天気がいいから水着になって、甲板に置かれたサマーベッドに寝転んでいると、ストレンジラブが近づいてきた。
この暑さにもかかわらず、彼女はいつもどおりの長袖長ズボンという姿だった。
私が手を振ると、彼女は「こ、これは奇遇ね」などとつぶやいて、目をそらした。
用件を尋ねると、私の体を舐めるように視線を這わせてきた。
そして、「綺麗な肌ね…」と生唾を飲む。
私は少し戸惑いつつ、「そんなことないですよ」と首を振った。
同性愛者だという噂は知っていたけれど、まさか、私は狙われているのだろうか?
彼女は私を見つめ、「いいえ、綺麗な肌よ。でもあまり日焼けするのはいただけないわ」と、手を握ってきた。
私は「別に日焼けぐらい…」と話を打ち切ろうとしたが、彼女は激しく首を振った。
「それはいけない。いけないわ。女の子は肌を大事にしないと!」なんて、妙に興奮した様子だった。
彼女の主張によると、日焼けは皮膚を老化させ、シミやソバカス、最悪の場合皮膚癌の原因にもなるという。
ソバカスの原因になることぐらい私も知っていたけれど、色素の薄いアングロサクソンだけの問題だと思っていた。
けれど、日焼けは皮膚を老化させるのよと女科学者に言われると、急に怖くなってくる。
10代という設定を守るためにも、肌には気を遣う必要があるかもしれない。
私が困っていると、彼女はポケットから小さなチューブを取り出した。
自分が愛用している日焼け止めだという。
プレゼントするから使ってくれと言われ、私は戸惑った。
もらえるのは嬉しいが、彼女の意図はどこにあるのだろうか?
純粋な親切?
あるいは、やはり私を狙っている?
とはいえ、断ることもないかもしれない。
私もある程度の訓練は受けている。
何かあったとしても、運動不足の女科学者から身を守ることぐらい容易い。
力があれ怖れるものはない。
核を持つ国が他国と有利に交渉できるのと同じだ。
私は素直に礼を言ってそれを貰うことにした。
すると彼女は、塗ってあげると言ってチューブから指にクリームを出し、私の胸に押しつけてきた。
突然のことに私は驚き、抵抗するのも忘れてしまった。
白くて細い指が私の腹を撫で、彼女はそれを、ビキニのブラに包まれた胸の谷間へと滑らせた。
「え?ちょっと…」と慌てる私を、彼女は潤んだ目で見つめた。
綺麗…。10歳以上も年上の女性に対し、私はなぜか見とれてしまった。
耳元で「じっとして」と囁かれ、私は黙って頷くしかない。
体の力が抜けて、魅入られたように動けない。
そんな私の全身に、彼女は丁寧に日焼け止めクリームを塗っていった。
私はそんな趣味はないはずなのに、不覚にも少しうっとりしてしまった。
やはりあの女は危険だ…。
気をつけることにしよう。
中米ではサッカーというスポーツの人気が高い。
ステイツ(合衆国)ではまだあまり人気が無いが、ラテンアメリカ(中南米)では熱狂的なファンを持っている。
69年にエルサルバドルとホンジュラスの間に起きた戦争は、サッカー試合でのいざこざが原因と言われているほどだ。
実際には両国は以前から緊張関係ななあり、サッカーはひとつのきっかけにすぎなかったらしいが…。
そうさた説がまことしやかに囁かれてるほどに、中米の人々はサッカーに熱狂しているのだ。
ここの兵士達にもサッカーファンが多く、そんなわけでコスタリカチームとニカラグアチームに分かれて試合をすることになったらしい。
サッカーと言えばボールの他にゴールが要るが、研究開発班が簡易的なサッカーゴールを開発して、甲板に設置してくれたという。
私は別に興味も無かったけれど、チコに誘われて観に行くことになった。
