キュア 禁断の隔離病棟 | m-memo

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ネタバレだらけの映画メモ。

忘れ易いので自分用にメモしてます。
ネタバレ部分は詳細を記載することもあれば、
二言三言のこともあります。

 

■あらすじ
NYの金融会社で働くロックハートは、アルプスの療養所に出かけたまま戻らない社長を連れ戻すように会社から命じられる。彼は療養所に着いてすぐに社長との面会を求めるが、面会時間を過ぎていて会えない。ホテルに戻る途中、車で事故にあい脚を骨折したロックハートは療養所に戻ることに。そこで、ようやく社長に会えるが彼はすぐに行方不明となってしまう。ロックハートは社長を捜しながら治療をしていくうちに、この施設の恐るべき秘密を知るのだった-!(メーカーサイトより)

■ネタバレ
*NYの金融企業に勤めるロックハートは、スイスの療養施設へ行ったまま帰らないローランド・ペンブローク社長を連れ戻すよう命じられる。近々予定されている合併のために、社長のサインが必要になる。本来なら社長と親しく、年間最優秀セールスマンにもなったビル・モリスが任命される筈の仕事だが、彼は深夜の残業中に心臓発作で死んでしまった。ウォーターサーバーから水を飲んだ直後の出来事だった。ロックハートは自身の不正について言及もされ断る選択肢はなく、遥か6500kmを旅する事になる。
*長距離を電車で走り、駅からは車で運ばれる。ポケットには母お手製の小さなバレリーナの人形が入っている。それは他のバレリーナとは違って目を閉じている。「夢の中で踊っている」と話した母。面会に行き「出張が終われば昇進出来る、もっといい施設に入れる」と伝えると、母は「お前は戻らないわ」と言った。
*療養所は山の上にある。麓の村では、若者が車に向かって水を浴びせてくる。運転手は「歴史のせいで、山の上の人々と村の連中は仲が悪い」と言う。彼は「毎週金持ちを送るが、若い人は珍しい。送るばかりで、施設から帰る者は居ない。皆居付いてしまう」とも話す。
*運転手は、更に療養所について教えてくれる。施設は城の跡に作られている。城と周辺の土地の所有者はフォン・ライヒマール家だった。最後の男爵は純潔に拘り、教会に背き神を捨て、妹に自分の子を産ませようとした。2人の結婚式の夜、村人達は男爵と妹を地下墓地まで追い詰め、男爵の前で妹を焼き殺した。同時に城も焼け落ちた。それは200年前の出来事だ。
*漸く辿り着いた療養所。門扉には絡まり合う2匹の蛇があしらわれている。明るい庭では白いガウン姿の患者達が、スポーツを楽しんだり絵を描いたりしている。運転手に「20分程で戻る」と告げるが、面会時間の15時を僅かに越えていたために受付で素気無く断られてしまう。責任者ピーターソンに頼み込むと、どうにか治療が終了する19時過ぎに会わせてくれる事になる。
*ピーターソンの部屋の壁には、治療の様子を撮影した写真が何枚も飾られている。この療養所では治療に水を利用しているようだ。「建物は古い帯水層の上に建っていて、その水には若返り効果がある」と言うピーターソン。運転手が話していた火事の後、城は再建された。ピーターソンは小さなガラス瓶から液体を数滴、舌に垂らす。「ビタミンですよ、患者を診るには健康でないと」ロックハートはピーターソンに出された水を呷る。
*施設の敷地内では携帯電話が繋がらない。患者を社会のストレスから隔絶するためらしい。約束の時間まではまだ長く、会社に報告する必要もあるためホテルへ向かう事にする。療養所から離れる時、城の高い塀の上に佇む少女が見える。ロックハートは目を離す事が出来ず、ずっと背後を振り返る。
