2023年3月19日
金利の引き上げを継続している米国について、景気後退の時期やソフトランディングの可能性が注目されている。
米国当局は、景気を抑制することで物価上昇を抑制しようとしているので、借入比率の高いスタートアップ企業の経営状況悪化や、それらを主として取引していたシリコンバレー銀行などの倒産は、関係者の間では予想されていた可能性はある。
本日発行された日経ヴェリタスの記事でも、主要経済指標を見る限り、米国経済の景気後退が近いという記載もある。世界的格付会社のアナリストからの寄稿だ。
例えば、以下の事象がその根拠とされている。
・ミシガン大学消費者信頼感指数が低水準となっている
・景気後退の前兆である逆イールドが1年前から発生している
・過去に高インフレ下でFRBが利上げをした後は、景気後退に転じている
一方で、近いうちに景気後退に陥る可能性を否定しうる事象として以下のようなものがある。
・労働市場が非常に底堅く、失業率は1969年以来の低水準にある
・世帯貯蓄が健全な水準にある
問題は政策当局が金利を引き上げ景気を悪化させることで、物価上昇を抑制させようとしている中でそれが実現しないとなると、FRBは高金利政策を長期間継続せざるを得なくなることだ。
そうすると、借入依存体質の企業やそれらと取引がある金融機関の経営状況の悪化という、現在のSVB銀行問題のような事象の拡大、それによる株価の低下、金融機関の貸し渋りなどによる経済活動の縮小はいずれ発生するようにも思われる。
米国政策当局が、高金利によりインフレを抑制しながらも経済活動や市況への影響を最小限に抑えるソフトランディングを実現できるかが、今後ますます注目される。
10年以上前のリーマンショックの際、リーマンブラザーズの経営破綻のニュースが出回った直後は、その後の影響があれほど甚大になろうとは、私個人は予想できなかった。
その際は、サブプライムローンという極めてリスクの高い金融商品を、金融機関が格付会社に高い格付けを付けさせて広く売買していたことが事態を深刻化させたという特有の事象はあった。
多くの人は、今回のショックがリーマンショックの時ほどには悪化しないだろうと言っている様子。
一方で今回はコロナ明けによる経済再開やロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーンの分断などの事象があることから、過去に起こったことを完全に重ね合わせて考えることはできないであろう。
注意するべきは、「人は物事を自分の見たいように見がち(見たくないものは見えない)である」と、畑村教授も書いているように、ソフトランディングの可能性を期待するばかりでなく、悲観的なシナリオも想起しておく必要はあるだろう。
マネー・ショート(原作 The Big Short)は、サブプライムで景気が過熱する状況下で、それがいずれ破綻することを結論付けるデータや現場情報に基づき、足元で価格高騰が続く中で、市場関係者の大多数とは正反対に、空売をした人物たちを描いた映画だ。
いつの時代も、自分はどう考えるかが、問われている。