マディソン郡の橋 妄想12フランチェスカ5 | えみゆきのブログ

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涼風真世さんのファンです。
パロディ小説を書いています

マイケルの機嫌は、飛行機を降りたとたんに治った。まるで、1年前のマイケルみたいに、おしゃべりでよく笑う。

ナポリの駅から、私の生家までの道中も、ナポリの街についての質問攻めだった。

 

両親がしていた八百屋の店は、おしゃれなカフェになっていた。

ランチも出し、夜は居酒屋になる、下町の小さな店だった。

 

マスターは片足が少し不自由で、4番目の夫。3番目の夫の患者さんだったそうだ。3番目の夫は医者で、忙しすぎて妻をかまわないと離婚。その時、退院したばかりの人の世話を3番目に頼まれ、そのうち結婚。店の改装費用は3番目が出し、2番目が工事した。

2番目の夫は大工で、離婚理由は彼の母。嫁の立場を強要したのだ。でも最初の夫のことを、キアラは話さない。

「旦那が逃げ出したんだよ。」医者と大工が、こっそり教えてくれた。

元夫たちも、元恋人たちも、近所の人々に混じって、この店にやってくる。

 

マイケルは、たびたび店を手伝った。片言のイタリア語で、客たちと話しをするのが気に入ったみたいだ。

「あの子には、ここの雑多な男たちを見せたほうがいいのよ。世界の中心は自分でないことが、わかるわ。でも、あんたはダメよ。」

キアラは、そう言うと、私をじっと見た。

「18年分の里帰りをしなさい。これは、あんたのこの家の取り分。あんたに借りは作りたくないから、これに少しずつ入れていたの。」

布袋をくれた。中には少額紙幣や小銭がたくさん入っていた。

 

「それを持って、街を散歩しなさい。一人で考える時間が、いるみたいだから・・・。今のフランチェスカは、人混みが一番。昔のあんたなら、椅子に座ってないと考えられなかっただろうけど。」

 

私はナポリの街をさまよった。

パウロと手をつなぎ、笑いながらかけた戦時下の街。バドと腕を組み、すがるように歩いた廃墟の街。

思い出は、たくさんあったが、探したのはロバートのナポリだった。

ナショナルジオグラフィックの写真は、頭に刻み込まれている。

 

ロバートのアングルを求めて、地面に座ったり、屋上に上ったりした。そこで、手でフレームを作り覗くと、景色は一変し、街は生き生きとする。

 

私は、楽しかった。まるで、ロバートと一緒にナポリを歩いているようだった。

「ほら、あの修復中だった教会は、ここまで、できているわ。」

「あら、ロバート!あんな高いところに登ったのね。私には無理。」

私の中のロバートは、答えてくれる。

「完成したら、また撮りたい。」「そう、あの屋根の上は死ぬ思いだったよ。」

 

幾日も街を歩き回り、最後に波止場のベンチに行った。

古びたベンチと、桟橋に停泊する小さな船たち。この波止場の当たり前の風景。

 

でも、ロバートの写真は違った。

ベンチの後ろから、波止場を撮ったものだった。

ベンチは黒くくっきりと画面の下にあり、向こうの船はぼんやりと白く輝き、空と海の境は、夕日を受けてきらめいていた。

 

「どうして、思いついたの?このアングルを!このフレームで切り取ったのってすごい。」

「とても苦労した。フランチェスカ!僕は、真実を撮りたかったんだ!」

 

真実!そう、初めて会った日に、ロバートは熱心にカメラの素晴らしさを語ってくれた。私の目の前で大きな手のひらを、ひらひらさせて。

彼の長い指に、私は見とれてしまった・・・。

 

私は、ベンチに座った。でもパウロを待っているときのように寂しくはない。

すぐ横に、いえ、私の中にロバートがいることを、感じる。

 