*やがて彼女の姿が見えなくなると、車の前に勢いよく牡鹿が飛び出してくる。避けようとするも間に合わず、横転する車。ロックハートの脳裏には様々な映像が浮かぶ。バレリーナの人形・水の中の蛇のような生き物・燃える肖像画の青いドレス・水に浮かぶ少女・モノクロの古い写真・水中で苦しむ自分・燃え落ちる城・自分以外は訪れる者も居ない母の火葬。
*気が付くとロックハートは療養所のベッドの上に居た。右足を骨折しており、3日間眠っていたという。電話をしたいと訴えると、所長のヴォルマーは既に会社に連絡済で「仕事より体が大事だと、彼等も理解してくれた」と言う。「強制的な休暇だと思えば良い。高地に身体を慣らすため、水を沢山飲むように」ロックハートは言われるままにコップの水を飲む。
*ベッドサイドテーブルに置かれた腕時計は事故にも壊れず動いていると思ったが、暫くすると針が止まってしまう。15時過ぎ、ここに初めて到着した時間と同じ。水を飲み干した後のグラスには小さな虫のような物が残っているが、あまりにも微細で正体は分からない。
*プールやスチームバス等、施設のプログラムにはやはり水が多く利用されているようだ。廊下を彷徨いていると看護師に「迷いました?」と声を掛けられる。咄嗟にペンブロークを名乗ると「609号室のペンブローク様、次は蒸し風呂へ」と案内される。蒸気に視界を遮られながら奥へと進んで行くと、通って来た筈の入口が消え失せて四方を壁に囲まれてしまう。困惑しているとやがて入口が現れ、蒸気の中を横切って行く牡鹿が見える。牡鹿を追うように進むと、そこにはペンブローク社長が居た。
*社長は健康そうに見えるが「自分は病気だからここから離れられない」と言う。ヴォルマー所長を讃え「人は血に執着するが間違いだ、身体の65%は水だ」と話す。彼は自殺したロックハートの父親の事も覚えていた。「車内に息子が居たと聞いた」「よく覚えていません」ペンブロークはロックハートと会話する内に「荷物をまとめよう」と言う。
*受付の看護師に車の手配を依頼し庭を眺めていると、初めて来た日と殆ど変わらない様子に見える。用途の分からない小さな建物が気になり見詰めていると、老婦人ワトキンスが「神父を吊るした場所よ」と声を掛けてくる。以前は同じ場所に教会があり、水の奇跡を求めて遠方から多くの人が訪れたのだと言う。その点は今も変わらない。
*神父の死について「男爵が妹と結婚した事が原因だ」と話すと、ワトキンスは「興味深いわ、調べないと」と言う。彼女と親しい老人ヒルやナイールによれば、彼女は[素人歴史家]だそうだ。ヒルはストックホルムから、ナイールはロンドンからこの療養所にやって来ている。ワトキンスは40年間ゼロックス社に勤めていたと言い、患者は皆裕福な老人らしい。「ペンブロークとNYへ戻る」と言うと、3人の老人は驚いた様子だ。運転手が話していたように、ここを離れる患者は殆ど居ない。
*ロックハートは庭の片隅で、貯水池に餌を撒く少女を見付ける。高い塀に立っていたあの娘だ。名前はハンナ。深い池の底には何かが居るらしいが、地上からそれを視認する事は出来ない。彼女だけが年若く「君も患者なの?」と尋ねると「ヴォルマー所長が私は[特別]だと言うの」と答える。「あなたも治療に来たの?」「いや、帰るところだ」「帰る人は居ないわ、最高の場所だもの」
*確かに美しい場所だが、ロックハートは会社へ戻らなくてはいけない。どんなに待っても車は来ず、面会時間を過ぎた受付には誰も居ない。苛立ちながら609号室へ向かうと、部屋を片付けている看護師達が居た。「この部屋の患者は?」と尋ねると1人の看護師が「あなたじゃなかったの?」と嗤う。
