■あらすじ
連続殺人犯逮捕の手柄でパトロール警官から刑事に出世したばかりの青年スタン。ある晩、先輩刑事カラブレーゼたちとポーカーに興じるなか、先輩の昔話には教訓が込められていると強調される。その直後、警察無線でカラブレーゼの娘エイミーが誘拐されたことを知り、犯行現場に一番乗りすると、謎の男にスタンガンで気絶させられてしまう。森の中の一軒家で目覚めたスタンは、隣室にエイミーが監禁されていることを知る。実は二人は交際していることをカラブレーゼに隠していたが、不気味なマスクをかぶった犯人はそのことを利用し、巧みにスタンとエイミーの心と身体の自由を奪っていく…(メーカーサイトより)
■ネタバレ
*スタン・ジーターは殺人鬼テレンス・アルビーを逮捕した事で、パトロール警官から刑事への昇進が決まっている。彼はある夜、上司のカラブレーゼ警部補に連れられて[ポーカーナイト]に参加する。これは経験豊富なベテラン刑事達が、ポーカーをしながら新米刑事へ職務上有益な体験談を披露する場となっている。
*スタンが勤務する警察署では、署長が10年前からベテラン刑事の招致を始めた。犯罪増加への対応策として、引退間近の腕利きを都会から呼び、若手の指導に当たらせているのだ。カニンガムは300人以上の麻薬犯罪者を逮捕した、一匹狼タイプ。デービスはシカゴ警察の猛者で、4年前事故を切っ掛けに招かれた。バーナードはメンフィスで活躍、45件の殺人事件を解決。7年前に一線を退いたが、その後スカウトされた。マクスウェルは15年第一線に居る。無口な彼の言葉は金言だ。鋭い眼光で[タカ]の異名を取る。
*ポーカーナイトの帰り道、通報を受けてスタンが現場へとパトカーを走らせていると、2週間行方不明だった未成年の恋人エイミーが現れる。彼女はマクスウェルの娘でもある。「逃げて」と叫ぶエイミー。しかしスタンはスタンガンで倒れてしまい、エイミーも捕まってしまう。
*スタンが意識を取り戻すと、椅子に縛り付けられている。恐らく地下室だろう、窓のない部屋だ。マスクを被った男が現れ、テレビのニュース番組を見せられる。話題は自分自身の失踪だ。姿を消して3日が経過、湖畔に残された車に争った形跡はない。2日間に渡って湖の捜索が行われたと伝えるレポーター。カラブレーゼ警部補のインタビューも流れる。彼は「必ず見付け出す」とカメラに向けてコメントする。
*カラブレーゼ警部補は、スタンが最も信頼を寄せる上司だ。常に部下を気に掛けフォローに回る。スタンは昨年採石現場で撃たれそうになった時に、彼に命を救われた。「警部補が居なければ死んでいました」と礼を述べたが「礼なんか要らない。次はお前が新人の命を助けてやれ、俺はそれで満足だ」と返された。
*今はカラブレーゼも居らず1人きりだ。スタンは「刑事は仲間に手を出されたら黙っちゃいない。今ならまだ間に合う」と説き伏せようとするが、マスク男が聞き入れる様子はない。「全てに理由がある。そして人は見たいものしか見ないものだ」と言うマスク男。「奴等はここではなく水辺を探している。1週間も経てば誰も捜さなくなるだろう。この瞬間にも忘れられていく」注射器を取り出し、スタンに白い薬剤を打つマスク男。
*ポーカーナイトからもう3日経過している…あの夜の事を思い出すスタン。まずはカニンガムが話をした。彼は2年間、2人の仲間を殺した男に張り付いていた。犯人に違いないと言う確信はあったが証拠がない。遂に時間切れだと宣告されて、捜査の打ち切りを言い渡された。怒りが収まらないカニンガム。その日の帰り道、バーの駐車場に容疑者の車が停まっていた。そこで店に入ると上機嫌を装って、男に酒を奢った。そして刑事である事を明かし「2年間探し続けていた、同僚2人の死体を森で見付けた」と話す。「これで漸く休暇が取れる」と。男は落ち着きをなくし、店を出ると森の中へ。辺りの様子を窺って、安堵して帰って行く。尾行して監視していたカニンガムは、その場所を掘り返して死体を発見、見事に容疑者を逮捕した。容疑者は終身刑2回を言い渡されて服役中だ。彼の話の教訓は「常に最良の武器を使え、それは自分の頭脳と心だ」。