コートの大きさも正式なものとは違う、いい加減な試合だったけれど、選手も応援団もエキサイトしていた。
空き缶やお手製のメガホンを打ち鳴らし、なんだかお祭りみたいな雰囲気だった。
審判のヒューイがホイッスルを吹き、試合が始まった。
身体的には日頃から鍛えている兵士達だが、本職の選手出はないだけに、技術的には荒削りで、ラフプレイも多い。
途中、選手同士の衝突で1人が怪我をした。
それがきっかけで口論になりかけたけれど、ヒューイが取りなした。
「僕たちは国を捨て、この惑星と一体になったはずだ」
――ヒューイはそう言った。
スネークの言葉だ。
「国の優劣を競ってるわけじゃない。
国益をかけて戦ってるわけじゃない」。
「これは戦争じゃない。サッカーは平和のスポーツだろう?」
――ヒューイのそんな言葉に、兵士達はうなずいた。
彼らは戦争の痛みを知っているし、スネークに賛同している。
それゆえに思うところがあったのだろうか。
人数の減ってしまったコスタリカチームには、何故か私が入ることになった。
それまではコスタリカが押していただけに、ヒューイとしてはバランスわ取りたかったのかもしれない。
兵士達もヒューイの判断に賛同した。
コスタリカの選手も、互角の方が楽しいと思ったのかもしれない。
最初は面倒に思っていたが、炎天下でボールを追っていると、本気で走らなくても汗だくになってしまう。
そのうちに半ばやけくそのような気分になり、私は本気でボールに向かい始めた。
敵陣深くでこぼれ球を拾うと、「いけ、シュートだ!」なんて、ニカ(ニカラグア人)のくせにチコが声援を送ってくれた。
渾身の力を込めて放ったシュートは、相手チームのキーパーに阻まれた。
それが悔しくて、私はさらに真剣になってしまった。
結局、私は1点も取れず、コスタリカは逆転負け。
でも、なかなかの接戦だった。
私たちはお互いの健闘を称え合い、疲れた身体を甲板の日陰に横たえた。
火照った体に、強い海風が心地よい。
そこはニュークのお気に入りの場所でもあるらしく、彼もくつろいだ様子で寝そべっていた。
澄んだ青い空を、羊雲がゆっくりと流されていく。
ステイツ(合衆国)ではまだあまり人気が無いが、ラテンアメリカ(中南米)では熱狂的なファンを持っている。
69年にエルサルバドルとホンジュラスの間に起きた戦争は、サッカー試合でのいざこざが原因と言われているほどだ。
実際には両国は以前から緊張関係ななあり、サッカーはひとつのきっかけにすぎなかったらしいが…。
そうさた説がまことしやかに囁かれてるほどに、中米の人々はサッカーに熱狂しているのだ。
ここの兵士達にもサッカーファンが多く、そんなわけでコスタリカチームとニカラグアチームに分かれて試合をすることになったらしい。
サッカーと言えばボールの他にゴールが要るが、研究開発班が簡易的なサッカーゴールを開発して、甲板に設置してくれたという。
私は別に興味も無かったけれど、チコに誘われて観に行くことになった。
コートの大きさも正式なものとは違う、いい加減な試合だったけれど、選手も応援団もエキサイトしていた。
空き缶やお手製のメガホンを打ち鳴らし、なんだかお祭りみたいな雰囲気だった。
審判のヒューイがホイッスルを吹き、試合が始まった。
身体的には日頃から鍛えている兵士達だが、本職の選手出はないだけに、技術的には荒削りで、ラフプレイも多い。
途中、選手同士の衝突で1人が怪我をした。
それがきっかけで口論になりかけたけれど、ヒューイが取りなした。
「僕たちは国を捨て、この惑星と一体になったはずだ」
――ヒューイはそう言った。