*食堂でヴォルマー所長を見付けて問い詰めると「ペンブローク氏は残念ながら症状が悪化した」と言う。「君が急に仕事の話をしたからかもしれないな。治療を次の段階へ進めたよ」常にはぐらかされ、ペンブロークとの接触を妨害されていると感じるロックハート。患者はただの水に大金を払っている。治ってしまえば金を巻き上げられない。患者に病気だと思い込ませて、ここから帰さないようにしているに違いない。
*そんな考えをヴォルマーにぶつけるが彼は素知らぬ顔で「顔色が悪いな、具合が悪そうだ」と言う。自分も病気だと思わせたいのだろうか?しかし実際にロックハートは鼻血を流し、眩暈を覚える。別のテーブルにはハンナも居るのが見える。ロックハートは沢山の料理が乗ったテーブルクロスを掴んで、その場に倒れ込む。
*ヴォルマーに診てもらうが脳震盪ではなさそうだ。「水は飲んでいるかね?引き続き飲むように」所長のデスクの上には、ハンナの写真が飾られている。「彼女は特別な患者だ。幼い頃のトラウマで、発達が遅れた。11歳まで言葉を話せなかった。私には娘も同然なのだ」
*2人の関係は不可解なままだが、所長はロックハート自身の事を話し始める。「体液のバランスが悪く、主要臓器が疲弊し免疫不全寸前だ。最後に元気だと感じたとはいつだね?ここに来る前に朝まで熟睡したのは?心は嘘を吐けても、身体は無理だ」思い当たる部分もあり、現に先刻は倒れてしまった。「治療にはとても簡単な浄化法を用いる。ストレスから解放し、シンプルな生活に戻す。今のペンブローク氏に旅は無理だ、君にも治療を勧めたい」
*この部屋には自分のものを含めて、患者のカルテが置かれているようだ。「看護師に手配すれば、直ぐにも治療が始められるかもしれない」と言われ「必要があれば治療を」と答えると、所長は席を外す。その隙にペンブロークのカルテを抜き取り、服の下に隠す。小さなガラス瓶がキャビネットから転がり落ちそうになるがどうにか掴み、椅子から立ち上がっているのを怪しまれないように飾られたペンダントに手を伸ばす。VRと刻まれているペンダントトップ。
*戻って来た所長に「フォン・ライヒマール?」と問い掛けると「建て直し中に見付かったものだ」と言う。「男爵のものですか」「男爵夫人だ。彼女は病弱で、男爵は治療法を探していた。ここの水の効能を発見したのは彼だ」「妻を愛していたんですね…妹のように」ロックハートが揶揄すると、ヴォルマー所長は少し笑い「歴史は道徳的な見地から彼を非難するだろうが、私は科学を志す者として彼を崇拝している」と言う。
*ロックハートは隔離棟へと誘導される。先ずは採尿し、容器を所定の場所へ。そこには多くの患者の検体が並んでいるが、不純物が目立つ容器のラベルを思わず確認する。それは数少ない顔見知りであるワトキンスのものだった。次いで、服を脱いでレギュレータを咥えて、大きなタンクの中で水に沈む。「地球の生命は水から誕生した。人間は命を得て生まれるまで羊水の中に居る。身体はほぼ水だ」と言うヴォルマー所長。それは[感覚遮断タンク]と呼ばれていて、胎児への回帰を疑似体験出来るらしい。心と身体を洗浄する治療。30分間水に沈み、何か問題があればタンクの壁を叩く。
*所長がスタッフに任せてその場を後にすると、ロックハートの脳裏には父との思い出が浮かぶ。雨の中、橋の上の父。もっと前の晴れた日、一緒に空に浮かべたカイト…やがて水中に、蛇のような生き物が出現する。大量に蠢くものに動揺して必死に壁を叩く。丸い窓の外では看護師の男女が向かい合っていて、こちらは見ていない。服を脱いだ女を見ながら男が自慰をしている。女が男の口に、ガラス瓶の液体を垂らす。ホースに蛇が絡まり口から器具が外れてしまい、ロックハートは呼吸が出来なくなる。