*マスク男がスタンへ銃口を向ける。「取引をしよう」と持ち掛けるが、腹部を殴られる。男は「俺も昔は平凡な毎日を過ごす平凡な男だった」と話し始める。「人々の行動や変化を予測するのが仕事だった。働き蜂のように働いた。だがある時、これ以上は無理だと思った。会社の犬はもうまっぴら。人生を変えようと決心した。まずは自分の心に正直になり、目標を決めた。『1.少女とセックスする』『2.1を邪魔する者は殺す』目標を定めるのは簡単だが、一線を越えて少年は大人の男になる」男は妻を殺し、家に火を放ったようだ。スタンにまた注射を打ち「目標1が待っている」と言う。エイミーの事だ。彼女の悲鳴が聞こえてくる。
*注射のせいで意識が朦朧としてくる中、スタンはエイミーとの出会いを思い返す。覗き見していた男を彼女が叩きのめしているところへスタンが駆け付けた。妻の不貞が原因で離婚していたスタンは、エイミーの猛攻により付き合い始めた。問題は彼女が未成年である事・カニンガムの娘である事・そして2週間前から行方不明になってしまった事。カラブレーゼ警部補からも未成年との恋愛を咎められていた。行方不明になってからは関与を疑われ「来週には警部になるんだから水を差すな」と忠告されていた。
*薬の効果が切れて意識が戻るスタン。エイミーの声…壁を挟んで隣の部屋に居るようだ。壁越しに会話をする2人。エイミーは「スタンが危険だ」と騙されて、2週間前にここへ連れて来られたのだと言う。マスク男は2人の関係を知っていて、スタンを狙っていたらしい。スタンは椅子に、エイミーは強固な鎖に繋がれていて容易には身動きが取れないが「時々姿を消すから、その隙を狙おう」とエイミーが言う。今マスク男は不在で、戻って来れば車の音がする筈だ。
*ポーカーナイトの夜、ゲームの最中にマクスウェルの携帯電話に自宅から連絡が入った。娘エイミーについての新しい情報はない。「必ず見付かるさ」と励ますバーナード。マクスウェルは多くを語らず、デービスに話を促す。それはまだ髭がなく、今より若い頃のデービスの話だ。被害者の名前はミスティ。一軒家・若い女性の寝室・部屋中に飛び散る精液…家族・友人・恋人・同僚と次々に調べて、その数は100人以上に及んだが容疑者は出ない。8年後、ボイラーを修理中の作業員が通気口に異物を発見。引っ張り出すと、その正体はパンティだった。パンティには精液が付着。それはミスティの部屋の精液と一致した。つまりミスティ殺しの犯人の物だ。パンティがあったのは借家で、ミスティの家の近く。8年前の住人を突き止めると、俳優志望でレンタルビデオ店に勤めている男と判明。男はいつか秘密が暴かれると恐れてきたのだろう。客を装ったデービスを刑事だと気付き、店から逃げ出す。車に乗り込んだ犯人は追って来たデービスを跳ね飛ばすが、衝撃で車が動かなくなる。降りようにも壁に阻まれてドアが開かない。「俺が最後に走った日だ。それ以降は杖が手放せない。最後まで戦った。8年間追った相手だ、逃がしてたまるか」デービスは弾き飛ばされた銃まで這い進み、助手席側から出てきた男を撃った。「奴は死んだ。お前達もな」デービスがカードを場に出すと、他のメンバーは呻き声だ。「時間が掛かる事もある。直ぐに結果が出なくても、絶対に諦めるな」と言うデービス。
*現在のスタンはデービスの話を思い出しながら「今がその時だ、絶対に好機を逃すな」と自分を鼓舞する。とは言え手首の辺りを厳重にロープで巻かれていてビクともしない。必死に体を揺らすと床に固定されていたネジが外れて、椅子ごと倒れる。椅子が壊れてロープから腕を引き抜く事に成功。気が付くと二の腕に、エイミーの顔の刺青が入っている。薬で意識を奪われている間に、マスク男が彫ったらしい。困惑しつつドアを蹴破り、エイミーの声を辿る。再開して抱き合う2人。楔のように嵌められていた木片は抜き取ったが、エイミーを繋いでいる太い鎖は外れそうもない。1人になるのを嫌がるエイミーを「このままじゃ2人とも死んでしまう」と説き伏せて、スタンは道具を探す事に。エイミーは落ちた木片を握り込む。
