■あらすじ
医療ミスによる訴訟で病院を追われた医師・シュルテンは、難民キャンプで働きながら違法に移民を逃すことで賠償金を稼ぎ、遺族による訴訟取り下げを目論んでいた。ある日、被弾し瀕死の重傷を負った少年・アリアンが運び込まれる。シュルテンはアリアンが重力を操り浮遊する能力を持ち、さらには傷を自力で治療できることを知り、金儲けに使えるとキャンプから連れ出すことに成功する。その頃、アリアンを違法銃撃した国境警備隊が口封じのため彼らを追い始めるが、行く先々で起こる失踪やテロ、不可解な事件の現場に少年の痕跡が残されていることに気付く―。(メーカーサイトより)
■ネタバレ
*「木星には67の月があり、最大の4つはガリレオが発見した。1つの月には塩の海があり、新たな命の揺りかごとなる可能性がある。その月は[エウロパ/EUROPA]と名付けられた」
*父ムラッドと共に、セルビア経由でハンガリーへと密入国しようとするシリア人の少年アリアン・ダシュニ。国境警備隊に見付かりボートが転覆、父と離れ離れになってしまう。森の中、必死の逃走の末に丸腰にも拘らず警備隊員ラズロに撃たれるアリアン。胸部に3発撃ち込まれ、本来なら死んでしまう筈だが生きている上に、彼の身体は宙に浮き上がる。
*シュテルン・ガーボルの部屋の窓辺に鳥の死骸がある。猫が運んだものだろう。アパートのエレベーターで乗り合わせた男達に聖書を勧められると「聖書は嫌いだ。赤ん坊の虐殺が出てくるし、拷問や不倫の話も多い」と突っ撥ねる。シュテルンは医師だが、医療ミスで将来有望なアスリートを死なせて病院を追われた。今は難民の一時収容所で働いている。病院に復帰したい彼は、収容所の難民を逃がしては金を稼いでいる。160万フォリントの賠償金を準備して、訴えを取り下げてもらうのだ。
*ラズロは少年に発砲しておいて、正当防衛を主張している。シュテルンはラズロの尻拭いをする事になりそうだ。ラズロに撃たれたアリアンを診ようとすると先ず靴紐が持ち上がり、アリアン自身も浮かび上がる。球体になり浮遊する血液。傷口を撮影しようとしていた携帯電話を思わず放り出すシュテルン。
*ラズロはシュテルンが先月だけで30人の難民を逃がしている事を持ち出し、脅迫めいた口調で報告書へのサインを強要する。シュテルンはこれを拒否。その結果ラズロから解雇を言い渡されて、アリアンを連れて収容所を去る。シュテルンの携帯に残された動画を見るラズロ。彼は不法な発砲を揉み消すため、アリアンを3日で連れ戻すと上司に請け合う。
*致命傷でも死なず宙に浮かぶアリアンを[天使]と捉えるシュテルン。彼はアリアンを利用して稼ごうと考える。パスポートを失くしたアリアンに「新しいパスポートがあれば国外へ逃げられる。それには200万フォリント必要だ」と持ち掛ける。アリアンは父親を捜しており、東駅で落ち合う事になっていたようだ。彼の腕には半分だけのヴァイオリンの刺青があり、もう半分は父親の腕にあると言う。その日シュテルンは、ムラッド・ダシュニのパスポートを持った別の男を収容所から逃がしていた。
*シュテルンはアリアンを伴って金持ちの男を往診。「追加料金を払えばもう注射は必要ない」と嘘を吐いて、アリアンを宙に浮かせる。男は神の御業だと思い大金を払う。機嫌良く帰宅するが、アリアンを捜してラズロが部屋を訪ねて来る。アリアンは窓から出て宙に浮かび、ゆっくりと降下して地上に着地する。シュテルンが車を回して2人は逃走。その後、シュテルンの元同僚で恋人のフェニヴェシ・ヴェラの部屋へ転がり込む。
