■あらすじ
ニューヨーク州の小さな町で暮らすパーカー一家は、思慮深く、善良な人々として知られていた。厳格な父親・フランクの元、家族は静かに暮らしていたが、ある日、母親のエマが不慮の事故により亡くなってしまう。悲しみに暮れる中、美しい姉妹・アイリスとローズは、母親の代わりに一家を支えなくてはならなくなった。彼女たちに与えられた役割は幼い弟のロリーの面倒を見ることと、先祖代々一家に伝わる恐ろしい儀式を引き継ぐことだった…。折しも町を襲った嵐のせいで、木々はなぎ倒され、川は氾濫する。激しい雨に洗われた大地では、地元の医師・バローは奇妙な骨片を発見する。それは、パーカー家が抱えるおぞましい秘密へと続く手掛かりだった…。(メーカーサイトより)
■ネタバレ
*It is with love that I do this.God's will be done./Alyce Parker
*金曜日/激しい雨の中、車を走らせ「神よ、子供達をお守りください」と呟くエマ。雑貨屋で生活用品を買い込む。掲示板には行方不明者の貼り紙。彼女は吐血して倒れ、鉄の棒に頭をぶつけて用水路に沈む。破れた袋からはロープや懐中電灯が転がり出る。
*帰らぬ母を待つ2人の娘、姉アイリスと妹ローズ。最近母は頭痛が酷いようだが、父は医者に診せる事を許さないだろう。降り止まない雨の中、母の訃報が入る。まだ幼い弟ロリーは状況が分からない様子で、玩具で遊んでいる。ロリーがお菓子を口にしようとすると父が腕を掴み、厳しい口調でそれを止める。
*死体の身元確認をするために、娘達が警察へ出向く。出迎えた医師バローにより、母はこの後検視される事になる。父は落胆が激しく、警察へ行くのは娘達に任せて家の外で項垂れている。隣人マージが慰める。「彼女は今安らぎの地に居るわ」「そうか?信じるか?」
*医師の所見で、母にはパーキンソン病の初期症状があったらしいと分かる。2日後の[子羊の日]はどうするのか、父に尋ねる娘達。「何があってもやる、これからも続ける」と父は言う。「アイリスが長女だから、これからは彼女に任せる」と。雨は降り止まず、家の近くの木が倒れる。
*経営しているトレーラーパークの様子を見に行くアイリス。父は一人で出掛けて、ハザードランプを点けている車の傍で停まる。故障したのか路肩に停まっている車。近付く父の手にはバールが握られている。
*土曜日/犬の散歩中に、川辺で小さな骨を拾う医師。その頃キンブル家の両親が警察を訪ねる。娘ヴァレリーが帰って来ないのだ。「友達の家で、連絡出来ずに困っているだけかも」と警察は真剣に取り合わない。道路が閉鎖され、電話線も切れているからだ。「24時間経っても戻らなければ捜索を開始する」と言うと母親が泣き崩れ、同情した保安官は結局直ぐに手配をしてくれる。
*母と同様、父にも手の震えが出ている。先日慰めてくれたマージに「昨日の礼に」とブローチを手渡す。午後には母の葬儀がある。「息子はまだ幼いから、その間預かって欲しい」と頼む。
*子供達は今、食べ物を口にする事を禁じられている。幼い弟は我慢が出来ない。可哀想に思ったローズはお菓子を少しだけ与えて、自分も1つ口に放り込む。まだ14歳の妹は「こんな事はおかしい、もう止めにしたい」とアイリスに訴える。「私だって止めたいわ、来年までに手を打つ」と姉は言う。
*その頃、1人になったロリーは地下室へ。そこには捕らえられた人間が居る。見付けた父が地下室に入った事を咎めると、弟は怯えた様子で「お化けが居た」と言う。「いつか暗闇が怖くなくなる方法を教える」と言う父。
*母の葬儀、小さな町で様々な人が来てくれる。医師や保安官補アンダースも居る。葬儀の後で父は[初代の日記]をアイリスに手渡す。日記を読む姉。『1781年12月24日/父が家を建てた。山の上、谷を見下ろす静かな場所だ。森は恵み豊かで人工的な工業とは無縁の土地。今年は冬の訪れが早い。母は子供に食料を回した。父とバーネット伯父さんは狩りへ。無事に戻る事を祈る。恐らく自然の残酷さを私達はまだ知らない』