*スタンは地下から1階へ。しかし、鎖を外せるような道具は見付からない。やがて車の音がする。マスク男が戻って来たようだ。途中に自分やエイミーの写真が大量に吊るされた部屋がある。ナイフを入手して廊下の奥へ進み、リビングでテレビの前に座る男を発見。背後から押さえ込み首を切ろうとするがそれは人形で、作り物の頭部が床を転がる。茫然としているスタンの背後からマスク男が襲い掛かり、スタンガンで自由を奪う。階段を転がされ、地下室に放り込まれるスタン。こんな好機はもう訪れないかもしれない。スタンは男に殴られ、腕を痛め付けられる。
*ポーカーナイト、次はマクスウェルの番だが彼はまだ話したがらない。仕方なくバーナードが先に話す。それは1979年の事。被害者は2人、ある夫婦が殺された。目撃者はなく容疑者は息子のショーンだけ。それも証拠はなく、尋問されていたショーンは解放される事になった。バーナードは違和感を覚え、ショーンが何か隠していると考える。署を出るショーンに「少し話がしたい」と話し掛ける。「弁護士を呼ぶべき?」「何か隠してるならね」ショーンは必要ないと判断して、2人は一緒にドライブする。車はやがてショーンの家に到着。祖母の家へ行こうと誘ったが、事件現場の家に向かったのだ。嫌がるのを説き伏せてどうにか家に入るのを承知させる。「何があった?」「部屋に来たら誰かが殴ってた」「それは誰だ?君のご両親は良い人達だったのに」「そんなんじゃない」「君がそう言ったんだぞ」「知らないくせに」バーナードが「父親は君を殴ったのか?ママは必要以上に君を抱き締めた?」と畳み掛けると、ショーンは「奴等はいつもそうだった」と言う。「それが我慢が出来なくなったのか?それで君は何をした?」両親をバットで殴り、返り血に染まる自分を思い返すショーン。振り向くとバーナードに襲い掛かる。彼は待機していた警官に取り押さえられた。「人生に受難は付き物だ。殴られて顎を18針縫った。正義には代償が伴う」とバーナードは言う。「殺人には理由がある。理由が分かれば事件解決まではあと半分だ。この仕事には底ってものがない。想像を絶する底なし沼だ。最悪はなく、新たな地獄があるだけ」
*意識を失っているスタンは過去の出来事を夢に見る。スタンはまだ若い刑事だが、それでも色々なものを目にしてきた。酷いもの・想定外のもの…それが毎日続くと慣れてしまう。死体と記念撮影したり、死体の上に宅配ピザを置いて仕事中に食事したり。警察学校では『神に仕えよ』と教わった。悪党から世界を守る最後の防壁になれと。阿保らしい戯言だと思っていたが、今になって悪党の姿形が分かった。しかも、こんな間近で。
*気が付くとスタンは壁に貼り付けられていて身動きが取れない。「接着剤を34本も使った」とマスク男が言う。「また逃げようとすればもっと痛い目に遭うぞ」と言い、スタンの頭を掴むと力任せに引っ張る。貼り付けられていた頬の皮膚が剥がれて出血する。「イカれてやがる」と叫ぶと含み笑いで「どうも」と言うマスク男。スタンの声を聞いたエイミーが「酷い事しないで」と泣き声で訴える。マスク男は貼り付けられたポーズを真似て、スタンの隣の壁に寄り掛かりながら「感動的だな、本気で君を好きなんだ。でも未成年だよ?」と揶揄うように言う。「彼女だけは逃がしてやってくれ。狙いは僕なんだろ」「私達には共通点が多いな。私には彼女は年を取り過ぎているがね」「目的は何だ?何がしたいんだ」「考えても無駄だ、私は常に5歩先を読んでいる」「あんた家族は?殺したのか?」「あからさまな奴だな、話してやろう」
