多摩地域のPFAS血液検査、85%の人が「健康被害の恐れ」米国の指標値超える 市民団体が中間報告

 

東京・多摩地域で水道水に利用していた井戸水から発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が検出された問題で、住民の血液検査に取り組んでいる市民団体が30日、国分寺市を中心とした87人分の分析結果を発表した。血中濃度が米国で定める指標値を超えた住民は約85%に上り、分析した専門家は「水道水が主な要因ではないか」と指摘した。(松島京太)

◆専門家「水を飲んで体内に蓄積している」

 調査は、市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」と京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)が行った。PFASは米軍の泡消火剤に含まれ、全国の米軍基地内や周辺などで高濃度で検出され、問題化している。汚染源は、米軍横田基地(福生市など)との関連も疑われている。

 今回は、昨年11月から調べている約600人のうち、中間報告として21〜91歳の87人分の結果を明らかにした。血中に含まれる13種類のPFASを分析し、うちPFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)、PFHxS(ピーエフヘクスエス)、PFNA(ピーエフエヌエー)の4種類の結果をまとめた。国内ではPFASの血中濃度に関する基準がないため、海外の指標値を参考に評価した。

 4種類の合計値で米国の指標値を超過した人は、全体の約85%の74人。特に、国内で製造や輸入が禁止されていないPFHxSの平均値が血液1ミリリットル当たり14.8ナノグラムで、環境省が2021年に全国の約120人を対象に実施した調査と比べ、約15倍の高さだった。指標値を超える人が多くなった大きな要因になった。

 また、PFOSとPFOAをそれぞれ対象としたドイツの指標値では、PFOSでは約24%の21人、PFOAでは約7%の6人が超えた。

PFASの血中濃度を調べるため地域住民の採血などが実施された会場=昨年12月3日、東京都国分寺市で

PFASの血中濃度を調べるため地域住民の採血などが実施された会場=昨年12月3日、東京都国分寺市で

 検査した国分寺市の65人には自宅の浄水器の有無について聞いた。付けていない42人の血中濃度の平均値は4種類のうち3種類で、付けている23人よりも高かった。水道水に含まれたPFASが体内に蓄積されている可能性があるとした。原田准教授によると、浄水器の活性炭がPFASの約9割を除去するとの世界保健機関(WHO)の研究があるという。

 多摩地域の浄水施設では高濃度で検出されたため、34カ所の水源井戸での取水が停止された。それでも高いことに原田准教授は「過去の汚染状況はより高かった可能性があり、水を飲んで体内に蓄積している」と分析。取水停止により多摩地域の水道水は暫定目標値を下回っているが、「都の検査の数値に注意する必要がある」と話す。

 健康影響については、急性に影響が出る数値ではないが、将来的に腎臓がんや、妊娠中の場合、子どもが低体重児になる恐れがあるとした。

 会は、今回の結果を検査を受けた人に伝えた。今後も、羽村や立川、昭島、府中、清瀬市など多摩地域の広範囲で検査し、5月以降に約600人分を取りまとめた最終報告を公表したいとしている。

米国とドイツのPFAS血中濃度の指標値 米国では学術機関の「全米アカデミーズ」、ドイツでは政府諮問機関「ヒトバイオモニタリング委員会」が設定。米国の指標では、7種類のPFASの合計値が1ミリリットル当たり20ナノグラムを超えると健康影響の恐れがある。多摩地域の血液検査では4種類だけで指標値を超えた。ドイツの指標では血中のPFOSが同20ナノグラム、PFOAが同10ナノグラムを超えると、健康に悪影響が出る可能性があるとしている。

◆「烙印を体に押された」報告会でショックの声

 東京・多摩地域で、有害物質PFASの住民の血中濃度を調べている市民団体が30日、立川市内で報告会を開いた。「高濃度と予想はしていたが、現実になってしまった」。血液検査に協力した国分寺市の中村紘子さん(80)は会場でマイクを握り、驚きをそう表現した。

 中村さんは国分寺市に住んで45年。検査結果は、環境省の全国調査の平均値と比べて、PFOS(ピーフォス)が6.6倍、PFOA(ピーフォア)が4.5倍。4種の合計値は、健康被害の恐れがあるとされる米国の指標値の3.5倍を上回っていた。

 「健康診断では、腎臓の数値が悪かった。関連性はどうなのか。身に覚えのない有害物質によって、烙印らくいんを体に押されたような感じだ。いつから、どれくらいの量が流れ込んだのか、汚染物質、量、経路を調べてほしい」と訴えた。

 市内在住の高木比佐子さん(75)の検査結果も米国の指標値の3倍に迫る水準だった。「国分寺の水を使って、お茶を飲んだり、コーヒーを飲んだりしてきた。水は命を守る物。(行政には)しっかり解明、対応してもらいたい」と求めた。

 調査結果を報告した京都大の原田浩二准教授は「今回の数値は高く、沖縄の結果に近い。まだまだ見えていない汚染をしっかり捉えていかないといけない」と指摘。市民団体共同代表の高橋美枝子さん(81)は「(国分寺では)都の調査によると、2011年から浄水場の水で高い数値が出ていた。(国や都は)横田基地の周辺の土壌をもっと熱心に調べるべきだ」と述べた。

   多摩地域のPFAS血液検査、85%の人が「健康被害の恐れ」米国の指標値超える 市民団体が中間報告:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

 

 「PFASを追う」では、在日米軍基地由来のPFAS汚染問題を巡る国や自治体、住民の動きを随時紹介します。

【関連記事】PFAS、国が規制強化に踏み出さない理由とは 健康影響を懸念し欧米は先行 「先回りの対策」求める声

 

関連記事発がん性疑い「PFAS」多摩地域で大規模血液検査 | 

4月1日から水道水に、より高濃度の農薬が投入されます | 

沖縄・宮古島市 水道水と住民の尿から農薬成分 | 

 

水道水から発がん性物質「ベンゼン」検出、基準値の46倍も | 

 

阪大付属病院、トイレで利用するはずの井戸水30年飲み水に使用 |