また、いつもと同じ一週間が始まった。ボスが朝礼で何か言っている。たぶん、自分で喋りながら、これっぽっちもそうは思っていないだろう。気持ちが入っていない言葉は、そのまま頭の中を通り抜けていって何も残らない。週末までに仕上げないといけない案件がいくつかあるが、すぐに取り掛かる気になれない。
届いた書類を事務的に片付けながら、ふと窓の外を見上げると、抜けるような青空が広がっていた。今日は、ここ最近では珍しい、雲ひとつない快晴。風もなく、暖かそうだ。「あー、仕事も何もかも放り出して、どっか遠くに行きてぇー。」心からそう思った。このままじゃ、八方ふさがりで何も変わらない。
ちょっとだけ勇気を出して、一歩踏み出してみようか・・・。青空が背中を押してくれた。受話器を取り、番号を押す。よかった、直接出てくれた。声が震えそうになるのを懸命に抑えながら、勇気を出して話を切り出す。
「今日はとっても天気がいいので、お昼から休暇を取って、下関においしいカプチーノを飲みにいきませんか?」
「えっ、今日ですか?ちょっと待ってください・・・」
しばしの沈黙が、永遠のように感じられる。実際はたぶん、ほんの数十秒。
「わかりました。大丈夫です。どうしたらいいですか?」
頭の中が真っ白になる。それから先はよく覚えていない。気がついたら、M3で高速に乗って、助手席に彼女がちょこんと座っていた。
(後篇へつづく)