*日記を読んでいるとアンダースが訪ねて来る。彼は「自分が父を亡くした時も辛かった」とアイリスを励ます。「ヴァレリーはこの家の前を良く通っていたから」とキンブル家の娘の行方を尋ねるアンダース。彼は「落ち着いたら映画と食事に行こう」とも言う。それこそが訪問の目的だったのかもしれない。保安官補が立ち去ると、ローズは「学校で好きだった人よね」と言う。「まあね」と返事をする姉。
*医師は見付けた骨について報告するが「この雨で墓地から流れ出たのでは」と保安官ミークスは言う。「墓地は下流になるのに、逆流したとでも言うのか?」と強い調子で言う医師。それでも「ヒトの骨かどうかも分からないため捜査をする事は出来ない」との返事。長い雨と小さな町での行方不明者で、保安官も手一杯なのだ。医師の娘も過去行方不明になっており、慮って言葉を濁す保安官。
*ローズは日記の続きを読む。『今日バーネット夫人が死んだ。母は衰弱が酷く冬を越せそうにない。今朝、父が生肉を持ち帰った。バーネット伯父さんは集落を目指し東へ向かったそうだ。彼がここへ戻る事はないだろう。神は全て許すと父が言う』…
*アイリスは父に「私達がもしこうじゃなかったら?」と問い掛ける。「我々は神に選ばれたのだ。神に従わなければ、毒で病いに倒れる。1人ずつ…迷いがあれば隠せない。神は全てお見通しだ。お前は強い子だ」父に説き伏せられて「分かってるわ、あと1日…」と呟く姉。
*日曜日/朝のダイナーで、保安官の代わりに保安官補アンダースに声を掛ける医師。骨を見せて「家の裏の小川に流されていた。人間の骨だと思う」と伝える。この小さな町で、20年で3人が消えている。半径80kmの範囲に広げると、少なくとも30人が行方不明になっているのだ。「明日骨を見付けた場所を教えて欲しい」と保安官補は言う。
*ロリーが熱を出し、慌てる姉妹。マージが手助けに来てくれる。彼女の指を咥えて、やがて噛み付く弟。「お腹が空いたよ」と訴える弟に怪訝な顔をする隣人を、父は追い出すように外へ連れ出す。父は鼻血を流している。「火の傍に居てのぼせたんだ」と言うが、母と同様にやはりその手は震えている。
*日記はアリス・パーカーによって書かれている。1782年、子羊の日。『母は神に召された。残るは私達3人。父はこの数週間ですっかり変わった。小屋で聖書を読み、夜になると咽び泣く。父が抱える重大な秘密が分かったような気がする。秘密が明らかになって、私は生きるのが重荷になった』吊るされた犠牲者、刃物を手渡されるアリス。『これは愛のための行為、神の意のままに』
*町では池に車が落ちているのが発見される。車から投げ出されたらしい死体も。死んでいたのはヴァレリーだった。彼女は続発する行方不明とは無関係だったのだ。姉妹は地下室へ。そこにはキンブル家の娘とは別の獲物が捕らえられている。姉が嫌がる妹を説き伏せ、2人で拘束された女性を押さえる。妹はやはり狼狽えるが、姉が獲物を殴り倒す。そこへ寝惚けた弟がやって来る。「お化けをどうしたの?」「退治したわ」
*弟を抱えて部屋に戻る妹。姉は獲物に止めを刺すが、事が終わると座り込んで嗚咽する。戻ってきた妹が姉を立たせて、獲物を解体する。もうこんな事は最後にすると誓い合いながら。
*父は弟の身支度を整える。姉妹も正装して準備する。マージがロリーの様子を気にして、ラザニアを差入れがてらやって来る。隣人は「小屋の方で少女の泣き声のようなものを聞いた」と言うが「気のせいよ」と追い返す姉。食卓にはラザニアは並ばす重要な食事が始まる。祈りの言葉を経て料理を口にした父が「美味い、母さんも喜ぶ」と姉を讃える。妹も躊躇いつつも料理を口にする。
