Proof of... -9ページ目

Proof of...

祈る神を持たない僕は、ただ言葉の力を信じている。全ての言葉に僕の意味を。

金子みすゞの詩に、『私が体をゆすってもきれいなおとはでないけど』ってのがあるじゃないですか。

あれを聞く度に、想像してしまうんです。

ちょっとあなた、自分で自分の体が鈴になったつもりで体をゆすってみなさいな

縦に揺するのは…ありでも…横にゆすってみて?
なんか凄く奇妙な動きにならない?コントのダンスみたいにならない?













えぇ、まぁそれだけなんですけど
おおう、もう、そうさ午前4時
覆う妄想さえ心地良い
眠る街の息遣い
間違いたくない脳意地っ張り
ふああ、なあ、それじゃつまらない
不安だ恐れだキリがない
生きる価値の量り売り
場違いならさもうこれっきり

淀む水の鼻につくにおい
なまの感情を剥き出しに
儚い我が身の可愛さ故の
君を泣かす僕の愚かさ世
You're dream.Me too ?「ノー」鼻で笑われ
なまの情動を剥き出しに
履かない我が身の醜い欲で
君を鳴かす僕の邪夜

予定あまりは無い方さ
有限の脳、有限のノウ
だいたいそれでいいのさ
夕幻の応、夕幻のオウ
この耳に触れる声を待つ

多く妄想する午前4時
妙句創造する影ひとり
何を待ち望んでいる
自己満足王つまらない
恥ずかしい…恥ずかしい…



恥ずかしいいぃぃぃぃぃぃぁぁぁああああああううううぅぅぅぁあああああっっっっっっっ


穴があったら埋まりたい
 知っての通り、僕はネクタイと時間に縛られる仕事はしていないから、食べたい時に食べて眠りたい時に寝ている。けれどその日はきちんと朝に起きた。それにしたって別に特別なことではない。たぶん7時くらいだったと思う。
 それからコーヒーを煎れ、ソーセージエッグを作って食べた。洗濯物が溜まっていたし、買い物に行かなければならなかったけれど、窓の外は雨だった。僕は酷く憂鬱な気持ちになった。僕の家は、洗濯物を室内干しできる程の広さはないのだ。それにスーパーマーケットまでは少し遠い。買い物ついでの散歩だと思えば心地のいいものだが、雨の中を濡れて歩くのは少々戴けない。
 仕方なく、今日の洗濯と買い物は諦めることにした。何事にも相応しい時期というものがあるのだ。
 まだ朝は早く、特にやることも無かった。仕事は先日大口の依頼を終わらせたばかりで、取り急ぎしなくてはならないものは無かった。
 新聞を郵便受けから引き抜く。雨避けのビニールが被せてあるのに、新聞はしっとり湿っていた。 湿った新聞ほど気を滅入らせるものはないと僕は思う。べとべとした指触りのページをめくったところで、紙面を埋めているのはどうせ動機のある殺人か動機の無い殺人か、はたまた煮えきらない政治の話なのだ。
 僕は明日の天気予報と経済面にだけさっと目を通して、新聞を机に放った。
 新聞もあてにならなかったせいで、僕は完全に時間を持て余してしまった。時間はまだ9時を過ぎたところだった。こんな時間に僕を訪ねて来る人間はいないし、僕だって訪ねて欲しくは無い。
 そもそも僕を知っている人間が、この世界にどれだけいるだろう。いや、僕もこれまでそれなりに多くの人間と関わって生きてきた。言い直そう。いったいどれだけの人間が僕を認識しているだろうか。
 僕には友人らしい友人もいない。仕事で付き合いのある人間もいるが、恐らく僕は(仕事ぶりに多少の評価はされていたとしても。)取り替えのきく部品のひとつとしか見られていないだろう。
 僕を「特定の一個人として認識している人間」を、僕は数えるほどもあげることが出来ない。
 それはひとつには僕が望んだ結果であって、ひとつにはやじろべえが傾いた結果であった。
 僕はつけっぱなしのコンピュータのオーディオをランダム再生にして流した。こんな時アナログ盤のレコードでもあれば恰好が付くのだけど、今時装置とレコードを集めるのも一苦労だし、昔の音楽を僕はあまり知らなかった。その分ステレオには気を使っていて、僕の持つものの中では一番高価なものだった。
 僕は読みかけの小説を取り出して読み出した。自分ではなかなか本は読んでいる方だと思うが、それは題も作者も聞いたことがなかった。
 僕はふと、この世界に生み出されてから誰の目にも止まらず書棚の中で褪せていく一冊の本について思った。人類の歴史とともに増え続ける莫大な量の書物に埋もれて、その一冊は殆ど無価値になってしまった。
 まるで僕みたいだ、と思った。
 その本のように、僕は誰にも読まれ理解されることもなく、静かに朽ちていくだけの存在なのだ。
 それは少々寂しいような気が、僕にでも感じられた。この世界でひとりで生きていくことは、実は案外簡単なことなのだ。
 妻が夫のためにサラダを作る描写は賞賛に値するものだったが、それ以外に特筆して面白いところの無い話だった。それでも時間を持て余した僕にはそれなりの充足感があった。
ふと空想に耽る。遠い昔に忘れたと思っていた。彼女が振り返る。笑顔は優しく、伸びた肢体は窓からの日差しを受けて輝く。出来る影が、彼女の体の隆起をなまめかしく魅せる。出来上がったサラダをお気に入りの青のボウルに盛って、テーブルにそっと置く。動きのひとつひとつに、金色の埃が舞って、それがまるで不可侵の儀式のようだった。
良くもそんな何でもない場面を覚えているものだと、内心で自嘲する。しかし悪くない思い出だ、とも感じていた。
いつの間にか晴れ間が射し始めた。ふと目をやった新聞の一面は、難しい分娩を乗り越えた母親に抱かれる赤ん坊の記事だった。
部屋中を満たす光に、金色の埃が舞っている。洗濯機を盛大に回して、僕は買物に行くことにした。何か、少し苦しいような、それでいて突き上げる何かが胸を満たしていた。

