領地対抗戦の数日前、貴族院にフェアドレンナの雷が轟いた。
「ローゼマイン。マグダレーナが仕掛けたようだな!?」
「その様ですね。フェアドレンナ様は上手くやってくれたようですよ。」
「では、明日には離宮だな。」
「はい。」
翌日第三王子からオルドナンツが来た。
「フェルディナンド様。ローゼマイン様。5の鐘に離宮にお越しください。」
5の鐘になり離宮に行くと…
そこには既にアウブダンケルフェルガーと次期アウブダンケルフェルガーが夫人を伴って来ていた。
その中で第三王子はフェルディナンドとローゼマインに向かい平伏して恭順の姿勢を取った。
それを見て…
「王子!一体何を!」
「控えろ!ダンケルフェルガー!こちらは叡智の女神ローゼマインの化身であられる。そしてフェルディナンド様は我よりも正しき御血筋の尊いお方。この生の後には神に上がられるのだ。」
「えっ!?!?」
「今はエーレンフェストの領主候補生ですから…お気遣いなく。」
「それはそうなのだが…今は其方達よりは上位として向かわせて貰う。」
「はっ!」と、ダンケルフェルガー達は平伏した。ローゼマインから出る神威とフェルディナンドの圧倒的なオーラの前に膝まづかずにはいられなかった。
「して…第三王子。フェアドレンナの雷が轟いたと言うことはマグダレーナが第五に仕掛けたな?」
「はい。第5王子トラオクヴァールにメッサーを突きつけましたが…フェアドレンナの雷が弾き飛ばしまして…メッサー求婚は不成立になりました。」
「フェアドレンナ様は上手くやってくれましたね。」
「して、マグダレーナは今はどうしている?」
「はい。雷によって飛ばされたメッサーは消失してしまいました。」
「あら…雷の威力が強すぎたのかしら?」
「女神ローゼマイン様娘は貴族として生きていかれないと言うことでしょうか?」
と、アウブダンケルフェルガーがローゼマインに聞こうとすると…
光の粒が天井から降りかかり…
《アウブダンケルフェルガー。マグダレーナは駄目です。彼女はどんなにやり直しをさせても無駄に終わりました。貴族としても人としても救いようがないのです。今生はこの段階でシュタープを破棄することにしました。》
「「「女神ローゼマイン様。」」」
《フェルディナンド。そして小さいわたくし。今までの織地のマグダレーナはあなた達に執着するあまり随分と酷いことをしてきましたね。今生はヒルデブラントを誕生させません。》
「女神様…マグダレーナはそれほどまで貴族としても人としてもだめなのでしょうか?」
《ええ。彼女は大領地の姫としての矜持ばかり高くて人を思いやりません。自分中心の高慢な人間です。彼女によって沢山の織地でフェルディナンドは害されてきました。ローゼマインも。そして彼女の産んだヒルデブラントはローゼマインに執着し過ぎてユルゲンシュミットの貴族を民をどれだけ苦しめたことか。何度も織り直し矯正も試みましたが酷くなるばかりで改善しません。なので今生は誕生させません。そしてダンケルフェルガーはここで変わらなければなりません。》
「ダンケルフェルガーが変わらなければならない?」
《そうです。ダンケルフェルガーはツェントの剣とは言いますがそれは自分たちの中でのことですか?》
「いいえ!我らは誇り高きツェントの剣でございます!」
《では第三王子見せて上げなさい。》
「はっ! グルトリスハイト!」
「はっ!あれは!」
「第三は魔術具ではない本物の叡智の女神ローゼマインの書を手に入れた。正式なツェントだ。」
「そうです。第四も第五も絶対に手に入れることはできないもの。」
「王族なのに手に入れられないのですか?」
《そうです。彼らは最初から臣下になるために産まれた。属性が足りません。それにツェントに必要な魔力量もありません。それに努力もしない。わたくしはけして認めません。》
「我らダンケルフェルガーはツェント剣でございます。これからは第三王子をツェントとして使えたく存じます。」
《ダンケルフェルガーは変わらなければなりません。次期アウブダンケルフェルガー、ヴェルデグラフはわたくしの書を受け取るべく動いてもらいます。》
「私は王族ではございませんが?」
「真のグルトリスハイトは王族など関係なく全属性の者が己の全てをもって得るもの。」
《そうです。貴方にはわたくしの書を受取第三王子を支え、国境門に魔力を注ぎなさい。これはマグダレーナを正しく道べなかった其方達の罰でもあります。》
「はっ!承りました。」
「今、第四と第五に不穏な動きがある。私第三王子を廃して自らがツェントになるべく動いているようだ。かなりの数の領地を味方に引き入れて。その一環が今回のマグダレーナの件である。」
「マグダレーナにはフェルディナンド様との婚姻を考えて動いていたのですが…」
「マグダレーナは確かにフェルディナンド様に懸想をしていたようですね。でもフェルディナンド様はマグダレーナを鼻にもかけない。それが、マグダレーナには我慢できなかったのでしょう。それに今生はエーレンフェストからも断り続けられた。そして決定的なわたくしとの王命があったことから見返すために王子との婚姻を考えたのでしょう。でもそれはダンケルフェルガーにとっては悪手にしかなりません。」
《ダンケルフェルガーよ!ツェントの剣として第三王子を支え、クラッセンブルグ及びベルケシットック、アーレンスバッハなどを抑えなさい。いいですね。それからフェルディナンドとローゼマインには何人も手出し無用。そしてダンケルフェルガーの領主候補生をきちんと貴族としてだけでなく人としてもきちんと育てなさい。いいですね。もしできなければダンケルフェルガーからディッターを取り上げます!》
「なんと!そのような事になっては我らは生きてはいけません!必ずやその命を全うします!」
そう言うと…女神は消えました。
「王子よ。卒業式において奉納舞をして即位せよ。その時はダンケルフェルガーが護衛につくように。」
「畏まりました。」
「マグダレーナのシュタープは戻りません。彼女は神殿で青色巫女にしなさい。そして神に真摯に祈ることができるように。」
「しかし…ローゼマイン様神殿は穢れていて姫だったものが行くところでは…」
「何を言っているのですダンケルフェルガー夫人?貴方の目は節穴ですか?たった今までここにおられたのは女神ですよ。ユルゲンシュミットは神の作った箱庭。神に祈りを捧げるところを穢していていいわけないではありませんか!我がエーレンフェストは前アウブエーレンフェストが神殿長に神官長にはフェルディナンドがついています。それに孤児院長は前アウブ第一夫人が就いているのですよ!ダンケルフェルガーは女神との約束を違えるつもりですか?」
「申し訳ございません。すぐに神殿を浄めます。そしてマグダレーナは青色巫女に教育し直します。」
「結構。アウブダンケルフェルガーが神殿長になるのだな?」
「はっ!そうさせていただきます。ヴェルデグラフが書を受けるまでは我が弟が中継ぎアウブとなります。」
「それが良かろう。では卒業式に。」
と、女神ローゼマインも交えた話し合いは終わった。
と、ここまで。