■あらすじ
科学者の夫ウェルズを亡くし、傷心のヘレンに掛かってきた1本の電話。『あなたは狙われている、すぐに逃げて』。その警告は、何とヘレン自身からの物だった。謎を解く鍵は、ウェルズが研究していたタイムトラベル。危険な実験を止めようとしたウェルズは、何者かに殺されたのだ。それを知った“未来のヘレン”はタイムマシンで過去に戻り、犯人に復讐しようとしている。ヘレンは敵の追跡から逃げながら、事件の真相に迫り、“未来から来た自分による殺人”を阻止しようとするが…。(メーカーサイトより)
■ネタバレ
*ヘレン・フィリップスは1ヶ月前に夫ウェルズを亡くした。彼は睡眠薬を服用した上で、ガレージを閉めたまま車のエンジンを掛け自殺したのだ。科学者だったウェルズの仕事上のパートナーであるトーマスが「研究を続行する許可が欲しい」と申し出て、ヘレンはそれを承諾。2017年5月26日金曜日、大学のラボに立ち寄ると旧知のフローレンスが「いつでも使って良い」と部屋の鍵を渡してくれる。僅か1週間でエンジニアとして職場に復帰した事をトーマスは「もっと休むべきだ」と言い、フローレンスは「何かを作る事は気晴らしになる」と言うが、ヘレンはどちらにも浮かない表情だ。
*翌朝目覚めると、着た覚えのない青いパーカーに身を包んでいる。ウェルズの死後も外さないでいた結婚指輪は見当たらない。戸惑っていると、電話に非通知で着信がある。出てみると『逃げて、あと5秒程で黒いBMWで到着する。男から逃げるのよ』と女が言う。窓の外を見ると自分の車がなく、所有している山荘の鍵も消えてる。尋常ではない事態だ。やがて女の言葉通りに黒いBMWがやって来る。
*見知らぬ男がヘレンに呼び掛けながら家に入って来て、電話越しの女は『壁の影に隠れて、暫くキッチンに居て』等と細かく指示してくる。その声に従って、男と接触する事なく家の外へ飛び出すヘレン。裸足だったために途中でガラスを踏んで足を怪我するが、どうにか男の追跡を逃れる。ひとまず安全になると、女は『自分だけを信じるのよ』と言い残して電話を切る。ヘレンからは女の姿を確認出来ないが、相手は家の外から様子を窺って指示を出していた。彼女の携帯電話の発信先は[自宅]だ。
*ヘレン宅にやって来た男クラヴィッツは、トーマスの指示で動いている。「話を聞こうとしたら逃げられた」と報告すると、トーマスは「無事で居るならそれで良い、放っておけ」と言う。クラヴィッツは釈然としない表情だ。秘密が漏れた危険性もある。一方裸足のままで街を彷徨っているヘレンは、捨てられた新聞を見る。日付は6月2日金曜日、自分の最後の記憶から1週間後だ。同僚のアレックスを訪ねると、ヘレンはこの1週間行方不明で仕事も休んでいたと言う。週末は山荘に行くと話していたが、実際に行ったのかどうかも分からない。1週間分の記憶が消えているのだ。
*トーマスがヘレンの家へクラヴィッツを寄越したのも、消息不明のためだった。記憶がないヘレンを心配して「病院へ行こう」と促すアレックス。医者にこの状況が解決出来るとは思えないヘレンは、アレックスに頼んで共に山荘へ。ここにも車はなく、手掛かりになるようなものも見当たらない。やがてフォルクスワーゲンが山荘の近くに停車して、そのまま走り去る。あれはヘレンの車だ。
*ヘレンはアレックスに携帯電話を借りて、登録されている自分の番号へ掛けてみる。すると『アレックス、[彼女]と一緒ね?後でメールするわ』と声がする。それは自分が逃げられるよう手助けしてきた女で、ヘレンは「もう1人の私よ」と主張する。実はウェルズとトーマスはタイムマシンについて研究していた。「物理法則に反する、タイムトラベルは不可能だ」とアレックスは反論するが、秘密裏に人体実験も始めており、最大36時間過去へ戻せるのだ。しかし、被験者が1週間分程度の記憶を失った。状況からすると、ヘレンもタイムトラベルしたのだろう。
*記憶が消えた原因を突き止められず、ウェルズは憔悴していた。「研究所を離れて集中したい」と山荘で試作機の修正をしていたが、結局ここで自殺してしまったのだ。遺体の第一発見者はヘレンだ。彼女は、夫が自分と共に生きる人生を拒絶したと感じている。脳卒中で妻キャロラインを失くしたアレックスは「僕も[もしも]の世界から抜け出せなくなった。もしもあの時ああしていれば、とね」と話す。「3年経って、漸く『僕は生きていても良いんだ』と思えるようになった」