*ラズロから逃れながら往診もする。その日は患者がアリアンを侮辱したため、シュテルンは「神が遣わした天使がお前に罰を与える」と言う。宙に浮かび重力を操るアリアン。彼の身体だけではなく、周囲の全てが回転する。壁や床に押し付けられながら「もう止めてくれ」と懇願する患者。
*上機嫌で高級レストランで食事しようとするシュテルン。アリアンは高価な料理よりもフライドポテトを欲しがるが、ポテトのみの提供はしていないと断られてしまう。それに怒ったシュテルンは「彼は1日で50万稼ぐ、空を飛べるからだ」と言い、その場でアリアンを浮遊させようとする。どうにかアリアンが宥めて2人で外へ出る。昼間に脅かした患者は飛び降り自殺している。
*妻が安楽死を望んでいる富豪の邸宅。「報酬は弾む」と言われるが、安楽死は違法だ。シュテルンが話している間にアリアンが浮かんで見せると、富豪の妻は満たされた表情を浮かべて息絶える。「教会に来てくれたら倍額支払う」と言われ「検討します」と返事をして邸宅を辞するシュテルンとアリアン。
*いつまでも東駅に行けない事でアリアンは苛立つ。しかも稼いだ筈なのにシュテルンは「金はない」と言う。怒ったアリアンは単身東駅へ向かい、父ムラッドを捜そうとする。父の名前を告げて指し示されたのは、ボート上で鞄を預けた男だった。男は父のパスポートを持ち、父の名前を騙っているようだ。詰め寄って父の行方と自分のパスポートの在処を尋ねるが、男はアリアンを振り切って駆け出す。
*男はある電車に飛び乗る。アリアンは同じ電車の少し離れた車両へ。追って来たシュテルンは電車に乗り損ね、窓越しに「次の駅で降りて合流しろ」と指示する。アリアンは返事をしない。電車がホームを離れて間もなく、シュテルンの背後で爆発が起こる。自爆テロだ。アリアンは幸い無事で、喧騒を逃れて浮上してビルの屋上に横たわる。
*テロに使われた鞄には、アリアンと父親のパスポートが入っていた。ニュースで2人の名前が流れる。アリアンの所在は分からない。シュテルンはアリアンが稼いだ金を持ち、医療ミスの被害者の親族を訪ねる。金を差し出して「訴えを取り下げて欲しい」と頼む。「手術台で起きた事の罰はもう受けた。自分の人生に戻りたい」と。しかし親族はこれを受け容れない。
*失意のシュテルンにイシュトヴァーンから電話が入る。彼は救急車に乗っており、いつも情報を流してくれるのだ。難民を逃がす手助けもしてくれている。「ヴァイオリンの刺青の男を見付けた」と言うイシュトヴァーン。遺体安置所へ駆け付けると、アリアンと対になる刺青をした男の亡骸がある。アリアンの父親だ。
*シュテルンはテロ被害者の慰霊の場を訪れ、キャンドルに火を灯す。隣りに居る女性が「私は天使を見た」と繰り返し呟いて、近くのビルを見上げている。アリアンが浮上するのを見ていたのだと察したシュテルンは、そのビルの屋上へ。そこにはまだ傷付いたアリアンが居た。足許が覚束ないアリアンを抱き止めて「もう逃げるな」と言うシュテルン。
*テロの犯人ではない、父も違うとアリアンは訴える。シュテルンは勿論それを分かっている。イシュトヴァーンから受け取ったムラッドの遺品を手渡して「残念だ」と告げる。父の死を悟るアリアン。シュテルンはもうアリアンで金儲けをするつもりはなく、彼が国外へ出る手助けをしようと考える。アリアンの靴紐が解けている事に初めて気が付いて、結んでやろうと跪くシュテルン。するとその頭をアリアンが撫でる。シュテルンは動きを止めて何も言えず、アリアンを見上げる。
*シュテルンの元勤務先の病院で、アリアンの手当てをする。事前にテロのニュースを見ていたフェニヴェシがラズロに通報。それにシュテルンが気付いて間一髪で逃げ出す。長い逃走の末に別の車に接触して停車すると、車外へ出たアリアンに向かってラズロが車で突っ込む。跳び上がって衝突を避け、そのまま宙へ浮き上がるアリアン。