*男は笑って自分の話の続きをする。「人を殺して捕まりたくなければそれなりの仕込みが必要だ。そう言った術は何処で学べるか?ディスカバリーチャンネル?殺人を専門的に解明する番組があるな。テレビを見れば殺人の博士号が取れる。インターネットは無秩序な世界で、求めていた闇の情報も全て指先1つで得られた。毎晩新たな知識を覚え議論し共有すると、高級クラブに入会したようで解放感があった。以前のような孤独感は消えた。それでも知識に長けていて、指導し技術を磨いてくれる人物が居ないかと探していた。つまり人生の師匠だ。師匠に出会い、望んだ以上を学べた。今の私が存在するのは全て彼のお陰だ。だが巣立ちの時はやって来る。親を殺して家を出る時が来るんだ。既に準備は出来ていた。独り立ちの時だ」
*男の話を聞いて「それで師匠はどうなった?」と尋ねるスタン。マスク男は「お前、それでも刑事なのか?」と呆れたように言う。「私より君の話をしよう。君には可能性がある。先刻私がやったように、壁から離れてみろ。自分でやるんだ、自由になれるぞ。考えてみろ、他の誰でもなく君を選んだ理由を。私から逃げられると思うのか?利口かと思ったが間違いのようだ。君はまだまだ力不足だよ。ゲームの終わりは近い」
*スタンに注射を打つと、マスク男はまたエイミーの部屋へ。「今ここで起こっている事は正しくない。君を利用してあの刑事をここに連れて来たが、君にはもう用はない。私は病気なんだ。今なら分かる。こんな事は続けられない。だから君は家族に電話しろ。無事を伝えて迎えに来てもらえ」マスク男に怯えるエイミーに配慮するように、距離を保ったまま鍵と携帯電話を投げて寄越す。警戒しながらも携帯を掴み父親のマクスウェルに電話をするエイミー。「パパ、私よ。犯人が電話しろって…」するとマスク男は態度を豹変させ、エイミーを押さえ込む。泣き叫ぶエイミーから携帯を取り上げて「エイミーのパパかな?気分はどうだい?」と言う。「汚い言葉は感心しないな、娘の前だぞ。単純な取引をしよう。1万ドルを車に積んでリバー通りを走れ。8キロ進むと家がある。午後3時に来い。警察が一緒なら娘を孕ませて殺すからな」
*ポーカーナイト、「俺はもう行かないと、清算してくれ」と言うマクスウェル。まだ11時半、話もしていないと口々に引き留められる。彼には定番の話があるらしく「35年も刑事をしているんだ、表彰もされた。他にも話はある」と十八番以外の話をしようとするが「あれでなければ駄目だ」と周りから押し切られてしまう。「崇高な職務の話だ」と前置きしてから話し始めるマクスウェル。まだ自分の白髪も少なくナイロンジャケットが流行ってた頃、3人の遺体が発見された。水中・森の中・路上のごみ箱で。発見場所は異なるが全員小指が切り取られていた。町で初めての連続殺人件で大騒ぎになった。犯人は[小指泥棒]と呼ばれた。被害者は全員男娼で、3人と接点のある男が浮上。カメラマンの肩書を利用して、モデルや役者志望の男達を餌食にしていた。犯人なのは確かだが証拠がない。解決策は1つ…囮捜査だ。マクスウェルが男娼に扮して通りで犯人を待つ事になった。隠しマイクを仕込んで、緊急時の合言葉は「熱くなってきた」。狙い通りカメラマンがマクスウェルに食い付いた。森の小径に連れて行かれ、男に迫られる。次第に男は本性を現し、手錠やナイフを取り出した。「熱くなってきた」と言うが反応なし。SWATチームとも連携していたが史上最強の能無し軍団だった。3方向から囲んで何かあれば奴を撃つ手筈だったが、1人は電話で妻と喧嘩の真っ最中。もう1人は近くに居たカップルの大麻の匂いに誘われた。最後の1人はランチのメキシコ料理で腹を下して持ち場から離脱。マクスウェルは服を脱がされ身体を撫で回される。「熱くなってきた」と繰り返す間にカメラマンが背後に回り込む。味方は居ない、1人だと悟った。このままでは小指を切られてしまう。人は土壇場で気転が利くものだ。彼は「前に来てくれ」と言い、男にキスを強請った。そして近寄ったカメラマンに頭突きをお見舞いした。そこで漸く仲間達が駆け付けた。マクスウェルが「結論、たった1人で危機に陥ったらとにかく必死で足掻け」と言うと、残りの刑事達が「それでも駄目なら、キスをせがめ」と声を揃える。