目の前の風景より、彼の写真の方が、真実に近いのかもしれない。

ロバートの写真は、悲しみと安らぎがあった。この波止場で、幾世紀も出会いと別れがあったことや、このベンチに座った人々の人生まで浮かんでくるようだった。

 

アングルとフレームで、真実が見えてくる。

 

ロバート!私はあなたを愛して、アングルが変わった。ひとつの見方だけでは無く、いろんなアングルがあることを知った。

私にも、バドにも、子供たちにも違う面がある。

フレームもそう。どう、切り取るか。それができたら、行動できる。

家庭の不和に悩んでいた私だったけど、ロケットのフレームにマイケルを納めたら、すべてが動き出したわ。

 

その時、雲が風に流れ、午後の傾いた陽が射し、海を照らした。

ロバート!あなたを忘れない。私の中のロバートを愛し続ける。あなたと共に生きていく。あなたと一緒に、真実を探していくわ。見かけに隠れた、真実にせまる。

 

だから・・・電話はできない。飛べない、愛を貫くことはできない。いいでしょう、ロバート!4日間のあなたを、一生愛していくから。

 

そうして、私はロバートが恋しいことや、バドへの罪の意識を軽減させた。でも、そう自分を納得させたのに、涙が出てきて、しばらく止まらなかった。

 

帰国まで3日という日の夕方、マイケルが宣言した。

「僕は、ここに残る」と。

固い決意を体いっぱいに、みなぎらせて彼は、私の前に立った。

「キアラがいいと言ってくれたら、母さんは止めないわ。」

「キアラは賛成してくれたけど、本当にいいの?父さん、絶対に怒るよ。」

あれほど強気で私に宣言したのに、マイケルは心配そうに下を向く。

 

バドに国際電話をしたら、烈火のごとく怒り、最後にキアラには聞かせることができない言葉を叫んだ。

「とりあえず、私だけ帰ります。もう赤ちゃんではないんだから、無理やり抱いて帰れないでしょう」

バドが、また怒鳴りそうになったが、私は電話をきって、マイケルにピースサインを送った。

「母さん、ありがとう。することが見つかったら、必ず帰るから。」

久しぶりに抱きついてきた息子が、可愛い。

「父さん、すごく怒るんだろうな。母さん、大丈夫?」

 

大丈夫!自分の道を探すのに、アイオワでは、バドのそばでは無理だもの。

それに・・・、キアラは、私が思っていたような人ではなかった。

本音で生きている人。愛することと同じくらい愛される人なのだ。愛を知った私はやっと彼女を理解できた。

あなたを任せることができる。

 

アングルをいろいろ変えると、真実が見えてくる。

 

帰国する日の朝、キアラと駅でカフェに入った。

「他にご注文は?」

英語の声と一緒に、コーヒーが乱暴に置かれた。ガムをクチャクチャしながら、ウェイトレスが面倒くさそうに聞いてくる。

驚いて、私が首を振ると「どうぞ、ごゆっくり。」と言い残して、去っていく。

 

思わず、声に出して笑ってしまった。デモインでロバートと二人きりの世界に侵入してきたウェイトレスみたい。

 

「何か、面白いこと言ったの。ずいぶん失礼な態度だけど、変な子ね。」

キアラも私につられて、笑う。

「もう大丈夫ね、フランチェスカ。来た時は悩んでいたみたいだけど、どうにか決着つけたみたいね。それにしても、あんたは変わった・・・。きっと、誰かを本気で好きになったのね。あんたの性格なら辛かっただろうけど、素敵な女性になったよ。強くなった。」

 

キアラはホームまで、見送りにきてくれた、次にいつ会えるかわからない。

今までで、一番心が通じているのに、遠く離れてしまう。二人で固く抱擁して、マイケルのことを頼んだ。

 

ナポリを旅発つのは2度目。18年前は、バドの横で不安に震えていた。でも、今は自分が、全力ですべきことを知っている。私の中のロバートが強くしてくれる。