*ソファの傍に転がる腕時計を見付けるヘレン。ウェルズの愛用品だ。更にベッドの下には大きなケースがある事に気付く。暗唱番号は大学院時代に初めてウェルズとデートした日付で、そうなるとこれは自分が準備した物だろう。中身はライフル。そして壁に設置してある黒板には[メッセージ]が残されている。解くとビデオのフレーム率になる数式。アレックスは不可解そうな表情だが、ヘレンはこれがウェルズからの伝言だと確信する。理数系の2人の間で行われていたゲームで、この場合は山荘の何処かにビデオカメラが隠されていると言う意味なのだ。
*クラヴィッツはやはりヘレンから状況を確認するべきだと考え、その行方を追っている。彼は車で街を走り、やがてヘレンの車を発見。場所はホームセンターだ。追跡及ばず青いパーカーを着たヘレンを取り逃がすが、店長を買収して監視カメラの映像を入手する。この1週間で3回来店。購入品はタイマー・デジタルスケール・圧力鍋…彼女は爆弾を作ろうとしていると推測される。その事を報告していると、トーマスの携帯電話に着信がある。
*ヘレンは遂にリビングで、鹿の頭部の剥製からビデオカメラを見付ける。カメラはパスワードでロックされている。カメラを仕込んだのは何かを警戒していたウェルズで、映像を見たもう1人のヘレンがロックを掛けたようだ。解除出来ずにいると、山荘にトーマスとクラヴィッツがやって来る。ライフルで迎え撃つヘレン。彼女が冷静には思えず、トーマスを頼って電話をしたのはアレックスだったが、行動を共にする覚悟を決める。男の拳銃を奪い、BMWをパンクさせて山荘から逃げ出す2人。
*タイヤを交換したBMWが追って来る。逃げるヘレン達の車はスピードを上げ過ぎて横転するが、どうにか2人共無事だ。ライフルは街中では目立つため、男の拳銃だけを掴んで車外へ。バスに乗り込み逃げ果せたかに思えたが、拳銃にはチップが埋め込まれており追跡可能だった。そうとは知らず2人はホテルで部屋を借りる。もう1人のヘレンから『彼を生かしてはおけない。映像を見れば分かる筈よ』とのメールが届いている。パスワードはヘレンとアレックスの2人だけが知る言葉だろう。
*アレックスが妻を亡くした時、ヘレンはガリレオの言葉を引用した。『神は数学で宇宙を書いた』と。アレックスはそれに納得して、死後の世界を物理や化学で捉えた。エネルギーは保存される。キャロラインの霊や魂と呼ばれるものも、消えた訳ではなく何処かにある筈だ。[エネルギー][保存]と言った単語は弾かれるが[ガリレオ]でロックが解除され、映像が再生される。
*山荘のリビングにウェルズとトーマスが居る。2人は当初『過去を変えるためにこの技術を使わない』と誓っていた。目的は[可能だと実証する]事だけ。しかしトーマスは暗殺計画に加担しており、ウェルズは「手を引かないとマスコミに情報を流す」と言う。「試作機を壊す」とも。彼が席を立つと、その隙にトーマスが飲物のグラスに薬品を流し込む。睡眠薬だろう。眠り込んだウェルズを、トーマスが引き摺って行く。腕時計はこの時外れてしまったのだ。
*「あいつは嘘吐きだった、殺してやりたい」と憤るヘレン。もう1人のヘレンの目的も、メールに書かれていた通りにトーマスの殺害だろうと考えられる。今この場に居るヘレンは、人を殺した事を忘れているだけなのかもしれない。殺人者になる事を阻止するため、自分を過去に送り込んだのではないか?戻れるのは36時間、夫は無理でも自分を救う事は出来る。
*拳銃の信号を追って、クラヴィッツがホテルの部屋へ踏み込んで来る。アレックスが傷付きながらも、身を挺して窓からヘレンを逃がす。ヘレンは大学のラボへ。フローレンスは「様子が変で心配よ、今日は部屋に閉じ籠って私を中に入れなかった」と言う。部屋を見てみると作業の跡があり、15分程前までここに居たらしい。爆弾が完成したようだ。ヘレンは大学を飛び出すと、ガソリンスタンドで車を奪ってトーマスの研究施設へ向かう。トーマスと対峙し「あなたを救いに来た」と告げると、警備員に取り囲まれて研究施設へ誘導される。
*ホテルの部屋でクラヴィッツから事情を訊かれるアレックス。タイムマシンの詳細を知らされていないクラヴィッツは話をまともに取り合わないが、ウェルズ殺害の証拠となる映像を見ると態度を改める。クラヴィッツはアレックスを伴って研究施設へ。施設の一室でヘレンと対面したトーマスも、彼女の話を本気にしていない。タイムマシンの設置場所も操作方法も、ヘレンには分からない筈だ。ウェルズが教えていたとしても、この警備の中では接近不可能だろう。
