小説「あらかじめなる女」(仮題)第7節のテーマは、「あらかじめある程度のことを理解している」です。
主人公の女性は、サイトの相手のことをほとんどなにも知らない。
それでも、この相手に自分を吐露しようと思った。
見ず知らずの他人なのに、どうして自分を吐露しようと思ったのか。
「わたしは、あなたのことをほとんど知らない。
あなたがなにをしている人なのか。
独身なのか既婚者なのか。
どこに住んでいるのか。
普段なにを考え、休みの日になにをしているのか。
どんなことが好きで、またどんなことが嫌いなのか。
わたしが知っているのは、わたしが今理解しているものだけだ。
それも、あなたがわたしに示してくれたことはほんのわずかで、わたしのほうで勝手にいろいろ夢想しているのだ。
わたしが作り上げたあなたの像に対して、わたしはああだこうだと自分の思いを吐露しているのに過ぎない。」
しかし、あなたは、自分の相手が必ずしもまったく理解できない人ではないと思った。
そもそもどうしてこうしてサイトで知り合うことになったのだろう。
そこには共通のものがあるからではないか。
この相手もまた、自分のような対話者を求めていたのだ。
わたしは、もっともっとこの人について知ろう。理解しよう。
それは、自分自身をより知り、理解することでもあるような気がする。
すると、対話者もまた、こういうメッセージをくれたのだ。
「ぼくのことを理解しようとするよりも、あなたがどう理解するかだと、ぼくは思っている。
ぼくのことでじかに知ることはほんのわずかだ。
けれど、あなたは自分が知っているものよりも、もっと理解することができるんだよ。
あなたがぼくのことをもっともっと理解しようとすればね。
それは、ぼくをもっと知ろうとすることではなくて、あなたがどう自分を理解するかということと繋がっている。
同じ人間として、同じ喜び、悲しみ、苦しみ、怒りのようなものを、あなたとぼくとは共有しているはずだ。
そこからあなたなりの、ぼくの真実を突き止めてほしい。
大事なことは事実を知ることではなくて、真実を理解することなんだ。」
※ちなみに、このテーマのバックボーンになっているのは、中世の神学者「聖ボナヴェントゥラ」の段階を通して神を理解する説です。
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