アパートの階段を降りる。地面まであと十八段…十六…十…────そう。彼女と出会うまで、あと───
 その店が少々奇妙に見られるのは、何も店の佇まいや、増してメニューや店員に某か常軌を逸するようなものがあるわけではない。それは感じの良い趣のある佇まい──例えば蔦の生い茂った木の外壁、四つ揃いのカップセット、最高の日当たりが計算された大きな窓、壁一面に飾られた古い時計──は、《記憶の庭》と書かれたA字看板ともどもマスターの趣味の良さをよくよく表している。
 「“ブルマン一杯ウン千円”なんてコーヒーの楽しみ方は嫌いだ」と言ってこの店を始めたマスターは、それこそ世界中の無名の生産者を訪ねて周り、そのかいあって、少し前まではここでしか飲めない二十種のコーヒーを置く通の間では少々名の知れた店であったりもするのだ。
 それがなぜ今や地元民から「奇妙な店」などと呼ばれてしまうのか。
 彼女達がやって来た。黒いドレス…といってもイブニングのような華奢な代物ではなく、フリルをふんだんに使ったその服は少女趣味な印象をもちながらも豪華で、耳は勿論鼻、口、額にまでピアスを散りばめ、ヘッドドレスと呼ばれるレース装飾を施した頭飾りをつけ、膝上まであるこれまたレース装飾のソックスを履き、靴は不安定さ抜群のロッキンホース・バレリーナ。それぞれバリエーションの違いはあれど、これらのトータルコーディネートはゴシックロリィタと呼ばれるものに違いない(違ったらすみません:作者)。
 そのゴシックロリィタに身を包んだ少女達がぞろぞろと連れ立って《記憶の庭》に集まってくるのだ。
「ここよ《記憶の庭》!あぁ、本当にあったのね」
「ちゃんと着いて良かったわ。こんなに山の中だとは思わなかったもの」
「私たちが一番乗りみたいね」
「早く出てきて正解だったね」
「ねぇ、記念撮影しましょ。人が増えたら写真どころじゃなくなるもの」
 少女達はきゃいきゃいとはしゃぎながら、交代で写真を撮っている。それはまだ幼いと言っても差し支えない可愛らしい少女達だが、やはりなんと言ってもその姿は異様だ。ことさら、ここは田舎町の山道を数十分登らなければ来れない辺鄙な場所である。恐らくグーグルアースでは見つからないだろう。都会のその種の街ならともかく、いや、田舎町でもひとりふたり見かけることはあるが、しかし彼女達のように10人、15人と集まっている姿はなかなか見られるものではないはずだ。
「ここで今晩、あぁ、どうしよう!Little Ladyが復活ライブをやるなんて!」
 感極まったといった様子で、彼女達は悲鳴とも聞こえる歓声を上げる。それが、彼女達の目的でもあり、「奇妙な店」と囁かれる由縁なのだ。


