3 五感を通して主なるものから生きられている
あなたは、自分の中で、あなたの主なるものが、こうあなたに語り掛けるのを聞いた。
「わたしは、あなたの主、なにものもとって替わることのできない、唯一無二のあなたであるものである。
わたしは、自ら創造したこの場所を味わうために、主なるものの分身としてのあなたを創造し、かつ、あなたという肉身をまとわせたのである。
そして、あなたを取り巻くものを通して、あなたは、あなたの主なるものを生きるのである。
あなたは、あなたを息づかせるものの強き肌、弱き肌、その中間に存在する数多の感触を通して、あなたの強さであり、あなたの弱さであるものを感じ取る。
あなたを息づかせるものは、主なるものに代わって、あなたの強さであり弱さであるものをつかさどるのである。
また、あなたは、あなたをいざなうものの高き音、低き音、その中間に存在する数多の音を通して、あなたの高さであり、あなたの低さであるものを感じ取る。
あなたをいざなうものは、主なるものに代わって、あなたの高さであり低さであるものをつかさどるのである。
また、あなたは、あなたにかかわる、あなたを取り巻くものの囚われない形、囚われた形、その中間の数多の形を通して、あなたの囚われなさであり、あなたの囚われであるものを感じ取る。
あなたにかかわるものは、主なるものに代わって、あなたの囚われなさであり囚われであるものをつかさどるのである。
また、あなたは、あなたを満たせる、あなたを取り巻くものがあなたにもたらす、充足であるもの、不足であるもの、その中間に存在する、数多の充足と不足の度合いを通して、あなたの豊かさであり、あなたの貧しさであるものを感じ取る。
あなたを満たせるものは、主なるものに代わって、あなたの豊かさであり貧しさであるものをつかさどるのである。
また、あなたは、あなたを守り纏わせる、あなたを取り巻くものが身に纏う匂いの強弱を通して、あなたの堅固さであり、あなたの脆弱さであるものを感じ取る。
あなたを守り纏わせるものは、主なるものに代わって、あなたの堅固さであり脆弱さであるものをつかさどるのである。
また、あなたは、あなたを支え持つ、あなたを取り巻くものがあなたにもたらす、安堵であるもの、不安であるもの、その中間に存在する数多の安堵と不安の度合いを通して、あなたの重さであり、あなたの軽さであるものを感じ取る。
あなたを支え持つものは、主なるものに代わって、あなたの重さであり軽さであるものをつかさどるのである。
また、あなたは、あなたに所有され味わわれる、あなたを取り巻くものの美味であること、美味ではないこと、その中間に存在する数多の味覚を通して、あなたの広大さであり、あなたの狭小さであるものを感じ取る。
あなたに所有され味わわれるものは、主なるものに代わって、あなたの広大さであり狭小さであるものをつかさどるのである。」
かくして、あなたは、自身の内からだけでなく、自分の外からも、主なるものに導かれるのである。
(続き)
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7月1日、アマゾンにて、中世キリスト教神学にインスパイアされた哲学詩「人間の神学」(電子書籍、キンドル版)を刊行しました。
(第1章より抜粋)
なんびとも、自分を否定しきることはできない。
自分を肯定しているからこそ、自分を否定することができるのであり、自分に対する否定そのものが、自分に対する肯定のなりよりの証しなのである。
この否むことのできない自分こそ、自分自身を支える、自分の核である。
そこは、また、肯定されたものとしての自分自身が立ち上がってくる場所である。
<内容紹介>
中世ヨーロッパ神学に着想を得て、人間の信念について問いかける哲学詩。
序章 魂の入れ物である体を通して生きられている
第1章 否むことのできないところから立ちあがる(聖アンセルムス)
第2章 自分に基づくものだけを生きる(アベラルドゥス)
第3章 自分自身から直に生きられる(ルター)
第4章 一にして多である自分(ティエリー)
第5章 自分を育むために他者の存在がある(聖ボナウェントゥラ)
第6章 信じるものが自分を支えている(聖ベルナルドゥス)
第7章 共有できるものを生き合う(トマス・アクィナス)
第8章 具体的なものが、具体的な自分と他者を創る(サン・ヴィクトール学派)
第9章 反対のものからも、また創られる(クザーヌス)
第10章 他の誰でもない、自分であるものを生きる(ウィリアム・オッカム)
第11章 他者から生きられている自分を生きる(エリウゲナ)
第12章 互いは結ばれ合っている(ドゥンス・スコトゥス)
第13章 すでに生きられているものであることに気づく(エックハルト)
第14章 この世界はいかにも美しい(聖フランチェスコ)
終章 人間共通のものを通して、自分を超えた自分であるものと巡り合う
※ブログに掲載のものを元にしていますが、さらに思索を深め、進化を遂げたものになっています。