*ラジオからブラックマンデーについてのニュースが流れる車内。車を停めて、息子を残して雨の中へ出て行く父。橋の欄干に立ってそのまま落下する…父の死の記憶。タンクで意識を失くして、水中から助け出されるロックハート。「中に何かが居る」と訴えるが、看護師が調べてみても何も見当たらない。身体の毒素が抜け、幻覚を見る患者も居るのだと説明される。部屋に戻され、社長のカルテを見てみるが内容は分からない。カルテには歯の抜けたレントゲン画像が挟まっている。窓の外には教会の跡があり、カバーを被せたストレッチャーを運んでいく人影が見える。
*翌朝、前庭でワトキンスに話し掛ける。教会跡が現在何に使われているのか、彼女も知らないと言う。ワトキンスは「城が焼かれた理由は男爵の結婚じゃないわ、実験に気付いたの。小作人で実験をしていて、行方不明者が続出。畑を耕しているとミイラのような遺体が発見された」と話す。「男爵は病弱な夫人のために治療法を研究していたらしい」とロックハートが言うと、卓上に広げていたクロスワードパズルのマスに[CURE/治療]と書き込むワトキンス。2人の会話を遮るように看護師が、ワトキンスの治療時間を告げる。別れ際に彼女は「この診療所には闇がある」と囁く。
*教会跡の扉には鍵が掛かっていて、中を見る事は出来ない。ストレッチャーを運んでいた男に尋ねてみても、ドイツ語で話すばかりでロックハートには意味が分からない。そこへ自転車に乗ったハンナが姿を見せる。貯水池の水を覗き込む彼女に「泳ぐの?」と訊くと「禁止されてる。身体に良くないから」との返事。「水で治すんじゃないのか?」「私だけ特別なの」「そうだったね」
*町までは数キロ。骨折している身では厄介な距離だ。ハンナは「何かくれたら自転車を貸しても良い」と言う。バレリーナの人形を差し出すロックハート。「目を閉じてるわ」「夢の中で踊ってるんだ、気付いてないけど」「目覚めたらどうなるの?」「分からない、母に聞けなかった」自転車を借りられたとしても、骨折した足では乗る事が出来ない。「一緒に来て」「外出も禁止なの」「いつも良い子で居たい?」
*ハンナが自転車を漕ぎ、後ろにロックハートが座る。躊躇いながらも門扉を通り抜けるハンナ。裸足のままで初めて町に辿り着き、僅かに笑顔を浮かべて周囲を見回している。電話を掛けようと入ったパブには、例の運転手が居た。療養所から金が支払われ、新車を買ったらしい。「全ては必然だ」と話す運転手とロックハートを遮るように、保安官が間の席に座る。彼は「療養所からか?患者が来るのは珍しい」と言う。町に医者や薬剤師は居ないかと尋ねると「全て療養所に居る」との答え。そこで店主が「ピーターが向かいに住んでいる」と教えてくれる。「医者ですか?」「その類いだ」保安官はそのまま立ち去る。
*ピーターを訪ねる前に、2人でビールを飲む。ハンナにとっては初めての経験だ。彼女は覚えている限りずっと療養所に居るのだと言う。母親は火事で死に、父親は自分が治れば迎えに来る。会話の途中で、ペンダントにしている小瓶の中からビタミンを摂るハンナ。味見させてもらうと、腐った魚のような味がする。