*月曜日/アンダースと共に川を探る医師。すると光沢のある骨が見付かる。「何故骨に光沢が?」「茹でたからだよ」医師は遺体安置所へ、アンダースは上流へ向かう。やがて姉妹の家に近付くと、保安官補は古い歯のような物を見付ける。濡れてしまったアンダースに、アイリスは「父の靴下を貸すわ」と言い家に招き入れる。
*何をしていたのかと尋ねるとアンダースは「流されたらしい骨を見付けた」と話す。「上流の方、滝の直ぐ下に先祖の墓があるからそれかもしれない」と言って姉が靴下を取りに行くと、メールを打つアンダース。ローズも姿を見せて、保安官補を警戒する。「墓に案内する」と言いつつアイリスはナイフを隠し持っている。2人が出掛けると、父が家に戻って来る。
*医師は拾った骨を調査。焦げた箇所やノコギリの刃の跡が見える。医学書を確認すると、母の検視結果はパーキンソン病の症状に一致する。震え・硬直・動きの鈍化・不安定…アルツハイマー病・プリオン病にも同様の症状が出る。プリオン病を調べると、関連事項としてクールー病の記載がある。クールー病の症状は震え・動きと思考の鈍化。主な原因は人肉食とある。脳細胞の摂取によって引き起こされるようだ。理由は分からないが、何が起こっているのかを理解する医師。
*森の中で「君が好きだ」とアイリスに告げるアンダース。2人はその場で抱き合う。セックスの最中、父が保安官補にシャベルを振り下ろす。彼は頭から血を流して倒れる。「アバズレめ…弟は1人で居る、妹は何処に居るか分からん。帰って弟の面倒をみるんだ」怒声を上げる父。姉は一言も発せず、怯えて家へ帰る。
*父はその場で穴を掘り始めるが、その手は震えている。家に戻るとアイリスはアンダースの服を焼く。泣いていた姉だが、父が戻るとどうにか嗚咽を止めようとする。「消えろ」と言い放つ父。自分達の部屋で、姉を抱き締め宥める妹。「父さんが眠ったら出て行こう、トラックで町へ出てやり直すの」傍には弟も居る。父は外に出て怒り狂い、神への祈りの言葉を唱えながら木に斧を振り立てている。
*父は川辺に骨が転がっているのに気付く。今までのように小さな物だけではない、頭蓋骨もある。大きな骨が無数に下流へと流れている。長年蓄積されていたものがこの嵐で押し流されているのだ。必死に拾い集めようとする父だが追い付かず、骨が次々と下流へ流されて行く。水面に横たわり、叫び声を上げる父。
*医師は警察へ出向く。アンダースは不在だ。「花火会場に居るかもしれない」と事務所に居るエミリーが言う。ミークスは交通事故で呼び出されている。犬を預ける口実でエミリーの気を引いておいて「忘れ物をしたから」と事務所に戻る。拳銃を持ち出し外へ。念のため花火大会の会場を探すがアンダースもミークスも見付からない。メールを送信する医師。
*遠くの花火を自室の窓から見るロリー。ローズが話し掛ける。「勇気を出して欲しいの、私が何か言ったら注意深く聞いてちょうだい」無言で頷く弟。家に戻った父が正装し、食事が始まる。父がキッチンで準備していると、持ち帰ったアンダースの携帯がメールを受信する。医師からのもので『パーカー家が怪しい、これから向かうから落ち合おう』と言う内容だ。
*父は全てが露見する事を覚悟して、料理にヒ素を仕込む。最後の食事が始まる。ヒ素の瓶が動かされている事に気付くローズ。必死でアイリスに危険を伝えようとするが上手くいかない。先ずロリーが食事を口にしようとして、ローズは思わず皿を叩き落す。父が口を開こうとした時、医師がやって来る。
*「言い難い話だ」と医師が切り出すと、父は子供達に席を外させる。医師はアイリスの髪に見覚えある髪飾りを見る。「手の震えはいつからか、アンダースを見たか」と尋ねる医師。父は煙草を取り出しマッチを探しながら、拳銃が入った抽斗を開ける。「貴方の奥さんはプリオン病の中でも奇病を患っていた。ニューギニア先住民の病いだ。原因は人肉食だ」思わず立ち上がりそうになる父を制する医師。その手には銃が握られている。