*もう1人のヘレンは、ヘレンが拘束された際にウェルズのIDカードを使用して研究施設に侵入していた。自分を2人存在させる事で混乱を招き、タイムマシンに接近可能になったのだ。爆弾はトーマスを殺すためではなく、ウェルズの遺志を継いでタイムマシンを破壊するためのもの。その場に留まれば爆発に巻き込まれるが、ヘレンはタイムマシンで36時間前に戻る。結婚指輪を外してタイムマシンに入る自分の姿を、モニタ越しに見守るヘレン。トーマスが駆け付けようとするが間に合わない。
*爆発が起こり、クラヴィッツと共に到着したアレックスに助け出されるヘレン。爆風に巻き込まれたがトーマスも無事で、クラヴィッツの指示で連行される。タイムマシンだった装置は燃え燻ぶっていて、もう元には戻らない。一方ヘレンは日常に戻る。オフィスでアレックスが「今も何処かで繰り返してるんだね」と呟く。「ループし続けてる私達が居る筈よ」「僕等は抜け出せて幸運だった」「前へ進みましょう」
*ヘレンのデスクに送り主不明の封書が届く。中にはフラッシュメモリが入っている。添えられているのは『楽しかったわ、また会いましょう/ヘレンより』とのメッセージ。別の自分から届いたものだ。送られたのは山荘での動画。「少量のチタンを過去に戻した」と興奮した様子で話しているウェルズ。「タイムマシンの開発者に質問よ。もしも、いつ何処へでも行けるとしたら?」と過去の自分が訊く。「俺なら過去には戻らない。後悔やノスタルジアは死と同類だ。現在が良い」「本当に?全ての時空の中で?」「君と居る今だ、他に何も要らない」
*動画の中で笑顔の2人。目を潤ませながら、今のヘレンも笑顔になる。彼女はウェルズの腕時計を外して抽斗に仕舞うと、オフィスから外へと出掛ける。先に離席したアレックスと合流して、ランチを食べる約束だ。抽斗の中で、時計の針は動き続ける。
■雑感・メモ等
*映画『タイムトラベラー』
*レンタルにて鑑賞
*タイムトラベル系SFスリラー
*タイムトラベル系が好きだから、直球な邦題に安易に釣られて内容等は特に調べずふらりとレンタル。
*ジャケットの印象では、主人公が殺る気満々のSFアクションかと思ってた。実際には割と地味で、随所に過去の思い出や無意味なフラッシュバック等も挿入される。因みにヘレンは殆ど青パーカー着用で、パッケージ画像の服装にはならない。
*タイムトラベルすると約1週間分の記憶が消えてしまうと言うのが特徴的。あらすじでは『未来のヘレンがタイムマシンで過去に戻り、犯人に復讐』『未来から来た自分による殺人を阻止しようと』になってるけど、実際は未来から過去に戻った自分(直近の記憶なし)が主人公。
*タイムトラベル系では「1周以上ループしている未来の自分が過去の自分にあれこれ指示する」のが定番だけど、この作品の場合は「過去の自分が記憶を失くした未来の自分を補助する」と言う展開がある。指示してる方もその選択が正解なのか分かってない訳で、なかなか大胆。家の外から状況を確認しつつ指示を出すのは(無理があるけどまあ)良いとしても「5秒後に車が到着」なんて知ってる筈がないと思うんだけど謎。未来の(記憶を失くした)自分がどう動くかは分からないから、研究施設への侵入も随分強引だなと思う。
*他にも何かと謎が多い。研究所で36時間前に戻った結果、自宅で目覚めるのはどう言う訳なのか。
*トーマスが特に危険視している訳でもないのに、クラヴィッツがヘレンと接触したがる理由も分からない。あの時点では数日姿を消している程度の状態だよね。そもそもクラヴィッツは「あれがタイムマシンだとしても」みたいな事を言っていたから、装置の詳細は知らなかったぽい。それなのに「秘密が漏れたかも」とか何を危惧してたんだろか。(字幕には表示されなかった気がするけど、クラヴィッツの名前はIMDbより。)
*ヘレンも無断欠勤して心配されるより、適当な理由で休暇申請しといた方が良かったのでは。
*ラスト辺りでヘレンとアレックスが「何処かでループが続いてる」みたいな話をするけど、この(全てが巻き戻される訳ではなくて、ヘレンだけが36時間前に戻る)状況で、繰り返しに陥る要素があるのか理解出来ない。
*本筋とは関係ないけど、序盤ヘレンとアレックスがやってた[昼休みの時間をサイコロで決める]のはどう言うシステムなんだろ。6×6でも36分しか休憩出来ない?1×1だったらどうなるの?
*題材がタイムトラベルで、リンダ・ハミルトンが配されてるのはほんのり楽しい。トーマス役はグレン・モーシャワー。