*ハンナをパブに残して、ロックハートは向かいの建物へ。中に居た少年に声を掛けるが反応はない。彼は燃え上がる城の絵を描いている。「返事は出来ないんだ。孫のウィルモッシュは怖い話が好きで、そんな絵を描いている」そう言って姿を見せたのがピーターだ。彼の専門は動物らしいが、金を支払うとペンブロークのカルテを見てくれる。社長が病気である事は確かで、歯科のカルテも含まれている。特定の持病がなければ、慢性脱水症で歯が抜け落ちた可能性がある。水ばかり飲まされる療養所で、脱水症とはどう言う事なのか。
*ロックハートはミイラ化した遺体の件を思い出し、男爵の実験の話をする。ピーターは「夫人は病気じゃない、子供を産めなかったんだ」と言う。「奇形の子を母体が拒絶したって話だ。…そろそろ良いか?牛を安楽死させてやらないと。行っちゃいけない場所に行って、足を折ったんだ。あんたみたいに。そして排水路にハマり、下水を飲んでた」ピーターが牛の腹を裂くと、血と内臓が溢れる。草食である牛の内部で孵ったのか、魚等も居る。妊娠していた牝牛らしく、牛の胎児も床に転がる。
*パブには若者達も集まっている。トイレで「タンポン持ってない?生理が始まっちゃって」と話し掛けられるが、反応せずに個室へ入るハンナ。やがて人が居なくなった洗面所で、置き去りになっている口紅を拾う。ジュークボックスでは青年にコインを差し出され、曲を選ぶ。身体を揺らすハンナを見詰める人々。
*そこへロックハートが戻り、ハンナを気にしつつも会社へ長距離電話を掛ける。ペンブローク社長は謂わば健康マニアで、持病はなかったと分かる。同時に、会社には事故について一切連絡が入っていなかったと知らされる。「この任務の重要性を忘れたか?4日前に戻る筈が…24時間以内に社長と飛行機に乗らないと、会社も君もお終いだ」
*青年がハンナに密着して、身体に触れている。彼女の腕を掴み「帰る人は居ないと言ったな?何が起きてるんだ?」と詰め寄る。「何故ペンブロークに会えない?この液体は何だ?」「痛いわ、放して」青年が話し掛けてくるのを跳ね除けると、松葉杖を払われ倒される。揉み合いになるが片脚のロックハートには不利な状況で、更に相手はナイフを取り出す。そこへヴォルマー所長が駆け付ける。怯えるハンナを車に乗せて「大人に見えても彼女はまだ子供だ」と言う所長。彼はペンブローク社長に会わせる事を約束して走り去る。別の車に乗せられ、療養所へ戻るロックハート。
*ハンナは外出を咎められ、ヴォルマーに反抗的な態度を取る。腹部が痛む素振りを見せるとヴォルマーが症状を確認しようとするが、それを拒絶。どうにか宥めるヴォルマーに「私はいつ治るの?父さんに会える?」と尋ねる。髪を撫でて「もう直ぐ治る。ずっと私が世話してきただろう?心配しなくて良い」と答えるヴォルマー。
*広い部屋にぽつんと置かれたバスタブ。ハンナが起き上がり、顔を覗かせる。彼女に近付こうとすると、水ではなく無数の蛇に浸かっているのだと分かる…それはロックハートが見た悪夢だった。外はまだ暗い。水を飲み窓の外を見ると、今夜も教会跡にストレッチャーが運び込まれている。それも気になるが、ロックハートは自分自身の身体に違和感を覚える。突然1本の歯が抜けてしまったのだ。
*宿直の看護師に事情を説明すると、歯を受け取り「牛乳に浸しますね」と言う。彼女が奥へと消えると、カウンターに置かれたリストを盗み見る。ペンブロークは注入棟と言う場所に居るらしい。その場所を突き止めて中に入り込むと、暗がりでストレッチャーに横たわるワトキンスを見付ける。ペンブロークがここへ移されたと伝え「実験が再開されているらしい」と言うと、ワトキンスは「実験じゃなくて治療よ。結婚式の夜、彼女は妊娠してた」と話す。「男爵の妹を焼き殺す前に村人達は胎児を取り出し、地下水脈に捨てた。彼女は知らないのよ」
