Real Love The Beatles
わりと突然にビートルズ最後の新曲"Now and Then"が最近リリースされた。元々『アンソロジーⅢ』に収録予定の新曲だったというのを知っていたし、YouTube上でも聴けたから、その内容に特に驚くことはない。
アンソロジーがリリースされた頃は高校生だった。その時でビートルズの解散からは四半世紀を経ていたのだが、僕はアンソロジーの特にⅡに収録された「新曲」を、わりと気に入って聴いている。
この"Real Love"という、いかにもジョン・レノンらしいタイトルのこの曲は、ジョン・レノン個人の未発表曲として死後にリリース済みだったから、そのピアノのデモに沿って音を重ねたようなものだが、ジョージ・マーティンではなくELOのジェフ・リンがプロデュースしたサウンドは、ジョージ・マーティンがジョン・レノンのソロBoxに収録した"Grow Old with Me"につけたような陳腐なオーケストレーションよりもずっと良かった。ジェフ・リンを起用したのはジョージ・ハリスンの意見で、曲にはジョージお得意のボーカルの後に入れるギターと、間奏のスライド・ギターが目立って鳴っている。タイトルに限らず歌詞はいかにもジョン・レノンらしく、メロディもジョンらしい。
The Ballad of John and Yoko The Beatles
"Real Love"はポール・マッカートニーの印象が薄いが、タイトルと裏腹に、こちらはジョンとポールの演奏によるバラード、というより、50年代ロックのリバイバルだ。元ネタはジョニー・バーネットの"Lonesome Tears in My Eyes"のギター・リフだが、それよりもビートルズがBBCのLiveで披露していたその曲のカヴァーの演奏のノリに近い。それ以外の基本的な構造は3コードのロックで、ミドルからヴァースに戻る前の"Think"のジョンのシャウトと、その後のポールのドラムのタイミングがよく合っている。ボブ・ディランの影響なのか、作曲からレコーディングまでが早いのがこの時期のジョン・レノンの特徴だが、ロックンロールの魅力は詰まっている。
Oral Bjork feat. Rosalia
ネットを見ていたら突然に見つかったビョークの新作。PVの最初にメッセージが表示されるように、「生態系を脅かし、奇形な魚を産み出し、サケのDNAと生存を危機に晒す集約養殖の発展を止めること」を意図しているが、音楽自体はそれとは独立してすごく良い。ビョークと競演しているのはロザリアで、TikTokで話題になったスペインのアーバン・フラメンコ・シンガーだ。
曲の出来がいいのは、元々ビョークの絶頂期といえる『ホモジェニック』と『ヴェスパタイン』の頃の曲で、どちらのアルバムの雰囲気にも合わないためにお蔵入りしていたものだからだろう。その曲を最近になって引っ張り出したビョークは、アレンジに一番合う今どきのシンガーを見つけ出し、ロザリアもそれに応えるようなヴォーカルを提供している。集約養殖は奇形を産んだが、こちらの化学変化は過去の作品を最高の形にしている。ビョークはコンセプトを形にする力に極めて長けたミュージシャンだが、今回はローリングストーン誌のインタビュー記事のラストがそれといえるだろう。
You have to be able to imagine a future and live in it. It’s too lazy to indulge in the worst-case scenario always
未来を想像して、そこで生きていかないといけないの。いつも最悪のケースやシナリオばかりに浸っているのはあまりにも怠惰な行為よ。
Endless Story Uru
映画『NANA』の挿入歌で、実はカバー曲。オリジナルの存在はよく知らないが、R&Bが普通に聴かれるようになっていた時代背景を考えると、ジョディ・ワトリーのカヴァー"If I'm Not in Love"がベースなのだと思う。
これは劇中でレイラ役の伊藤由奈が歌った曲をUruというシンガーがYouTubeでカバーしたものだが、ピアノの音が割れたりしてるのを除くとオリジナル?より切ない感じというか、脆さや壊れそうな感じが出ていていい。
NANAは序盤が少しキツいが、バンドメンバー(身内)同士でつながる展開になってからは読める。あのBad Endはモデルにしたミュージシャン(シド・ヴィシャスとカート・コバーン)がイメージにあるのだろうが、今の貴重なモノを大切にしようという作者のメッセージなのだろう。
Find a Way A Tribe Called Quest
このトラックをこれまでリストに入れていなかったのが不思議だが、昔からよく聴いている。まったく個人的なイメージだが、冬の旧国立のあたりを歩いている景色が浮かぶ。
サンプリング・ソースはテイ・トウワの"Technova"。ATCQ(というかJディラ)の使い方も凄いが、オリジナルも相当にドープだ。
Love Is All Music Tomomi Kahara
