初めて書いた処方箋 | That's where we are

That's where we are

the Church of Broken Pieces
(アメリカ救急医の独り言と二人言)

一日何か一つ、新しいことにチャレンジ

 

そう言うと大げさに聞こえる

というか、かなり大げさなのだが

 

今までと違うルートで家に帰ってみるとか

(治安の問題があるので

病院の周りではやらないが)

新製品を買って試してみるとか

 

そんなちょこっとしたことでも良いから

何か、新しいことをしてみる

時々、忘れはするが、それを日課にして

2年くらいになるかもしれない

 

それで人生が変わるわけでもないし

まあ、石橋を叩き割ってからも渡らない性格で

外見は冷静を装っていても中身はビビり

変化に非常に弱い人間である私には

自分の背中をずんっと押すための

動機づけと言うか、気付け剤と言うか

 

ステージIIの時点で化学療法を始め

一回目の治療は事無く終わったのだが

最近お腹が張って、どうにも良くならない癌患者

 

腹部CTには複数の臓器に播種し

転移した癌と腹水が写っていた

 

「ああっ、やだやだ、

これ、あの患者に言わなくちゃならないなんて」

 

この種類の癌患者って

なんでいい人ばっかりなんでしょうね?

家族も良い人だし

いかつい見かけの研修医は、机に突っ伏した

 

「私が行こうか?」

シフトの終りで、頭も体も心も疲れている

礼儀正しく、ニコニコと笑い

一句一句丁寧に話す患者に

"Bad news"を伝えなくてはいけないのは

頭を上から押さえつけられた様な気になる

 

「いや、俺が行きます」

 

研修医は立ち上がると

患者の部屋へ入って行った

 

その間、腫瘍内科の当直へ連絡すると

たまたま、患者の事をよく知っている人で

入院が必要ならそうして下さい

そうでなければ、2回目の化学療法を

手配するので、私から患者に連絡します

ドライな話し方ではあったが

電話越しの声はどこなしか、悔しそうだった

 

研修医が帰って来た

 

今夜は家へ帰りたいそうです

痛みはないし、ただ聞かれたのが

なにか食欲を増す薬はないですかって

 

食欲減退は緊急事態ではないが

何かしてあげたい、どうにかしてあげたい

そんな研修医の無言の切望が伝わって来た

 

食欲増進剤はあることはあって

そのひとつがドロナビノールという

大麻に含まれる成分の一部を薬品にしたものだ

 

大麻の解禁については色々な見解があるが

レジャー、嗜好品としての大麻の使用は

私は断固として反対である

(タバコより、お酒より安全だと言う人がいるが

私はそれは「目くそ鼻くそを笑う」と

似たような議論だと思う)

 

正当な理由で処方される医療用大麻には

それなりの役割と利益があるとは思うが

何が「正当」なのか、その線引きが難しい

 

フィラデルフィアでは少量の大麻は

個人の所有なら罪にはならないので

どこかで買って、吸ってみるという手もあるが

(どこで買えるのかは知りません)

患者も家族も、まっとうに生きて来た

正直、善良な市民と言う感じの人達で

また、それを勧めるのは医療従事者の立場上

まずいのではないか?ということで

ああだ、こうだと15分くらい研修医と話し合い

ドロナビノールの処方箋を書くことにした

 

DEAライセンスと言う、麻薬取締局が発行する

特別な番号が必要な処方箋で

研修医が書くことはできない

 

食欲不振は緊急事態ではないから

私にとっても初め書く処方箋だった

大麻の一成分であるから

医療品であるのは分かっていても

処方箋にサインするのは、ちょっとドキドキした

 

初めて出す薬の処方箋って

何年ぶりだろう?

 


新しいことにチャレンジはしたいが

チャレンジしないでも良い日があるのも

悪くないのかもしれない

 

 

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