音楽133 〜ma$e | Remember Every Moment

Remember Every Moment

Live your life filled with joy and wonder!
(人生はチョコレートの箱、開けてみるまで分からない…。)

スティーヴ・アオキという世界的に有名なDJがいる。そのスティーヴ・アオキ氏が『Kolony』というタイトルの作品をリリースした時、とあるインタビュー記事で客演したメイスを「レジェンド」と称していたのが(その記事のインタビュアーと同様)自分にとってはかなりツボだった。
メイスといえば、ノトーリアス・B.I.G.の次にパフ・ダディーが拾いあげて大成功させたラッパーだが、2ndアルバムがそれまでに比べると明らかにイマイチのセールスだったせいか突如「牧師になる」と言ってあっさり身を引いた、既に過去の記憶のなかの人物だ。
しかしメイスのインパクトのある「ゆるキャラ」のようなラップはそれなりに衝撃というか爪痕をしっかりと残していて、カニエ・ウェストのラップ・スタイルの原型や、その他有名ラッパーがヒップホップに関心を持つきっかけになっていたりする。今回取り上げるのはMa$eをレジェンドたらしめる伝説的?な4曲だ。

Lookin' at Me  Mase



ネプチューンズ、つまりファレル・ウィリアムスのプロデューサーとしての最初期のヒットの一つで、これで全米トップ10ヒットのラップだと?と誰もが思うたぐいの曲だ。しかし、一周まわって見方の変わってくるものが世の中にはあるが、これがまさにそれである。リリースされた1997年はビートの概念が一変するような曲がたくさん生まれた年だと思うが、鬼才ネプチューンズの作ったこの曲も例外ではない。一般的なファレルのイメージは数年前に大ヒットした"Happy"なのだろうが、サイド・プロジェクトのN.E.R.Dで作ろうと思えばノーマルな曲も作れるのがとっくの昔に分かっている身としては、あれは少々退屈だった。

Love Me  112 feat. Mase



メイスの2ndに先立って、ノトーリアス・B.I.G.を失ったパフ・ダディー率いるバッド・ボーイ・レーベルはフェイス・エヴァンス、トータル、112が一斉に2ndアルバムとリード・シングルをリリースしていた。そのうち112のリード・シングルがこの曲で、ルーサー・ヴァンドロスの元ネタをバックにイントロとミドルでラップを披露していたのが客演ラッパーとしても最高なメイス。単にラッパーとしては声量もスキルも大したことなさそうなメイスだが、R&Bシンガーのおかげでヒットしたようなフィーチャリング・ラッパーもいる中、トラックの中でメイスのラップ部分を聴くのが待ち遠しく感じる程、この曲では存在感を発揮している。一聴中身のないスカスカなリリックは、今となってはイジるのが不可能な存在のJay-Zをふつうにdisっているのも、当時ヒット曲の尽きなかったメイスだからこそできる芸当だ。

Feel So Good  Mase



能天気なホーンと「パーリーピーポー」のかけ声ではじまる、メイスの代表作。イントロから全てがクール・アンド・ザ・ギャングの"Hollywood Swinging"をそのまま流用したいかにもバッド・ボーイらしい「フロア向け」ヒット曲だが、この中毒性の高いトラックに鹿爪らしい顔で抵抗できる人はあまりいないだろう。
フックの部分を歌っているのはカニエ・ウェストの『ザ・ライフ・オブ・パブロ』に久しぶりに顔出ししていたケリー・プライスで、この頃の一連のバッド・ボーイ作品の客演を経てソロアルバムをリリース。そのヒットを受けてフェイス・エヴァンスと共にホイットニー・ヒューストンの「ハートブレイク・ホテル」にフィーチャーされるまでに上り詰めています。このケリー・プライスが歌う部分はマイアミ・サウンド・マシーンの"Bad Boy"を引用していますが、よりパーティー感のあるR&Bに変えているのがポイントだ。

Get Ready  Mase feat. Blackstreet



パフ・ダディー×テディー・ライリー、メイス×ブラックストリートという組み合わせで、シャラマーの"A Night to Remember"をほぼそのまま使ったヒット確実な曲だったにもかかわらず、バッド・ボーイの凋落を象徴する大爆死作となったのがこのトラック。今聴けば史上最もunderratedな曲の一つといっても良い程のクオリティだ。PVのメイスも、元バスケ選手っぽいカッコ良さで、いつもの?成金っぽさが全くない。
ヒットしなかったのはもしかしたらメイスにしては余りにクールすぎる曲だったせいなのかもしれないが、ブライアン・マックナイトの曲に客演した時もカッコ良さを前面に出していたものだ。この振り幅の広さを知ってこそ、メイスがいかに「レジェンド」と呼ばれるにふさわしい存在かが分かるだろう。

おまけ

Be This Way  Ghostface Killah
カニエ・ウェストのアーティストとしての最初のヒット曲"Through the Wire"にはこんな一節がある。



If you could feel how my face felt
もし俺の顔がどんな(痛みを)感じたのかわかるなら
You would know how Mase felt
(××された)メイスがどんな感じだったか分かるだろう

分かり易く補足すると、カニエの"Through the Wire"は居眠り運転の衝突事故で顔にワイヤーを入れるほどの重傷を負ったカニエが体験談をリリックにしたもので、それが前半部分。後半は、メイスが同じくラッパーのゴーストフェイス・キラに会った際、ゴーストフェイスの連れがメイスを殴って顎を粉砕したエピソードを、faceとma$eで韻を踏んでリスペクトしているものだ。



ゴーストフェイス・キラは90年代HipHop屈指のグループWu-TangClanのメンバーで、強面の切れ味鋭いハイテンション・ラッパー。ソロ作からのこの曲はこれまたHipHopプロデューサーとしてはall time best級のNottzが手掛けている。サンプルされているソウル・ミュージック・ネタはビリー・スチュアートの"(We'll Always Be) Together"。ビリー・スチュアートは代表作の「サマータイム」の巻き舌に象徴されるように陽気な巨漢系シンガーのイメージだが、Nottzの手に掛かるとメロディアスでソウルフルなフレーズも荒々しくラフな仕上がりになって、ゴーストフェイス・キラのラップとの相性が凄まじい。