5月28日(月)、佐藤氏の講演で、この本の発売を知る(5月25日発売)。明治記念館から、歩いて帰る途中、四谷三丁目の「あおい書店」に寄る。 散々探したがなく、店員さんに問い合わせて、探し出してもらい、1冊しかなかったこの本を購入。(あおい書店さん、きっとこれは売れると思うので、もっと沢山置きましょう)
丁度、この日は、松岡大臣の仮通夜が慶應病院の近くで行われたこともあり、外苑東通りは、黒塗りの車とテレビ局のロケ車が、鈴なり- という重苦しい帰路という印象深い日だ。
読後、ちょっと涙ぐんでしまった。「北方領土返還」という壮大なプロジェクトに関わった元外交官、東郷氏の記録物語だ。東郷氏にとって、16年-という長い年月。東郷氏の高い視座と志。そして、やり遂げるまで、ねばるその、不屈の精神。 大きく「北方領土返還」の機会の窓が開いたにも関わらず、クローズできなかったその無念と、後世に託すその想い。
陸奥宗光の蹇々録(けんけんろく)を彷彿とさせる、良書だと思う。 機密文書の引用は無いものの、現場の活動、その経緯、そして何故そういった戦術が必要だったのか、が明確にわかる。
一方、何故そういった戦術にならざるを得ないのかという事についての国民への説明、説得には、やはり、これだけの情報の量と、それを理解する側の読み砕く時間、教養を要するのではないか。 つまり、いわゆるテレビ、新聞で、”手軽に” この核心は伝わらないのではないかと思う。伝わる前に、やはり、利害が対立する団体と議論が泥沼化するのではないだろうか。
従って、大手メディアの新潮社から単行本という形で出版されたのは嬉しいし、社会人に広く読まれる事を、感銘を受けた一読者として願う。
エピローグで、東郷氏は、
外交当局者、マスコミ、国民にそれぞれに、思うところを述べ、
そして、
「外交の本旨は、国家と国民の利益のために貢献することにある。
変化する現実の中で国家と国民の利益に最も応えると信じる施策を立案し、その実現のためにたゆまぬ努力を続けていくことが、国民の前に、職業としての外交の意義を示すこととなる。
私はそう確信する。」
と結ぶ。
本の中、一貫して、東郷氏には、
・高潔さ
・フェアネス
・熱心さ
・教養と能力の高さ
を感じる。
東郷氏と彼が率いたチームがあったからこそ、ここまで機会の窓が開いたと確信する。 結局は、”人”なのだ。物事を動かしていくのは。日本人として、東郷氏や、佐藤氏のような優秀な人材が外務省で活躍できなくなってしまうというのは、国損だと思う。そして、その組織というのは、今後どのようになっていくのだろうか。
外務省退官後、海外での生活を余儀なくされた東郷氏であるが、願わくば、いつか日本の大学で、日本の学生に、教えて欲しいと思う。
えっつい。拝