スネークの言葉だ。
「国の優劣を競ってるわけじゃない。
国益をかけて戦ってるわけじゃない」。
「これは戦争じゃない。サッカーは平和のスポーツだろう?」
――ヒューイのそんな言葉に、兵士達はうなずいた。
彼らは戦争の痛みを知っているし、スネークに賛同している。
それゆえに思うところがあったのだろうか。
人数の減ってしまったコスタリカチームには、何故か私が入ることになった。
それまではコスタリカが押していただけに、ヒューイとしてはバランスわ取りたかったのかもしれない。
兵士達もヒューイの判断に賛同した。
コスタリカの選手も、互角の方が楽しいと思ったのかもしれない。
最初は面倒に思っていたが、炎天下でボールを追っていると、本気で走らなくても汗だくになってしまう。
そのうちに半ばやけくそのような気分になり、私は本気でボールに向かい始めた。
敵陣深くでこぼれ球を拾うと、「いけ、シュートだ!」なんて、ニカ(ニカラグア人)のくせにチコが声援を送ってくれた。
渾身の力を込めて放ったシュートは、相手チームのキーパーに阻まれた。
それが悔しくて、私はさらに真剣になってしまった。
結局、私は1点も取れず、コスタリカは逆転負け。
でも、なかなかの接戦だった。
私たちはお互いの健闘を称え合い、疲れた身体を甲板の日陰に横たえた。
火照った体に、強い海風が心地よい。
そこはニュークのお気に入りの場所でもあるらしく、彼もくつろいだ様子で寝そべっていた。
澄んだ青い空を、羊雲がゆっくりと流されていく。
例の準備は着々と進んでいる。
ザドルノフを逃がしたのが私だということに、誰も気づいていない。
今日はアマンダと一緒に、セシールにガショピントの作り方をレクチャーした。
ガショピントはフリホレス(黒いんげん豆)とアロス(米)を合わせた、素朴な家庭料理だ。
コスタリカに限らず、中米一帯でよく知られている料理だけに、ニカラグア人のアマンダま得意料理らしい。
でも、私は物心ついて以来、合衆国で育てられたから、母のガショピントをほとんど思い出すこともできない。
脳天気なセシールや革命家気取りのアマンダに話を合わせるのは鬱陶しかった。
とはいえ、あまりに素っ気なくするのも怪しまれそうで、私は彼女たちに付き合うしかないのだ。
特にセシールは、あのテープを録音した本人だけに注意が必要だ。
ミラー達は私が、見つけたテープを勝手に友達のものと思った、と誤解してくれたようだが…。
何にしても、用心しるに越したことはない。
…まずはみんなでニンニクや香草を切って、昨日から水につけておいた豆と一緒に煮込んだ。
豆が煮えるのを待つ間に、フライばかりでタマネギとアロス(米)を炒める。
フライパンを持ったセシールにアマンダがいろいろと指示を出したけれど、セシールは少し鬱陶しそうだった。
フランス人だけあって、料理自体は得意らしい。
それからフライパンに水を入れ、炊きあがるのを待つ。
その間にアマンダは母親の思い出を語ってくれた。
ソモサのせいで彼女も母とは離ればなれになってしまったらしいが、“おふくろの味”はしっかり覚えているらしい。
豆が煮えると水を捨てて、残りの野菜と一緒に炒めなくてはならない。
家庭料理とはいえ、手順は割と複雑だ。
とはいえ、忙しいのはありがたい。
長時間話しすぎると、正体を疑われる可能性も高まる。
女同士となると、可愛く振る舞っていればいいというものではなく、疑われないようにかなり気を遣う。
アロス(米)が炊けたら豆と混ぜて、サルサを加えてさらに炒める。
炒めながら、話題は何故か恋愛のことに移った。
女が集まるとどうしてこんな話になるのだろう?
