■あらすじ
不慮の事故により、意識不明となった男。ほとんどの記憶を無くし、瀕死の重傷を負った彼に残されたのは多額の保険金と、わずかに頭に残ったイメージだけ。“古い家の階段の上に立ち階下の老母に手を差し出す少年の姿” 頭に残された唯一のイメージを手掛かりに、男は自分の存在を確かめるため保険金を元手に再現ドラマを制作していくが、事態は思わぬ方向へと進んでいく。昔からの友人、保険金の管理者、警察、町のギャング。彼を取りまく様々な存在と事象が、思いもよらない記憶のスパイラルにはまっていく。(メーカーサイトより)
■ネタバレ
*街の中でスーツケースを置き去りに歩き出すトム。その事に気付いて振り向くと、視線の先には女性が居る。何かのトラブルなのか、頭上を覆うドームから突如硝子が降り注ぎ、トムの頭部を落下物が直撃。彼はそのまま意識を失い、長い昏睡状態に陥る。もう植物状態から戻る事はないかと思われたが、やがて意識が戻りリハビリ生活を送る事になる。
*法的措置に出ない事・事故の件を口外しない事を条件に、トムは850万ポンドの賠償金を提示される。口外しようにも、事故についてもそれ以外も大半の記憶を失っている。条件を了承して示談金を受け取る事にする。
*公衆電話を使っていると、2人組の男達に拉致されそうになる。居合わせた男が2人組の横暴な態度に腹を立て、携帯電話で動画を撮影した事で結果的に助けられる。思わず「クリストファー」と男に呼び掛けるが、相手はトムの事を知らない様子だ。
*アパートの自室に女性が訪ねてくる。事故の直前に、離れた場所からこちらを見ていた人だ。名前はキャサリン。彼女の事は記憶にないが、会話の内容に既視感がある。トムは「以前にもこの会話をしただろ?」と問い掛けるが、キャサリンは知らないと言う。この部屋で彼女とキスをしたような気もするが、相手は別の誰かかもしれない。
*地下道で人波に混乱したトムは、奇妙に身体を揺らす。通りすがりの誰かが「イカレたダンスだな」とコインを投げてくる。すると物乞いに絡まれ「以前にも言っただろ、俺のシマを荒らすな」と殴られてしまう。[以前]とはいつの話なのか。
*パーティで友人グレッグに会う。彼は自分を心配しているように見えるが、記憶がないため完全には信用出来ない。彼は「キャサリンの事は信じるな」と言う。キャサリンはグレッグの妻らしいが、最近彼の元を去ったようだ。
*記憶のないトムだが、断片的に浮かぶ映像がある。古いアパートの階段で「お前は見落とした」と言う老婆、手を伸ばす少年のぼんやりした姿…。記憶の中の建物を段ボールで作ってみても、満足のいく出来映えにはならない。そんな中キャサリンが訪ねてくるが、彼女の携帯にグレッグから着信がある。2人は別れているのか繋がっているのか、1人が嘘を吐いているのかそれとも2人なのか。
*模型では納得出来ず、記憶の欠片に現れる建物を探そうとするトム。曖昧な条件に不動産業者からは疎ましがられるが、ナズルと言う男を紹介される。1980年代の雰囲気の5階建ての古いアパートで、入口付近には女性の像がある。隣の建物の屋根には複数の黒猫。思い出せる限りの説明をすると、見事に記憶通りの[マドリンマンション]が見付かる。トムは住人全員を退去させて、その建物を買い上げる。
*トムは自分の記憶に近い[住人]をアパートに配置出来るように面接を行う。レバーを料理する老婆・ピアノ教室の男・容姿が特定出来ず、青一色の覆面とタイツ姿の者等。彼らはトムの指示で同じ動きを繰り返す。記憶が曖昧で、ただ佇んでいる役柄の者も居る。アパートを再現して記憶を辿ると少年の姿がぼんやり見えるが、余計な物音に邪魔されてそれ以上は何も起こらない。
*トムのアパートに2人組の男達が侵入し、何かを探しているが見付からない。一方、トムは街角でクリストファーに再会。以前に出会った公衆電話に不定期に電話を掛ける、その電話に出たら金を払うと伝える。クリストファーはそれを快諾。しかしクリストファーは電話に出た後、監視カメラの死角で2人組に襲われ殺されてしまう。
