【佐藤優の眼光紙背】日本政府は支援諸国の主要紙に感謝を表明した意見広告を掲載せよ

眼光紙背:第94回

 3月11日の東日本大震災直後、日本に対して同情的かつ好意的だった国際世論が急速に日本に対して悪い方向に変化している。その理由は2つある。

 第1は、福島第一原発事故に関する国際社会の懸念が強まっていることだ。本件に関しては、英語で情報を積極的に開示することで、少なくとも「日本政府が情報を隠している」という疑念を払拭する必要がある。発表文は定型化されたものが多いので電子的な翻訳補助ソフトを用いれば、作業にそれほど手間はかからないはずだ。世界に向けた発信をしないとどれだけ国益が毀損されるかを政府関係者、国会議員は、わが事としてもっと真剣に考えて欲しい。

 第2は、東日本大震災に対し、各国が日本に対して支援を差し伸べているにもかかわらず、日本が感謝しているかどうかがわからないという不満だ。早急に日本政府と国会が手を打つ必要がある。具体的提案が2つある。

 第1は、日本を支援してくれた国の主要紙に日本国内閣総理大臣・菅直人名で感謝を意を伝える意見広告を掲載することだ。

 第2は、国会が、日本を支援してくれた国名をすべて明示した感謝決議を採択することだ。

 この2つの提案を一週間以内に実現すれば、国際社会における対日イメージの悪化に歯止めをかけることができる。是非検討して欲しい。

 なお、政府の意見広告、国会の感謝決議においては、欠落する国があると逆効果なので、細心の注意を払って欲しい。1991年の第1次湾岸戦争を支援した諸国に関する感謝をクウエート政府が米紙に掲載したが、そこに日本の名前が欠落した事件がある。当時の新聞を引用しておく。

解放、ありがとう 30国名挙げクウェートが米で広告、日本の名なし

【ワシントン11日=村松泰雄】「ありがとうアメリカ。そして地球家族の国々」。イラクからの解放を国際社会に感謝するため、クウェート政府が11日付のワシントン・ポスト紙に掲載した全面広告の国名リストに、湾岸の当事国を除けば多国籍軍への世界最大の財政貢献国である「日本」がなかった。日本と同様、兵力の直接提供を拒んだドイツは載っている。
 この広告は、ワシントンのクウェート大使館の提供によるもので、タイム、ニューズウイークなど米有力紙誌の最新号にも一斉に掲載された。米、英、仏をはじめ、貢献規模としては大きくないチェコスロバキアやアフリカ諸国まで、「砂漠の平和」に貢献した「国連に基づく国際協調」への参加30の国名が列挙されているが、財政貢献だけの日本、それに韓国も除かれている。
 このリストは、米ホワイトハウスが先に公表した戦力派遣28カ国に、米国とポーランドを加えたもので、ドイツについては独自の兵力派遣を拒んだものの、北大西洋条約機構(NATO)軍の一部としてトルコに航空戦力を派遣したことなどが、「参加」という位置付けにつながっている。「なぜ国際協調から日本を除いたのか、理由を調べてみるが、意図的な誤りではない」というのが、クウェート大使館当局者の説明だ。
 日本政府は今のところ、この広告に対して措置をとることを「大人げない」として、あえて静観の構えだが、この広告が「評価されない日本」「何をしようとしているのか分からない日本」のイメージを一層定着させることを、恐れている。(1991年3月12日朝日新聞夕刊)


 こういう事態を引き起こさないように、政府関係者におかれては細心の注意を払って欲しい。(2011年3月30日脱稿)