*現在のマクスウェルが指示通り家にやって来る。犬を連れた男が通り掛かり、マクスウェルは銃を突き付ける。「娘の居場所を言え」と凄むと相手は「犬の散歩をしてただけだよ。この家の住人は留守にしてるから、それを教えようかと立ち止まったんだ。俺にも子供が居る」と必死に訴える。漸く落ち着いて男を解放するマクスウェル。男に詫びて立ち去ろうとする彼の背後から、スタンガンが押し付けられる。相手はマスク男だったのだ。マスク男は抱えていた犬を逃がして、マクスウェルの車で移動する。
*壁に貼り付けられたスタンは痛みに耐えながら徐々に皮膚を剥がし、やがて片足が自由になる。パイプを蹴って壊すと水が身体に降り注ぐ。エイミーが異変に気付いて声を掛けてくる。マスク男はマクスウェルと電話で話した後、外へ出て行ってまだ戻っていないと言う。スタンは水の助けを借りて全ての皮膚を剥がす。今度はドアが頑丈で蹴破れない。自分が貼り付いていた壁は他と様子が違うため、壁紙を剥がしてみるとレンガが剥き出しになる。レンガを崩すとエイミーが居る部屋に繋がっている。再び抱き合う2人。そこへまた車の音がする。マスク男がマクスウェルを連れて戻ったのだ。
*モニタで2人の様子を見て悪態を吐くマスク男。「動いたら殺す」とマクスウェルに銃口を向けながら、その場を離れる。「エイミー、今日は大変な1日だった。私を慰めてくれ。どういう意味かは分かるな?」とマスク男が大声を張り上げる。やがて部屋に到着するが、そこにはスタンが待ち構えていた。足を踏み入れたマスク男を突き飛ばし、銃を奪って発砲する。直前に違和感を覚えたエイミーが制止するが間に合わない。全弾撃ち込むと、マスク男がゆっくりと拍手しながら部屋に入って来る。銃口を向けられるが、こちらはもう弾が残っていない。スタンが撃ったのは、口をテープで塞がれマスクを被せられたマクスウェルだった。マスク男はマクスウェルの背後から、声を張り上げて歩いていたのだ。泣き崩れるエイミーを揶揄うように慰める男。近寄った男を罵り、エイミーは手にしていた木片を相手の首に突き立てる。男は血を流し呻き声を上げるが、致命傷にはならずエイミーを平手打ちして「お仕置きが必要だな」と言う。スタンも再び拘束される。今度は手錠で両手を吊るされた状態だ。
*スタンが職務中に発砲したのは3回。1回目はトイレの中で誤爆。2回目は上半身だけを入れた状態で車を発進されて、咄嗟に。3回目で昇進が決まった。それはフィッシャーと言う男の通報が切っ掛けだった。コンテナ置場で働いているが、先月の電話代が700%増加したとクレームを入れてきたのだ。突然国際電話代が請求され、最初はマネージャーのテレホンセックスを疑ったが、彼が不在でも電話代は上昇した。子供が悪戯で線を繋いでいるのかもしれないと、周囲を調査してみたスタン。満月の夜で、ふと高い場所から景色を見たくなりコンテナに上がった。キャリアの分岐点だが、真実を言えば全ては幸運だった。足元にコードがあり、辿って行くとあるコンテナに入っている。その赤いコンテナの暗い内部では、パソコンのモニタが光っていた。映し出されているのは損壊された身体や切り取られた様々な部位等の画像。そして懐中電灯で照らしてみれば、コンテナ内部は宙吊りにされた死体が犇めき合っていた。そこへ誰かがやって来て、コンテナの扉を開けた。「これは素晴らしい」と声がする。相手の顔も見えないまま「警察だ、手を上げろ」と叫ぶスタン。逃げようとする気配に発砲すると男が倒れた。撃った相手がテレンス・アルビーだった。銃で人を撃ったのも人を殺したのも初めてだった。スタンは英雄となり、刑事に昇進する事になった。