*ニュースでクリストファーの死が流れる。彼は銀行強盗に関わっていたようだ。アパート同様、モデルガンと本物のスタンガンを使ってクリストファーの死の状況を再現しようとするトム。アパートではキャサリン役の女を雇い、彼女との会話を再現する。しかし、どちらも上手くいかない。そんな中、夜道で2人組に襲われて「金の入ったスーツケースを何処にやったのか」と詰め寄られる。「お前が持っているのを見たんだ」と。
*トムはまた再現を試みようとする。今度は銀行強盗の現場だ。ナズルはトムの要望に応え、捜査のためと偽り強盗現場に似せたセットの作成を依頼。それはかなり大雑把な作りだが雰囲気は悪くない。雇ったスタッフに、もっとリアルに作り直すよう指示するトム。潤沢な資金により次第に精度を増し、映画のセットのように街の一角がスタジオに作り上げられる。車も持ち込み行員役等も揃え、犯人役が何度も強盗を繰り返す。トムはその様子を物陰から見守っている。
*それでもトムはまだ満足出来ない。よりリアルにするために、本物の銀行を襲いたいとナズルに話す。役者には撮影許可書を見せて、撮影現場が変わっただけだと思わせれば良い。銀行には何も伝えない。それは完全な犯罪行為だが、断固として譲らないトムにナズルも折れる。会話の内容に既視感があり、トムは「以前にもこの会話をしただろ?」と問い掛けるが、ナズルは知らないと言う。2人はそのままキスをする。
*遂に本物の銀行を襲う日、トムも覆面をしてメンバーに加わる。キャサリンはこの銀行の行員だ。その日は出勤日ではないが姿を見せ、忘れ物をしたのだと話す。彼女は銀行に隠していたスーツケースを持ち出そうとするが、トムと役者達が到着して何百回も繰り返した再現通りに強盗を実行する。途中まではシナリオ通りに進展するが、銃の暴発でメンバーの1人が命を落とす。そもそも芝居の筈なのに、何故本物の銃を使っているのか。パニックに陥るメンバーを次々に射殺するトム。そこへ少年が現れる。傍に居る母親が必死に止めようとしている。明瞭な姿…幻ではない本物の少年が、トムの方へ手を伸ばす。
*銀行強盗の成否を左右するラインは5分。しかしトラブルで現場は混乱し、10分以上が経過する。逃走の役割を担う筈だったナズルは、これ以上はもう待てないと姿を消す。トムはキャサリンから「俺のだろ」とスーツケースを取り上げて銀行の外へ。覆面等を投げ捨てて歩き始めるが、もうナズルとは連絡が取れない。トムの後を追うキャサリン。
*1人になり些か戸惑い、スーツケースを置き去りに歩き出すトム。その事に気付いて振り向くと、視線の先にはキャサリンが居る。何かのトラブルなのか、頭上を覆うドームから突如硝子が降り注いだ。
■雑感・メモ等
*映画『リメインダー 失われし記憶の破片』
*レンタルにて鑑賞
*イギリス製不条理系+ふりだしにもどる系サスペンス
*トム・K・マッカーシーの小説が原作。原作未読だけど、調べた範囲のあらすじでは結構忠実に映像化されている感じなのかな。
*ジャケットの煽りによれば、示談金はザックリ10億円程度…らしい。
*記憶を取り戻すために莫大な示談金で記憶の中のものを再現すると言うプロットは面白い。しかし、映画としては理解し難く楽しくない仕上り。
*事故に遭った主人公が見ている妄想・夢の類いと解釈出来るような描写はない。でもそれが一番無難な気もする。ループ系みたいな雰囲気もある(最初と最後が同じ場面・「以前にも言った」と言ったり言われたりする等)けど辻褄は合わない。自分はその場に居なかったのにクリストファーの死を再現しようとするのは何故か。銀行強盗の再現の意味は何か。(トムが強盗団の一味だとすれば、クリストファーがトムを知らない理由が分からない。)トムが見えるのは未来か過去か、自分の記憶か他人の記憶か…それぞれ両方なのか。どうにも手掛かりが不足している感じ。
*ナズルとキスするのも何故なの。
*隣の建物の屋根に居る猫達を、最初はナズルが繋いでる。そうしないと落下してしまうため。しかし「不自然な状態だから許せない、落ちたら新しい猫を持ってこい」とかトムが言う。この時点でもう主人公への肩入れ度ゼロどころか激しくマイナスだった。