悩めるサーカス団オーナー |   EMA THE FROG

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元来「商才」つうのがない訳です。金を稼ぐという事に才能がない。ケチではあるのだけど、金に特別な興味はない。小説家になりたいと口にするとき、あるいはそう書くとき、金の臭いは一切しない。金の為に小説を書くわけでも、金のために小説家になりたいのでもない。イイコちゃんぶりたいのではなく、素直にそうなのだ。小説を書いて金を稼ぐ人=小説家だとしたら、僕はそもそもが小説家になる資格がないのかもしれない。いや、もちろん、素敵な小説を書いて、それが結果的に大きなお金を生み出したのなら、素晴らしい。ただし、大きなお金になりそうな小説とは何かを考え、その上で書くのは違うだろうと思う。繰り返すが、イイコちゃんぶりたいわけではないので、こういうことを書いているとちょっと不安になってくる。ちょっと恥ずかしくもある。恥ずかしいので、僕の尊敬するラッパー、ブルーハーブのBOSSさんの言葉で除菌。「音楽は商品でしかないというのはもっともだ 売れればいいという説もある意味本当だ だが物作りはどんなに辛く苦しかろうが 俺らにとっては神聖な信仰のようなものだ――Tha Blue Herb“Still Standing In The Bog」

さて、つまりは小説ブログの話だ。仕事の合間の時間を使ってコツコツと、これまでに完成させた小説作品のほとんどをネットにアップロードした。それは確かに、全世界の人がアクセス可能なネット上に存在している。確かに、あるのだ。僕は小説ブログの開設という、個人的には多少の覚悟を伴った行動に夢中になり、昔のデータを引っ張り出しては、毎回ドキドキしながらアップした。どこぞの誰かがサイトを訪れ、僕の書いた文章のいずれかに何かを感じ、もしかしたらそれがキッカケで彼彼女の人生が変わるのかもしれない。小説作品は既に、僕の手を離れて全世界の共有物となった。ああ、ドキドキする。僕は僕の小説が誰かに及ぼすかもしれない変化について、どれほどの責任を負えるというのだろう!ああ、ドキドキする。

……そしていま目の前には、僕のUSBフラッシュメモリの中でひっそりと保管されていた時と何も変わらない、誰に目にも留まらない孤独な作品たちの姿がある。彼らはまるで、客が一人もいないサーカスのステージで、それでも健気に演技を続ける猿や象のように切ない。僕は彼らを抱きしめたくなる。そして、最前列の中央席に座り、僕だけでも彼らの演技を楽しもうと努力するだろう。一人とはいえ客が現れたことに彼らは一瞬安堵の表情を浮かべる。そしてすぐに、僕の現れる前よりずっと惨めそうな顔つきになり、頭を垂れて落胆し、やがてついに、その動きを止めてしまう。「どうしたんだい?僕は客だよ。客がいるんだよ。さあ演技を続けておくれ!」僕は立ち上がり、叫ぶ。しかし彼らは動かない。僕の方をチラリと見て、そして言いにくそうに、口にする。

「……だってあなたは……このサーカスのオーナーじゃないか……」

……ということで僕はいま思うわけだ。僕には商才がないけれど、彼ら(=かわいそうな猿や象=小説作品)の演技を観る客を、少しでも多く集める義務があるんだと。平たく言えば、小説ブログのPVを増やす義務がある。彼らがイキイキと演技できるサーカスを、客でいっぱいになったサーカスを、オーナーである僕は実現しなければならない。そして僕はあらためて、そうする為の方法を自分が全然思いつかないことに愕然とする。どうすればこのサーカスに客が呼べるのか、そもそも客はどこにいるのか、ちょっと考えただけで頭が痛くなる。「商才」がないという事実に、これほど傷めつけられた事はない。とはいえ努力はできるだろう。努力は、誰にだってできる。

というわけで、僕は今後、せっかく作った小説ブログをいろいろな所で宣伝していこうと思っています。小説は、読まれてこそ小説なのだ。ただ一点、僕を何より悩ませる深刻な問題がある。それは、僕のサーカスに所属する猿や象が得意とする演技は、客のほとんどが不快感を覚えるような、下品でナンセンスでエロでグロなものばかりだという事なのだ。

小説ブログ(総合目次ができました)
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