 ちょうど一年前、《GARDEN of memory》と題した作品を発表したLittle Lady(LL)は、それまではまったく無名のアーティストであったにも関わらず、突如一部の層から熱狂的に支持された。それが彼女達のようなゴシックロリィタと呼ばれる少女達であった。
そもそもゴシックロリィタとは、ゴスとロリータの融合から昇華されたもので、ロココ調を思わせる華麗さと中世西欧 の幻想的・貴族的な装いを主体とはしながら、少女性を感じさせる可憐さを取り込み、しかしそれでいて主題たるイメージは相反して黒、闇、魔、死などネガティブなものである。絢爛豪華でいて退廃的。それは少女期特有の不安定さに大いに関係するものであり、ゴス・ロリが精神的概念である点で所謂コスプレとは一線を記す顕著な例であると言える。そうした精神的活動の他例に漏れず、ゴス・ロリもその形成に音楽が多大な影響を与えてきた。個々の嗜好は様々あるだろうが、結果としてMALICE MIZERやX-JAPANに代表されるヴィジュアル系(V系)、インディーズ・パンク、クラシックからはバッハなどは、ゴス・ロリという体系的イメージを創造する要素として大変大きなものだった。
そして、彼女達ゴス・ロリの支持を集めたLLの代表作である《GARDEN of memory》と名を同じくしたカフェ《記憶の庭》は図らずも彼女達のメッカとして知れ渡るようになった、というわけだ。