*「娘を殺したのか?アイリスの髪飾りは娘の16歳の誕生日にプレゼントした物だ。私の娘を食べたのか?」「先生は神を信じるか?」「娘に何をしたんだ?」「信心深い人間はもう少数派か」「私の質問に答えろ」父は抽斗から銃を取り出し医師を撃つ。「止めて」と叫び身を乗り出すアイリス。父の銃弾はアイリスの頭部を掠め、医師の銃弾は命中し父が倒れる。
*ロリーの手を取り逃げ出すローズ。医師は立ち上がり銃口を向けるが、父は完全に意識がないように見える。キッチンカウンターの角に血の跡があり、頭部をぶつけたようだ。医師はアイリスを抱え起こし、血を拭ってやる。「しっかりしろ、君は助かるぞ」と声を掛ける。虚ろな目をして医師を見ていた姉の瞳が見開かれる。医師の背後に立ち上がった父が居り、フライパンで医師の頭部を殴打する。
*「すまなかったアイリス、愛しているよ。お前の妹と弟を連れてくるからな」と言いローズ達を追う父。車で逃げようとしていたところに父が追い付く。2人は車を這い出て隣家へ。助けを求めると家に入れてくれるが、父が押し入りマージの喉を切り裂く。手負いの父が荒い息でロリーを呼ぶ。「もう大丈夫だ、こっちへおいで。暗闇は怖くないぞ」ロリーは父の言葉に従って、抱き上げられる。ローズは泣きながら拒絶するが「アイリスも待ってるぞ」と言われ、泣き続けながらも父と共に家へ戻る。
*雨に濡れて、血で汚れた服で食事の準備をする父。アイリスは無言で座っている。「神は全てお許しになる」と言い、口付ける父。姉は無表情なままで、ローズは泣き続けている。「母さんにそっくりだ。泣くな、もう大丈夫だから」「…愛してるわ、父さん」泣きながら言うと、妹は父の首に噛み付いた。咄嗟にテーブルの下に潜り込むロリー。
*アイリスは驚き一瞬茫然とするが、テーブル上の父の手の甲にナイフを突き立てる。唸り声を上げて父の身体を噛み続けるローズ。肉を噛み切り一旦身体を離すと、父の肉を咀嚼する。そして再び首筋に噛み付く。姉はナイフで固定した父の腕に噛み付く。父は暴れて「止めろ」と叫ぶが、血塗れの娘達は視線を合わせると無言で父の身体を貪り続ける。やがて父は動かなくなる。それでも食べ続ける姉妹。
*やがて2人は落ち着きを取り戻し、ローズは髪飾りを倒れている医師の胸にそっと置く。姉妹と弟は家を離れて、トラックに乗り新しい土地を目指す。アイリスが運転席、助手席にはローズ。2人の間にはロリーが居て、浮かない表情の妹に抱き着くようにして眠っている。そして、妹の膝には日記が置かれている。
■雑感・メモ等
*映画『肉』
*レンタルにて鑑賞
*カニバリズム系ホラー
*食べる側のお話で、題材の割には静かに淡々と展開する。邦題はなかなかに直球。
*メキシコ製ホラー映画『猟奇的な家族/Somos lo que hay』のリメイク。あらすじを読んでみた感じ、オリジナル版とは展開が違うのかな。オリジナル版冒頭で死ぬのは父親で、胃から指が出たとか。(直訳しただけだから曖昧だけど。)リメイク版では母親が死に、実際の病気を絡めて描いている。
*その病気、クールー病はパプアニューギニアの風土病との事。wikiによれば通常罹患者は葬儀で遺体を食べた者である模様。「女性がその儀式の主な参加者」等の記載もあって、映画で母から長女へ引き継がれたのもその辺を意識したのかもしれない。
*『ステイク・ランド 戦いの旅路』『コールド・バレット 凍てついた七月』が好きだったので同監督のこの作品を見てみたけど、雰囲気は随分違う。『肉』は因習を巡る血族のお話で、前述の2本は疑似親子的な題材。共通しているのはどれも血生臭い事か。
*フライパンで瀕死状態になった医師があのまま息絶えるなら、そこが一番衝撃的。娘を食べられた挙句にこんな幕切れとは切な過ぎる。
*血縁者を食べる事から始まった人肉食を、家長を食べる事で終わらせるのかと思ったんだけど、ラストで日記を持っていた事と原題からすると彼女等の人肉食は続きそう。生き難いな。