セシールはかなり恋愛経験が豊富らしく、アマンダにいろいろとアドバイスをしていた。
それだけならいいけれど、私にまで好きな人はいないのかと尋ねてきたのには腹が立つ。
今はいないとごまかそうとしたが、「スネークが好きなんでしょ?」と問いつめられてしまった。
私は面倒になって「そうかも」などと話を合わせた。
セシールは「彼、なかなかセクシーよね」などとうなずいていた。
脳天気なものだ。
私は生きることに精一杯で、恋愛など考えたこともない。
あんな男に興味はない。
そうしているうちに香ばしい匂いが立ちのぼってきて、ガショピントが完成した。
料理をしていることがわかったのか、ニュークが私たちの足にすり寄ってきたけれど、あいにくと猫が喜ぶような食べ物ではなかった。
兵士達に試食させることにして、私たちは食堂に向かった。
思わずありつけた“おふくろの味”に、MSFの兵士達は大喜びだった。
あいつらを喜ばせるつもりは無かったが、私だってこの程度の料理はできるのだ。
スネークも喜んで食べていたけど…。
繰り返すが、私はあんな男に興味ない。
ザドルノフを逃がしたのが私だということに、誰も気づいていない。
今日はアマンダと一緒に、セシールにガショピントの作り方をレクチャーした。
ガショピントはフリホレス(黒いんげん豆)とアロス(米)を合わせた、素朴な家庭料理だ。
コスタリカに限らず、中米一帯でよく知られている料理だけに、ニカラグア人のアマンダま得意料理らしい。
でも、私は物心ついて以来、合衆国で育てられたから、母のガショピントをほとんど思い出すこともできない。
脳天気なセシールや革命家気取りのアマンダに話を合わせるのは鬱陶しかった。
とはいえ、あまりに素っ気なくするのも怪しまれそうで、私は彼女たちに付き合うしかないのだ。
特にセシールは、あのテープを録音した本人だけに注意が必要だ。
ミラー達は私が、見つけたテープを勝手に友達のものと思った、と誤解してくれたようだが…。
何にしても、用心しるに越したことはない。
…まずはみんなでニンニクや香草を切って、昨日から水につけておいた豆と一緒に煮込んだ。
豆が煮えるのを待つ間に、フライばかりでタマネギとアロス(米)を炒める。
フライパンを持ったセシールにアマンダがいろいろと指示を出したけれど、セシールは少し鬱陶しそうだった。
フランス人だけあって、料理自体は得意らしい。
それからフライパンに水を入れ、炊きあがるのを待つ。
その間にアマンダは母親の思い出を語ってくれた。
ソモサのせいで彼女も母とは離ればなれになってしまったらしいが、“おふくろの味”はしっかり覚えているらしい。
豆が煮えると水を捨てて、残りの野菜と一緒に炒めなくてはならない。
家庭料理とはいえ、手順は割と複雑だ。
とはいえ、忙しいのはありがたい。
長時間話しすぎると、正体を疑われる可能性も高まる。
女同士となると、可愛く振る舞っていればいいというものではなく、疑われないようにかなり気を遣う。
アロス(米)が炊けたら豆と混ぜて、サルサを加えてさらに炒める。
炒めながら、話題は何故か恋愛のことに移った。
女が集まるとどうしてこんな話になるのだろう?
セシールはかなり恋愛経験が豊富らしく、アマンダにいろいろとアドバイスをしていた。
それだけならいいけれど、私にまで好きな人はいないのかと尋ねてきたのには腹が立つ。
今はいないとごまかそうとしたが、「スネークが好きなんでしょ?」と問いつめられてしまった。
私は面倒になって「そうかも」などと話を合わせた。
セシールは「彼、なかなかセクシーよね」などとうなずいていた。
脳天気なものだ。
私は生きることに精一杯で、恋愛など考えたこともない。
あんな男に興味はない。
そうしているうちに香ばしい匂いが立ちのぼってきて、ガショピントが完成した。
料理をしていることがわかったのか、ニュークが私たちの足にすり寄ってきたけれど、あいにくと猫が喜ぶような食べ物ではなかった。
兵士達に試食させることにして、私たちは食堂に向かった。
思わずありつけた“おふくろの味”に、MSFの兵士達は大喜びだった。
あいつらを喜ばせるつもりは無かったが、私だってこの程度の料理はできるのだ。
スネークも喜んで食べていたけど…。
繰り返すが、私はあんな男に興味ない。