*3回発砲したが無実の人を殺したことはなかった…今日までは。涙を流すスタン。その時扉が開き、カラブレーゼ警部補が姿を見せる。スタンは薬のせいか意識が朦朧としていて、上手く反応出来ない。「脈はしっかりしてる、応援を呼んで出してやる」とカラブレーゼが言う。
*カラブレーゼは「この辺で聞き込みをしている」とある男の家を訪れた。「この辺」とは言っても、隣の家は5kmも離れている。訝る住人には構わず「ジーターと言う刑事が行方不明だ」と話す。男は「ニュースで見たが会った記憶はない」と言う。「捜査の規則で、家に入らせてもらいたい」「相棒は車の中で待ってるのかい」「何故聞くんだ?」「コーヒーでも振る舞おうかと」「1人だけだ」そんな会話を経て、カラブレーゼは男の家の中へ。「この近辺で刑事が2人消えた」と話して、署に確認しようとすると男がカラブレーゼに銃口を向けた。それに気付いたカラブレーゼが男を殴り倒し、更に一発撃ち込んだ。そしてカラブレーゼはこの地下室に到達した。
*しかしこの地下室では携帯が繋がらない。まだ応援が呼べていない状態だ。カラブレーゼは「45口径で撃ち、手錠で繋いだ」と言うが、手錠ではあいつの動きは封じられない。それを伝えようとしたが間に合わず、自由になったマスク男が背後からカラブレーゼの頭を撃ち抜いた。悪夢の光景がスタンの中で巻き戻される。しかしやり直す事は出来ない。スタンの方に倒れ込み、床に落ちていくカラブレーゼの身体。彼の血を浴びて、マスク男に向かって「クソ野郎」と叫ぶ。銃口を向ける男から目を逸らさず「撃てよ」と叫ぶが、マスク男はスタンを撃たずに殴り付ける。
*気絶したスタンの脳内では、ポーカーナイトが再現される。カラブレーゼもマクスウェルも居る。自分は手錠で繋がれ血塗れだがポーカーには勝ち、その報酬として「質問して良いぞ」と促される。「こんなの変だ、カラブレーゼ警部補は死んだじゃないか。マクスウェル、あんたもだ」混乱するスタンに、カニンガムが「それなら2人は無駄死にか?」と問い掛けてくる。「あんた達に何が分かる?出来る事は全部やった」と反発すると、ベテラン刑事達が口々に言う。「一度に一歩ずつ進むんだ、ジーター」「娘を助けてくれ、あのクソ野郎の心臓にお前が杭を打ち込むんだ」「何があっても絶対に諦めるな」「お前は今、戦いの真っただ中に居る」「諦めるな、全ての手掛かりを繋ぎ合わせるんだ」「奴は2週間も前にエイミーを攫ってる。地下室の準備には時間も掛かる。計画的だな、偶然じゃない」「奴がお前を殺さないのは何故だと思う?何かを伝えたいんだ、それを見付けろ」「お前が気付くのを奴は待っている」奴が誰かさえ分からないのに…と言い掛けて、スタンは手掛かりに気付く。「師匠だ」
*マスク男の言っていた[師匠]が、自分が射殺したテレンス・アルビーだったのだ。意識を取り戻して現実に戻って来るスタン。カラブレーゼの死体の傍に鍵束が転がっている。どうにか足で引き寄せて掬い上げ、左手だけ手錠を外す。そこへマスク男の気配がして、まだ気絶している振りをする。マスク男は撃たれて疲弊もしており、スタンの座る椅子に身体を預けてくる。スタンは鎖でマスク男の首を締め上げ、自分がされていたように両手を手錠で拘束する。マスクを外すと、マスク男は誰でもないただの男だった。手錠を繋げた鎖を力任せに引き、気を失った男を痛みで強引に覚醒させる。「何故僕を狙った?お前の師匠を殺したからか?」「流石だ、よく分かったな。君なら分かってくれると思ってた。少し時間は掛かったけどな」「何故こんな事をした」
*「あのコンテナは人生を懸けた作品だった。師匠の喜ぶ顔が見たくてやった。翌日にはカリフォルニアへ移す予定だった。芸術の街だからな。この街を離れる前に私の成果を師匠に見せたかった。それを君が台無しにしたんだ。私の足跡は全て拭い去られ、死んだ師匠の功績になった。酷く苦しく無気力になった。友人達が少女に引き合わせてくれたが虚しいばかり。やがて初心に戻る事が必要だと悟った。もっと簡潔で明確だった筈だ。少女とセックスする事、邪魔する者は殺す事…この場合、邪魔した者は明確だ。刑事のスタン・ジーター、私の栄光の瞬間を奪った男。償ってもらうと決めて、君の事を徹底的に調べ上げた。」