「私のせいでこんなご迷惑をおかけしてしまって。ごめんなさい、マスター」
「いやいや、平日は常連さんも来てくれるし、休日に来る新顔さんは通ぶって蘊蓄垂れるいけ好かないおっさんばかり。だったらわざわざ遠くから着てくれる若い子の相手する方が楽しいやな」
「そうですか。でも今日は無理を言ってしまって…すみません」
「そんなかしこまらないでくれ。こんな小さな頃から知ってる子の晴れ舞台だ。うちでやってくれて光栄だよ。ほら、ブレンド」
 決して広くはない店内は、テーブルもイスも片付けられ、カウンターチェアを残すのみ。そこに腰掛けたやけに華奢な少女──LLはゆっくりとカップに口を付け、美味しい、と呟く。
 病的に白い肌は、しかし決して青ざめてはいず、むしろ純白で、神秘的とも言えるほどだ。しかし両肩に刻まれた大きな傷跡がその印象を凌駕する。細い琴線のような長い髪は、光の角度で輝く銀に近いこれまた白で、身にまとう黒一色のワンピースと強いコントラストを描いている。明らかに色素異常だと分かるのはその目だ。アルビノと呼ばれる突然変異によるそれは、動脈血を思わせる鮮赤。
 否が応にも、その存在は何か幻想的なものを思わせる。非現実的で異質な存在でありながら、神すら不可侵を誓わざるを得ない美しさと、どれほどの欲も触れることを躊躇う脆さを内包する。なるほど、かの少女達を虜にする要素はこれだけで十分過ぎるだろう。
《GARDEN of memory》発表後すぐにメディアから姿を消してから、一年。告知もPRもなく、噂だけで広がった今日のライブに、彼女達は集まってくる。それは花に寄る蝶……いや、自ら炎に身を投げる羽虫か。彼女にはそう思わせる危うさがあった。
「今日が最後だと思うんだ。私が少女でいられるのは」
「それはどういう意味だい?僕には君は可愛らしい少女にしか見えないよ」
「ふふふ、ありがとうマスター。でも分かってしまったの。なにが、ってわけではないのだけれど。ええと、そうだな……ほら、大人の世界って難しいこといっぱいじゃない。でも私はそんなの知りたくもなかったし、知る必要もなかった。どうせ“そういう場所”は私を嫌うっていうのはなんとなく分かっていたし。可愛いものと美味しいコーヒーがあれば何にも問題はなかったのよ」
そう言って少し考えたLLは続けた。
「あ、そうか。こういう言い方でいいのかな。私は生きてるってことを自覚してしまったの。意識して息を吸ってしまった。その瞬間から息苦しくてたまらない。そういうのって、わかる?」
「あぁ、なんとなく」
「うん。だから大人はみんな必死に息を吸い込んでる。吐き出すことも忘れてね。それでも足らなくて、他人に構う余裕なんか無くして、苦しい苦しいって喉に爪を立ててる」
 そう言ったLLが短く息を吸い込んだのをマスターは見た。それは恐らく意識の外で行われたのだと分かった。発声とともに吐き出した空気を体が反射的に吸い込んだのだ。なんだできるじゃないか、そういう感じ方ができるのは少女だからだ、と彼は思った。
「でも君は違うだろう?吸った息は吐き出すもんだって分かってるじゃないか」
「今は……ね。そのうち生き苦しさに負けて忘れるの。それが歳をとるってことなのよ、きっと。そういうことがおきるのが、現実ってところなのよ」
 虚空を見つめる彼女の目をみて、しかし感じ過ぎることが彼女から少女であることを奪ってしまうことだってあると、その時彼は思い知った。突然、自分の呼吸が重くなったように感じられた。
「可愛くて可愛くて、大好きだったゴス・ロリは、少女しか着ちゃいけないのよ」
「そういうものなのか?」
「うん。だから今日の私はコレ」
と自分のワンピースを翻してみせる。
 精神的概念である故に、ゴス・ロリというカテゴリーには多様のジャンルが生まれ、増してやその世界観は個々人で違ってくる。甘美な精神世界。外圧から解き放たれ、感性と感情によってのみ自らを規定し、非現実的であるが故に自らを傷つけ、その内は黙して語らず、ただその身に帯びる装飾こそが、彼女達のメッセージである。その世界にいられることが少女である証であり、少女にしかその世界は作れない。
「そっちってさ、私みたいな人嫌いじゃない?これから大変だなぁ。あーぁ。こんなだったらもっと贅沢にお洋服買っちゃえば良かったな」
でも着られる服少ないんだよね、と彼女は笑った。それに重なるように、外からいくつもの笑い声が聞こえる。
「ほら、だいぶ人が集まってきたみたいだ。そろそろ開けるよ」
「うん。準備は出来てるよ」

 ステージに立つ。客をステージで待つのが彼女のスタイルだ。白い肌と髪に、炎の色のスポットライトが灯る。
悲鳴も歓声も上げず、少女達は会場を埋めていく。最前列に駆け寄る姿はない。誰もが憧れと畏れを抱いて寄ったり離れたりしながら、しかし最後には吸いこまれるようにその火に飛び込んで行く。
 彼女の呼吸音がマイクに拾われ、空間を埋めていく。それはひとつごとに彼女を殺していく呪いだ。そしてこの場にいる誰もにやがてくる必然だ。それがどれほど酷いことであるか、唯一の大人である彼だけが知っていた。
 純粋である必要は無い。不完全で不安定で非現実的であれば良いのだ。そう伝えてやったら、彼女は救われるだろうか。それともやはり絶望が彼女を殺すのだろうか。


『「手を伸ばせば 届きそうな星空」
ボクを見て笑う 君のアイロニー』
  


 “両肩から先を失った”少女が歌い出した。まるで自分自身を抱きしめるように。
 《星の屑》と題されたLittle Lady最後の言葉が紡がれる。


『君たち少女は小さな舟だ』
 リルケの詩の一説が浮かんだ。あぁ、そうだ。彼女達は寄る辺もなくさ迷い続ける舟に違いない。
 ならばあの子はこれからどうなるのだろう。その舵を取る腕すら無い彼女は。





『きみたち少女は
 四月の夕べの庭のよう。
 春はさまよいながら
 どこと行きつくあてもない。』

───《少女たちの歌・リルケ》