TKプロデュースの曲は、これまでほとんど挙げたことがない。ただ、時代的には間違いなくその全盛期が10代なので、まったく個人的にはこの曲を聴くとテニス部のSさんが町田のカラオケボックスで歌っていたのを思い出す。ブルース・ハープを入れたイントロや、朋ちゃんの声質やキャラに寄せた曲調は最後の良い時代という感じがする。パンツスーツでナチュラルにフェミニンな感じを出したのは華原朋美が最初だと思うし、マエストロに扮したPVは"I'm Proud"よりも綺麗かもしれない。
朋ちゃんはすでにこの頃の面影がまったくなく、今のTKはもうおじいちゃんのようだが、常に10歳は若く見られる自分自身も最近というか今年は老けてきた気がする。だが、そう思ったら急に進行していきそうなので、そこは一時的なものだと思いたい。
Careless Whisper Tamia
そういえばいつの間にか亡くなっていたジョージ・マイケルの死後、この曲「ケアレス・ウィスパー」は10億再生を突破しているらしい。80年代の雰囲気たっぷりのゴージャスなサウンドは、サックスの音色のように古びてこないようだ。
自分が聴いているのは90年代にタミアがカヴァーしたものだが、元々中性的な感じのする曲なので女性の声向きだし、ジャジーな感じはクインシー・ジョーンズのバックアップの下でデビューしたタミアにマッチしていて、"So Into You"同様、定期的になんとなく聴きたくなる。
The Boxer Simon & Garfunkel
アコースティック・ギターのアルペジオがベースなのだが、後期のサイモン&ガーファンクルはフォークまたはピアノ・バラードのサウンドにエコーを効かせることを徹底的に追求している。普通に聴いても「ライラライ」のコーラスが印象的な名曲だが、あのサビの要所で鳴り響くスネア・ドラムの録音秘話を紐解きながら聴くとまた格別な感じがする。ドラムもストリングスも教会で録音したというコーラスも盛り上げるだけ盛り上げて、最後はまたイントロと同じアコースティック・ギターのアルペジオに静かに戻って終わるのも真っ白に燃え尽きる「ボクサー」という感じがしていい。But the fighter still remains.
勇者 YOASOBI
サンデーの連載を普通に愛読しているが、アニメ化された『葬送のフリーレン』のオープニング曲。視聴者の反応は同じYOASHOBIの「アイドル」に比べて芳しくないようだが、自分は普通に悪くないと思う。「アイドル」がわからない=感性がもう若くない、いうことかもしれないが、サウンド的に少し前の全米チャートにのったヒップホップをボカロっぽくしただけ、またはAI任せという感じがするだけだ。
「勇者」の方も特に基本設計は変わらないのだろうが、ビートの選択やキーボードの音、梶浦由紀のようなコーラスが嗜好に合っているのだと思う。歌詞は原作を見たり読んだりしてない人に伝わりそうにない凡庸さだが、基本的に若い人のやることに口を挟むのは、総じて自分の首を絞めるのと同じことだと思っている。
花の塔 さユり
昨年話題になっていたアニメがAbemaで一挙配信していたので視聴したが、普通に楽しめた。基本的にファンアートやエヴァや魔法少女的な系譜の再構築という感じだが、モノづくりの基本といえる細部にこだわることで新しい感じになっている。たとえば、制服のデザインは乃木坂の制服を担当している尾内貴美香さんのものということだが、キャラデザの人のインタビュー記事を読むと、
一発でその作品とわかる学生服のデザインを作るのは本当に難しい
ものらしい。また、コンプラ的にちょっと銃撃要素が多いが、安倍晋三暗殺の中でも完走させて、なおかつバッドエンドにしない、という意思が見える結末も、オリジナル的要素を強めているといえるだろう。
音楽としてはオープニングが『まどか⭐︎マギカ』のClariSで、これは過去のアニメの踏襲という感じだが、シティーハンター的に毎エピソードの終わりに上手く被せてくるエンディング曲が新しさを感じるところ。
一方で、僕はOP曲のこの部分が割と好きなのだが、これは『スタンド・バイ・ミー』。作ってる人たちは楽しいだろうな、と思う。
Make You Feel My Love Bob Dylan
『タイム・アウト・オブ・マインド』に収録されているこの曲はリリース直後からカントリー筋でカヴァーされたり、アデルも取り上げたりしている有名曲だが、手垢が付いているようでリストには入れていなかった。だが、本当にしわがれた声で歌われるこのバラードは、結局耳を傾けてみたくなる。いい作品やヒット作とは総じてそういうもので、好みや時代を超えて浸透する。
Live from Master Control DJ Babu
デヴィッド・ポーターの"I'm Afraid the Masquerade Is Over"をサンプリングした曲で、プロデュースはアルケミスト。アルケミストにしては普通のサンプリングかな、と思ったが、切り抜き方はさすがだし、何より元曲のヒップホップとの親和性が高い。