*腕を伸ばし、ロックハートの肩を掴んだワトキンスの皮膚の下で何かが蠢く。思わず腕を振り払って後退ると薬品棚を倒してしまい、スタッフが駆け付ける気配がする。どうにか物陰に隠れて遣り過ごし、途中で盗んだ煙草に火を点ける。少し落ち着くと、その部屋には幾つもの水槽が並んでいるらしいと分かる。電気を点けてみると、それぞれ水槽には人間が沈んでいる。その中にはペンブローク社長も居た。ロックハートが入ったタンクとは違い、呼吸が可能な状態でもない。生きているとは思えないが、社長の身体が僅かに震える。驚き松葉杖でガラスを叩いてみても、傷の1つも付かない。
*已む無くその場を離れると、途中でヴォルマー所長に遭遇してしまう。「迷っただけです、歯が抜けて動揺して」と話すと、全ての患者の歯を診ていると言うブレナン医師の治療を受ける事になる。ハンナを連れ出した事を詫びると所長は笑顔を浮かべるが「この施設では麻酔は使わないんだ」と言い、椅子から動けないように固定されてしまう。「信用するんだ、信頼がなければ治療出来ない」そう話すヴォルマー所長はペンブローク社長のカルテを抱えている。歯科医は抜けた部分を処置するのではなく、問題のない前歯にドリルを押し付けてロックハートの歯をへし折る。
*裕福な新しい療養患者が到着し、送迎車が町へ戻ろうとするとロックハートが車に転がり込む。「早く車を出せ」とロックハートが叫ぶと、驚きながらも運転手は町へと出発する。警察を訪れ、無理矢理に歯を抜かれたと訴えるロックハート。「あれは脅迫です。僕が彼等の秘密を知ったから。遺体が標本みたいにタンクに浮いていました」自分は余所者で身分証は施設に預けている。身分確認のための連絡先を問われ、会社の電話番号を伝える。
*保安官が電話をするために姿を消すと、ロックハートは安堵して笑い出す。彼は信頼出来そうだ。部屋を見回すと、棚に青い小瓶がある事に気付く。窓の外には車が何台か到着する。パブにヴォルマーがやって来たのは、保安官が姿を消した後だった。やがて保安官がヴォルマー所長と共に戻って来る。
*卓上に置かれていたナイフを掴み、所長や保安官を威嚇する。彼等はロックハートを腕尽くで連れ戻そうとはせず、整然と説明する。入院申込書にサインをしている事・ロックハートが暴力的で社長を強引に連れ帰ろうとした事・カルテを盗んだ事等を並べ立てる。保安官も「会社に確認したことろ、君は証券取引委員会に調査されている」と言う。「グルなんだろ?実験の事を知ってるぞ」と告げても、ヴォルマー所長に「彼はワトキンスさんとよく話していた。心の病で入院歴がある患者だ。誰も信じない話を、彼は信じてしまったようだ」と言われてしまう。
*「君のような患者は過去にも居た。幼少期のトラウマが表面化したのだ。君は父親の死に対して罪悪感を抱えていたのだろう」話していない父の死について知られている事に困惑するが「僕はペンブローク社長の死体を見た」と食い下がる。しかし所長は、ペンブロークを連れて来ていた。勿論生きている状態で。社長は「強引に帰国させようとした男だ。私に近付けないでくれ」と言う。「告訴しますか?」との声に所長は「彼は犯罪者ではない、患者だ」と微笑む。
*ロックハートは療養所へ戻る。机にはワトキンスが読んでいた本が置かれ、彼女と同様にクロスワードパズルを広げている。他の患者と共に、常に水に近い治療。そのまま時間が過ぎるかと思われたが、ロックハートはガラスのコップを割ると、その破片でギプスを切り裂く。松葉杖がなくても問題なく立つ事が出来る。治ったのか元々骨折していなかったのかは分からない。