*追手を逃れた2人はホテル・ブタペストに宿泊する。ホテルのベッドで並んで横になると、アリアンは「怖いんだ」と零す。「私も怖いさ」「どんな事が?」「解決出来ない何かが起こる事。…恥ずかしいよ。私は君を独占しようとしていた、子供みたいに。だが君が姿を消して気付いた、君はメッセージなんだ。[天を見上げろ]さ」
*イシュトヴァーンに呼び出されて1人で出掛けるシュテルン。しかし裏切られ、そこにはラズロが待ち構えていた。取り囲まれ逃げ道はなく、共にホテル・ブタペストへ戻る事に。車の中でシュテルンは「彼は銃で撃ったから特異体質になったのか?それとも天使を撃ったのか?」とラズロに問い掛ける。「神が怖いんだろ?[神が見てる]と思うのは良い事だ。神は人間が考え出した最も美しい概念だ」銃口を向けて「黙れ」と繰り返してたラズロも、その部分については「そうかもしれん」と同意する。シュテルンは続ける。「一番凄いのは[神は罰を与える]と言う仕組みを思い付いた事だ」
*ホテルに到着すると、部屋へ向かう途中で逃げ出すシュテルン。ラズロはそれに構わず部屋でアリアンを拘束する。シュテルンは警官を襲い銃を奪うと、喧騒に包まれたロビーでラズロと対峙。衆人環視の中で警官を人質を取られ、ラズロは已む無くアリアンを解放する。シュテルンとアリアンはエレベーターに乗り込むが、ドアが閉まる前にシュテルンが撃たれてしまう。アリアンはシュテルンの煙草を使って火災報知器を鳴らす。ホテル内は一層混乱状態に陥る。
*シュテルンをその場に残し、退路を探そうとするアリアン。そこにラズロがやって来る。アリアンに銃口を向けるラズロ、ラズロに銃口を向けるシュテルン。シュテルンに「逃げろ」と言われて、アリアンは大きな窓を破って外へ飛び出す。ラズロも発砲する事なくそれを見守る。地上はアリアンの遥か下だ。
*アリアンは落ちる事なく浮かび続ける。再びアリアンに銃口を向けるが、やはり発砲するのは止めるラズロ。彼が振り返るとシュテルンは満足そうな笑みを浮かべていて、やがて息絶える。アリアンに接近するヘリコプター。過去の浮遊ではアリアンに気付く人は僅かだった。今は地上の誰もがアリアンを見上げているのだろう、次第に車列の動きも止まる。自分の目を手で塞いで数を数えている少年だけが、上空のアリアンに気付いていない。数え終わった少年が「もういいかい、探しに行くよ」と言う。目を開けたら、彼も空を見上げるだろう。
■雑感・メモ等
*映画『ジュピターズ・ムーン』
*レンタルにて鑑賞
*木星の月[エウロパ/EUROPA]→ヨーロッパと言うのがタイトルの意味らしい。
*ジャンルとしてはSFサスペンス辺りになるんだろうけど、難民・テロ・信仰等様々な題材が含まれている。舞台となるハンガリーの社会情勢等を知らないと、正確に捉えるのは難しいのかもしれない。ネタバレでも細部の何を端折るべきか残すべきか、正直分からなかった。浮遊する存在以外は重く沈み込んでいるように感じる。
*映像は長回しが多く、特に冒頭ボートの転覆から森の中を走る姿を横から捉え続ける場面は印象的。シュテルンのアパートの各階層を垣間見ながらの降下や回転する部屋も面白い。ただ1つ1つが冗長にも感じる。
*あらすじではシュルテンになっているけど、字幕ではシュテルン。彼が利用していた、鳥籠が矢鱈に置いてある店は一種の鳥カフェ?
*アリアンは劇中[少年]として扱われているけど、俳優の実年齢で言えば20代半ば。それ以上に若くは見えない。父親は随分子供扱いしているように感じたし、警戒心なく他人に鞄を預けてしまう辺りも、設定上はもう少し若かったのかも。