*身勝手な話を聞いて、スタンは男を殴り付ける。男はそれでも話し続ける。「見事だな刑事さん、答えを見付けたな。残り時間は少ないが。全てを1人で準備したと思うのか?私にも弟子が出来た、間もなく到着する」また一発殴って、スタンはエイミーの部屋へ。崩したレンガの代わりに壁は薄い板で塞がれているが、それを剥ぎ取る。部屋に入るとエイミーの両腕に注射器が刺され固定されており、白い薬剤を継続的に注入されている状態だ。名前を呼んでも意識は戻らない。抱え上げて地下から出ようとすると、階段の途中に拳銃が落ちている。[弟子]の話もあるため拳銃を拾うスタン。慎重に廊下を進むと「駄目よ」とエミリーの叫び声がする。リビングのテレビでは、スタンがマクスウェルを撃つ動画が繰り返し再生されている。屋外へ出ると警察車両が何台か待機している。安堵するが、拳銃が手を離れない。接着剤が仕込まれていたのだ。「武器を捨てろ」と言われても外す事が出来ず、スタンは撃たれてしまう。
*ガラス越しに話すスタン。彼は現在服役中だ。彼の銃の弾で、警官が死亡した。「反論しても無駄だろ。ポルノ紛いのセックス動画まで見付かった」と吐き捨てるように言う。「でも無罪を主張するのね?誘拐犯は何処に居るの?警官が地下室に踏み込んだ時には、手錠に繫がれていたのはカラブレーゼ警部補だった。全てが作り話だったと言う指摘にはどう答える?」会話の相手はリポーターだ。エイミーは3ヶ月昏睡状態で、マスク男は外で生きている。これで終わりにはしない。いつかここを出たら必ず同じ目に遭わせてやる…刑務所の中でそう決意するスタン。その後、事態は急変。エイミーが目覚めて証言をしたのだ。スタンに不利とされた証拠は、証明力を失った。
*刑事に復帰したスタン。捜査の結果、ある一軒家に到達する。「少女の声が聞こえた」と証言のあった家だ。侵入すると少女が居て、スタンの背後からはマスクの男が近寄って来る。気配に気付いたスタンは咄嗟に振り返り発砲、男は倒れる。それは新たに[ポーカーナイト]で語られる話だ。新米刑事が「それで、復讐したんですか?」と訊くと、デービスが「刑事の職務を果たした、と言え」と言う。「心臓に一発だ。平和が訪れた」とカニンガム、「大事な仲間を2人失った。他に選択肢はなかった」とバーナード。「それがジーター警部の話だ。昇進祝いのパレードを2回やったな」そんな話をしていたところへスタンが到着する。新しい[ポーカーナイト]が始まる。ポーカーナイトの目的は次の世代に知識を与える事。刑事は97%の時間を人口の3%に費やしている。奴等は賢いつもりだが間違いだ。本当に賢い奴は捕まらない。野放しのまま存在する。
*スタンの話には彼だけが知る続きがあった。射殺したマスクの男。本当に死んでいるかどうか確認するために、銃を握った手を蹴ってみるが不自然に銃が手を離れない。触れてみると、接着剤で貼り付けられている。マスクを外すと見覚えのない顔…あのマスク男ではなかったのだ。この難題には自分で答えを見付けるしかない。スタンは手札を場に出した。
■雑感・メモ等
*映画『ポーカーナイト 監禁脱出』
*レンタルにて鑑賞
*監禁系トランプスリラー
*あらすじでは主人公スタンの恋人エイミーがカラブレーゼ警部補の娘になってるけど実際にはマクスウェル刑事の娘で、行方不明になったのはポーカーナイトよりも2週間前です。
*予告編を見て「ポーカーで培ったテクニックで敵を欺くのかな?」なんて勘違いして借りてみた。見始めてから「ポーカーナイトで得た教訓を活かして脱出する訳か」と思ったんだけど、そうでもなかった。もっと直接的に教訓が活かされたら良かったのに。冗談でも犯人にキスを強請れば、分かり易いし納得出来たかもしれない。或いは個々の挿話にもう少しボリュームがあれば、一風変わったオムニバス的で面白かったかな。