デヴィッド・ポーターはアイザック・ヘイズと組んでスタックス・レコードの一連のメンフィス・サウンドを作った人物で、Notorious B.I.G.の"Who Shot Ya"は5分過ぎくらいの静かなピアノの所から、DJ Babuの方は6:35くらいのソウルフルなヴォーカルとストリングス・パートを使っている。
アイデアの構築というのはもう身につけていなければ生きていけないし、情報を短期間で検索→吸収→アウトプットする技術は僕自身幸いたぶん得意な方なのだろう。ただ、僕はもう少し、先に行ってみたい。
Touch Me in the Morning Diana Ross
この曲ももっと早く、少なくとも3年前には挙げる予定だったが、多分小比類巻かほるのカヴァーと迷ったせいか今頃になった。ダイアナ・ロスの歌唱は今の世にはモダンというより古風で、古き良きアメリカというかお母さんっぽさがあるが、あのPrinceの目にもとまった小比類巻かほるのLiveバージョンはもっとシックな感じがする。
それでもこの後にダイアナ・ロス版、つまりオリジナルを聴くと、ダイアナ・ロスの偉大さに気づく。バラードでありながら静→動の流麗で劇的な展開を持つ、ポップス寄りのスタンダード曲だが、歌唱はあくまでもSoulが基本なのだ。逆を言えば、小比類巻かほるがその匂いをしっかり身につけて歌っているのだろう。
The John Lennon Collection John Lennon
久しぶりにアルバム単位で。ダイアナ・ロスのアルバム『タッチ・ミー・イン・ザ・モーニング』にはジョン・レノンの「イマジン」のカバーが収録されている。「イマジン」はもう当たり前すぎて敬遠されてしまうようなジャンルに入るのかもしれないが、躊躇なくこの曲を推すのを躊躇わないのはむしろ反骨精神旺盛なロックのレジェンド達だ。以下のUncut誌掲載のインタビューはこれ以上ない真実のレビューだと思っている。
Mick Jagger: My favourite Lennon song? “Imagine”, I should think. Because it’s the most catchy. I mean, there are many others, obviously, but that’s one that I like.
一番好きなレノンの曲?「イマジン」だな。一番人の心を掴んでるから。明らかに他にもたくさんあるけど、俺が好きなのはそれだ。-ミック・ジャガー
Neil Young: I did “Imagine” for a benefit show because I love that song. It’s apparently religious but not in the way you think – because that’s not always a good thing. You could say it’s holy, but not Christian, and it tells the right story. A story that was right for those circumstances.
俺はチャリティー・ショーで「イマジン」を演った。俺の好きな曲だから。明らかに宗教的だが、考え方によってそうではない。宗教はいつもいいものってわけではないからな。神聖かもしれないけど、キリスト教的ではない。そして、語られているのは真実。どんな状況でも正しいといえるストーリーだ。-ニール・ヤング
ジョン・レノンの作品は常にリイシューされ、最近のようにまるで墓からテープが掘り起こされるような作品もリリースされる。(AIの力が加えられてらいるのが今風だ)。だが一番決定的なのは、殺害された当日の朝にアニー・リーヴォヴィッツが撮影した写真が印象的な、すでに廃盤になっているこのベスト盤だ。"Give Peace a Chance"、"Instant Karma!"、"Power to the People"といったメッセージのあるロック・ソングを冒頭に配して、"#9 Dreams"、"Mind Games"といった内省的ながら耳に残る曲で箸休め、"Love"、"Happy Xmas (War Is Over)"、"Imagine"のようなフィル・スペクターのプロデュースでスタンダードになっている名曲群を中盤に据え、"Stand By Me"のカヴァーを経て静かにラスト・アルバム『ダブル・ファンタジー』のwishing bellの音"(Just Like) Starting Over"につなげる構成は、まさにミック・ジャガーのコメントのそれのようだ。
Beautiful Tonight Paul McCartney
最後にポール・マッカートニーのピアノ・バラードを置いたのは冒頭との釣り合いだが、この曲を収録したポールのソロ作『ブレイミング・パイ』もそういう位置付けだ。基本的に、あまり時間をかけずに、できたものをみんなで集まってぱっと仕上げる。大仰なストリングス・アレンジはジョージ・マーティンで、ドラムと最後のタイトル・コーラスはリンゴ・スター。つまり3/5ビートルズで、実際に後期のビートルズのアルバムのいずれかにこの曲が入っていても、そこそこの人気曲になっていただろう。