だった。
*ルークはトムが死んだ後に自殺してたけど、ジュリアを撃った事は許容範囲なの?自殺自体は赦されるのか?お手製の銃は一般的な拳銃とかではないんだけど、妥当な呼称が分からない。
*ネリーが宇宙服を着て死んでいた理由は何だろ。隠れたかったのか、ルークの銃に対して防護になると考えたのか。チョコレートのエピソードも謎だった。随所にある監視カメラは、キッチン周辺には設置してないのかな。「トムとルークは食糧の在庫係」との台詞があったけど、流石に施錠まではしないか。関係ないけど料理は当番制?ピザもトムとルークの2人で作ってたけど。
*女性2人が仲良かったのは救い。最終的にオッサンと熊みたいなオッサンが残る点はなかなか意外性があった。