*教会跡、暗い地下通路を抜けると怪し気な実験器具が無数に置かれたエリアがある。そこには恐らく男爵夫人のものであろう、青いドレスの肖像画が飾られている。VRと刻まれた見覚えのあるペンダント、その顔にも既視感がある。ハンナにそっくりなのだ。更に奥へ進むとストレッチャーが置かれていて、今度はもう息絶えたワトキンスが乗せられている。人の気配に身を隠すと、別の死体も運ばれてきた。2人の遺体は干乾びて見える。死体が地底湖へと落とされると、その肉に水中の蛇が群る。隠れている事を察していた作業員に襲われるが、シャベルを奪い取り相手を倒す。
*一方ハンナは拾った口紅を塗り、暗いプールへと入る。腹部が痛み、下肢の周囲が赤くなる。彼女は遅い初潮を迎えたが、知識がなく何が起こったのか分からない。更に水中に無数の蛇が現れて、彼女に擦り寄り取り囲む。ハンナがプールから駆け出すと、地下から戻ったロックハートと遭遇する。「逃げよう」とハンナに呼び掛けるが、動揺している彼女はロックハートを平手打ちして走り出す。食堂に逃げ込んで「この血は何?」とヴォルマーに助けを求めるハンナ。ワンピースを赤く染めた彼女に笑顔を浮かべるヴォルマー。
*ロックハートも食堂に辿り着く。ヴォルマーに対しハンナを自由にするように言い「部屋ではなくここで話し合おう」と提案する。大きな食堂の席は老人達で埋まっている。「彼のせいで病気になった。この施設が皆を病気にしている。水が原因だ。ミイラ化した遺体を見た。皆歯が抜けてるだろ?本来は健康なんだ」ロックハートの訴えに、老人達が1人また1人と立ち上がる。賛同してくれたのだ思ったが、彼等は「私は病気だ」と口々に言い、ロックハートを押さえ込む。
*ストレッチャーで注入棟へ運ばれ、身動き出来ないよう拘束される。その部屋には他にも多くの患者が並べられていて、隣に居るのはペンブローク社長だ。恍惚とした表情で「最高の気分だ」と言う。そこへヴォルマー所長が蛇のような生物を運んでくる。「これは素晴らしい生き物だ。この土地以外での寿命は長くて10年程度。だがこの土地では300年生きられる」
*ロックハートが考えた通り、人間にはここの水は有害だった。だが濾過する方法を男爵が発見した。自分の土地に住む小作人の身体を使って、水を精製し不老長寿のエキスを作り出す事に成功したのだ。嫌がる者を被験者にした事で代償も伴ったが、幸い時代は変わった。この200年は有益だった。ヴォルマーはそう話すと、太いチューブをロックハートの喉の奥深くまで押し込んで、水と生き物を流し込む。
*ハンナはいつも着ていた薄い水色のワンピースとは違う、青いドレスをヴォルマーから贈られる。「有害な外の世界から君を守ってきた。皮肉だがロックハート君には感謝せねば。君は大人になった」「でも私は病気よ」「私が永遠に君の面倒を見よう」差し出されるままに、不老長寿のエキスを飲み込むハンナ。彼女はバレリーナの人形を手に庭を歩き、ロックハートを見付ける。「バレリーナは目覚めたわ。…いつかここを出られるわよね?」「ここは最高の場所だよ」虚ろに笑うロックハートに、もう欠けた歯はない。ハンナは彼の手の中にバレリーナの人形を戻して立ち去る。
*夜にはハンナはドレスを着てヴォルマーの前に立ち、VRと刻まれたペンダントを掛けられる。キャンドルを手にした人々が周囲を取り囲み、皆で踊る。やがてヴォルマーはハンナを導いて教会跡の地下へ。青いドレス姿の肖像画のある場所。「ここは何?」「お前が出来た場所だ」カーテンを捲るとそこにはベッドがある。ハンナは既に200年生きている、ヴォルマーの娘だった。そして純血に拘るヴォルマーは、更にハンナにも自分の子を産ませようとする。ハンナの腕を縛り、ドレスを剥ぎ取るヴォルマー。
