〓野生動物を許可なく捕獲、飼育することは、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」により禁止されています〓
歩いていると、どこからか「ピィ ピィ」と鳴き声が聞こえてきました。
とても小さく、弱々しい声です。
声が聞こえた辺りを探すと、道の脇のアスファルトの上に、雀の雛が横たわってかすかに動いていました。まだ生まれて数日も経たないような、わずかに羽毛が生えたくらいの小さな雛でした。
何かあって、巣から落ちてしまったようです。
親鳥が探しているのではないかと思い、しばらく離れたところから様子を窺ってみましたが雀は見当たりません。
落ちた雛は右脚が不自然に折れ曲がっていて、怪我をしてうまく動けないようでした。
たとえ弱ったり怪我をしたりしている野生動物を見かけても、安易に人間が手を差し伸べる行為をしてはならないことは知っていました。
・弱肉強食、食物連鎖で成り立っている生態系、自然の摂理を人間が乱すことになること
・保護したとしても、飼育してはいけないし、回復させて自然に返そうとしても、専門家でない限りとても難しいこと
・たとえ一時的な保護であっても、都道府県の許可が必要なこと
僕は、これらのことを頭の中で反芻し、一度はその場を離れました。
でも、「ピィ ピィ」という声が耳から離れず、数分後に再びその場に戻ってきてしまいました。
すると驚いたことに、さっきの雛のそばにもう1羽の雛が落ちていて、しかもその雛は既に息絶えていました。(さっきより増えてるし!)
僕は、まだかすかに動いていた最初に発見した雛を手のひらにすくい上げました。
いけないと頭では理解していても、どうしても見過ごすことができませんでした。
雀は成長がとても早く、怪我と体力が回復すれば数日で飛べるようになるかもしれないので、どうにかして家族のもとに元気な姿で返してあげたいと思ったのです。
急いでペットショップに行って、鳥のヒナ用のエサや道具などを買い揃えました。保温のためのヒーターも準備して、黄色い嘴(くちばし)を大きく開けてごはんをねだる雛に、1時間おきに人肌に温めた餌を少しずつあげました。
雛はまだ、目が十分に開いておらず、ちゃんと見えてはいないようでしたが、僕が近くに来ると一層大きく鳴いて、ごはんをあげる度に少しずつ元気を取り戻してきたように見えました。
ごはんをあげたあと、飼育ケースに戻そうとすると、嫌がって僕の指にしがみつくように離れませんでした。
たぶん、親鳥の体温を求めていたのだと思います。
排せつも、最初はお腹を壊している様子でしたが、少しずつ安定してきました。
野生なので感染症などの心配もあるので、家で一緒に暮らしているインコとは別の部屋で僕一人で世話をし、こまめに手洗いや消毒を行いました。
どうか元気になって無事に家族のもとへ帰れますように、と祈りながら、深夜になっても世話を続けました。
でも、一緒に朝を迎えることはできませんでした。
僕は今朝、雛が落ちていた場所に戻り、もしかしたら巣があったかもしれない近くの桜の木の根元に深く穴を掘って、亡き骸を埋めました。
名前は、勝手に「めい」だと決めていました。
少なくとも「めい」は、日付が変わる今日5月1日まで、生きていたことは確かだから。
結果的に僕は、法律に反する行為をして、しかもその命を救うことはできなかった。
ほんの数時間だけ、彼(彼女)の命を延ばしたに過ぎない。
小さな生命を見過ごせないと正義感に浸っているように見えて、腕に蚊がとまれば叩くし、ムカデが出れば刺されるのは嫌なので捕まえてトイレに流します。
何より、毎日肉や魚を食べて、食材が生命であったことなど顧みもしない。
矛盾してるよなって、自分で思います。
もしまた、同じ状況に遭遇したら、僕はどうするだろうと何度も考えます。(答えは出ない)
模範解答は、もちろん知っています。
・都道府県の管轄の部署に連絡・相談すること。動物病院を紹介したり、場合によっては費用を負担してくれる場合もあります。
はい、分かっています。瀕死の雀の雛が巣から落ちていますと連絡した時、どのような返答をされるかも含めて。
矛盾と葛藤に苛まれながら、僕はこれからも生きていくのだと思います。数多の「いのち」に支えられて。
映画『ある精肉店のはなし』 (監督 纐纈あや 2013年)
数年前、自分も企画に携わった講演会で纐纈(はなぶさ)監督に来ていただき、映画(ダイジェスト版)を観ながらお話を聞きました。
僕たちが普段目を背けている部分に正面からスポットを当てたドキュメンタリー作品です。配慮を要する場面もありますが、僕は子どもたちにこそ、観てほしい映画だと思います。