*各地のベテラン刑事をスカウトする…と言う設定は楽しいし、それぞれのキャラクターも結構好き。ミニシリーズとかで見たい感じ。一方で犯人にはそんなに面白味を感じなかったから、決着が付かない事にモヤモヤ。続編への色気なのかもしれないけど消化不良感が強い。
*ポーカーナイトで語られた挿話の部分は、本筋とは違った形で映像化されてる。例えばカニンガムなら他の刑事達が彼の行動を予想して話を混ぜ返して、実際の行動以外も映像で再現される。(この話は初披露なのかな。)デービス以降は「自分ならどうするか、考えながら話を聞け」と言われてスタンも過去の映像の中に入り込む。先輩刑事と並んで現場に立ち一緒に犯人を追い、或いは完全にその刑事に成り代わって犯人と対峙する。
*マスク男(役名は[The Man])の昔語りもちょっと面白くて、マスク姿のままで『平凡な毎日』が再現される。後半の『友人達が少女に引き合わせてくれた』の部分ではウサギの着ぐるみとピエロの扮装の仲間が出てくるんだけど、これもシュール。ピエロの方は眉?の部分が[M]なんだけど、別にハンバーガーの人を想起させようと言う訳ではないよね。
*最初に書いたメモからは随分削除してネタバレとしてまとめたけど、実際にはもっとモノローグが多く台詞も多い。例えば導入部分のモノローグはこんな感じ。「教訓と後知恵は義兄弟のようなもの。教訓は事態が去った後に得られる。次回への備えになってくれるものだ。つまりは経験から学べるってことさ。後知恵はバックミラーを覗くのと同じ。過ぎ去ったものしか見えない。自分が呑み過ぎたかどうかは後で分かる。教訓と後知恵が役立つのは今日でなく明日だ」そして終盤にはこう。「これが僕の物語だ。ハッピーエンドになるだろうか。教訓と後知恵…結局もうどうでも良い。奴は正しかった。人は見たいものしか見ない」長々と語ってたのに教訓と後知恵どうでも良いのかよと。他にも色々沢山モノローグが入る。
*終盤、服役中のスタンが面会してるのが誰か分からなかったんだけど、あの状況からすると弁護士かレポーター辺り?確認した限りでは役柄が弁護士の人物は居ないようで、雰囲気的にもレポーターかなと。もっと分からないのは彼女との会話で出てくる「警官3人が死亡して、その内2人にはスタンの銃の弾が撃ち込まれた」と言う部分。意味が分からなかったからネタバレでは端折ったんだけど、3人目の警官が誰なのか思い出せない。あれが元々マスク男の家と言う訳ではないと思うから、本来の住人が襲われていて「警官を含めて3人が死亡」なら分かるんだけど。
*更に分からないのが、その家にやって来た時のカラブレーゼの台詞。これも端折ったけど「1週間程前に緊急通報が入った。オペレーターが出たが反応がない。オペレーターはそのまま回線を切り忘れていた。男の呻き声が聞こえそのまま電話は切れた。電話の発信元を辿ってみると、この近辺からだと分かった。1週間程前に警官達がこの辺を調査したが、今度は刑事が1人消えた」と言う話をする。これが「2週間前」ならそれも元々の住人が襲われた際のものかと考えるんだけど…少なくともエイミーが監禁されて2週間(スタンが監禁されて3日以上)は経ってるから、その家から1週間前に通報したとすればスタンしか居ない気がするけどそんな描写あったかな。再見する機会があれば確認したい。単に自分のメモ間違いかもしれないけど。
*犯人の設定『少女とセックス』を先に決めたからスタンが未成年と付き合う事になったのかなと思う。そんな感じで組み立てたのであろう結果、一番無理を感じるのが(スタンは内緒で付き合ってるとしても)娘や恋人が行方不明になって2週間て時にポーカーナイトなんか参加する?て部分だった。違和感凄い。