*真実を悟ったロックハートも地下へやって来る。「ハンナを外の世界へ」「彼女がどうなると思う?外の世界が私にした仕打ちがこれだ」城が焼け落ちた時にヴォルマーもダメージを受けたのだろう、偽りの皮膚を剥ぎ取ると黒く爛れた顔が現れる。予め油を撒いておいたロックハートは、自分の方へと近寄ったヴォルマーに向けて着火したライターを投げる。燃え上がるヴォルマーの身体。火は燃え広がり、排気口から火の粉を吸い上げた地上階へも燃え移る。
*ヴォルマーは身体の火を消し止め、ロックハートを追い詰める。咄嗟に掴んだストレッチャーに乗せられていたのは、ペンブローク社長の遺体だった。ロックハートを捕まえて首を締め上げるヴォルマーを、初めて「お父さん」と呼ぶハンナ。彼女は振り返ったヴォルマーの頭にシャベルを振り下ろす。頭を割られて水に落ちたヴォルマーの身体に、水中の蛇が群る。ハンナは水にVRのペンダントを投げる。燃え落ちる男爵夫人の肖像画。
*2人が地下から逃げ出すと、地上では診療所全体が燃えている。必死に水を運ぶ者・外へ出ても踊り続ける者…ロックハートが茫然とその光景を見ていると、ハンナが自転車を運んでくる。今度はロックハートが自転車を漕ぎ、ハンナが後ろに座る。
*夜の道を走っていると、やって来た車と接触する。乗っているのは会社の幹部達だ。彼等はロックハートに気付いてペンブローク社長について尋ねる。「社長は死にました」「どう言う事なの?」「車に乗れ、君の任務を忘れたのか?」ロックハートは幹部達の言葉を聞き入れず、車ではなく自転車に乗る。「イカれたの?」「いいえ、最高の気分です」ロックハートは危うい笑顔を浮かべて自転車で走り去る。ハンナは無表情に、ロックハートにしがみ付いている。

■雑感・メモ等
*映画『キュア 禁断の隔離病棟』

*レンタルにて鑑賞
*水と鰻の療養所サスペンス

*ウナギなのか似ているだけの架空の生物なのか分からなかったからネタバレ内では明言しなかったけど、取り敢えず見た目は限りなくウナギ。
*不老長寿の効果があるけどそのままではヒトに有害な水を、ヒトを用いて精製していると言うのが骨子。どこからどうやってエキスを抽出しているのかはちょっと分からなかった。
*もう1つ分からなかったのが警察関係者の役職で、適当に保安官と言う事にしたけどそんな役職はスイスにないかもしれない。署長とか警部とか辺りの方が妥当なのかも。
*予告編を見た時は、絵面は綺麗だけど雰囲気重視であれこれ解決しないタイプの映画かもしれない。と言う印象だったけど、意外と明瞭に決着する。前半はサスペンス調で後半はファンタジー寄りホラーと言う趣き。ハッピーエンドと言えるけど、デハーンの笑顔が不穏なので先行き心配にはなる。
*交通事故に遭った時のフラッシュバック、母の火葬は現実なのかな。あの部分に関しては、他の映像は主に未来(或いは後に知る事)なんだよね。出張前に面会して直ぐにも出発する必要がありそうだったから、母の死と火葬を経る時間はあったのかなと。
*ネタバレ内では端折ったけど、1912年撮影の写真の隠れた部分にハンナが映っていると言うエピソードがある。ハンナとヴォルマーと思われる人物(顔に包帯を巻いている)が手を繋いでいる。城が燃え落ちたのは200年前、となるともしかしてこのお話は未来の設定?と思ったけど、単に写真を撮影したのが100年程前でその100年程前に城が燃え落ちたのかな。ヴォルマーは100年以上包帯生活だったと。自分の事を「崇拝してる」とか褒め立てるの、少し笑う。