私は自他とも認める「ホワイト・クラウド」で
ややこしい患者を引きにくい
運命と言うか体質と言うか
私がONの際、ERは割と静かになる
が、この日は全く違っていた
電子カルテを開けるため
コンピューターにログインした途端
救急隊から
『7歳児、けいれん発作持続中
到着時間、5分です』
同時に呼吸不全の患者、到着
同僚「私はこっちの患者を診るから
あなたは子供の方をお願い」
救急の研修プログラムに移る前
2年間小児科の研修医をやったせいか
(専門医になるには3年の研修が必要)
子供の患者を振られることが多い
ま、いいんだけどさ
子供の状態が落ち着いた、と思ったら
『蘇生後の患者、急性心筋梗塞の可能性
到着時間、10分です』
救急隊から心電図がFAXされてきた
研修医「これ、ST上昇型心筋梗塞ですよね?」
私「う~ん、微妙だなあ、違うと思うけど」
(ST上昇型なら心臓カテーテルが緊急に必要)
救急隊は大急ぎで
家族らしき人たちもパニックになっていて
名前もなにも分からない「名無しの権兵衛」
到着後取り直した心電図ではST上昇型ではなく
心臓カテーテルのチームを呼ばなくても良かったが
ナース「血圧測れません!」
研修医にコレとコレやって、オーダーしてと指示出し
さっきオーダーした検査の結果は...と
コンピューターのある机へ戻ろうとしたら
「ストレッチャー持って来て!」
受付にいた同僚が駆け込んできた
「トリアージにいる患者がけいれん発作起こして
ひっくり返ったんだ」
なんか、もう、次から次へと
「何なの、これ?あなたが連れてきたの?」
ナース陣に皮肉られた
「え~、そんなことないよ~
私がホワイト・クラウドだって、皆知ってるでしょ」
「そうよね、普通は静かよね」
「もしかして、J君、ERのどっかに潜んでない?」
J君は私の後輩+同僚
やたらよややこしい患者を引くし
J君が通りかかっただけで
患者が心肺停止になったという曰くつき
(←これは私の患者でも経験済みの事実)
今日、J君はオフィスで仕事をしているはず
でも、彼は時々ひょこっとERを覗きに来る
来るな、患者の容体が急変するから
さっさとどっかへ行ってくれと
半分冗談、半分本気で追っ払うのだが
こんなくだらない冗談にも
ナースが真剣な面持ちで頷くほど
患者の重症度が異常に高い日だった
トイレに行くと言いながら
何時間も行けないままの同僚
「今日は何なのかしら?あなた、大丈夫?」
大丈夫も何も
「こんなに楽しいの久しぶり」
研修医も必死で仕事をしている
「ね、楽しいと思わない、これって?」
一瞬、「え?」という顔をした3年目研修医
「はいっ、楽しいです!」
ああ、幸せだな
こういう日のために4年間の研修をし
(ほぼ)毎日勉強し続けるのだ
そして、この状態がER医としての醍醐味だという事に
共感してくれる研修医がいる
"Dr. O, we need you here!
We got a hypotensive girl!"
診察室のカーテンを開けたナースが叫ぶ
目の前にいるインターンと目が合った
"You come with me."