某ファミレス(宅配)の気持ちの良い対応 |   EMA THE FROG

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先日、某ファミレスの宅配サービスを利用して、晩ご飯を注文しました。僕はここのお弁当が大好きで、コンビニやホットモットなんかに比べると多少値は張るけれど、高いだけあって隙のない、それでいて親しみ深い美味しさです。この日もウキウキしながらお弁当とサラダを頼み、40分後くらいに届いたのですが……。

サラダの入ったプラスチックトレイの蓋を開け、ドレッシングを回しかけしながら僕の視線はふとある一点に留まった。

薄緑色のグラデーションが美しいレタスの葉の上に、ひときわ深い緑色をした、小指の先ほどの線状のものがある。僕は無意識にその物体の上にドレッシングを垂らすことを避け、そしてゆっくりと、その緑色の線状のものに顔を近づけていく。

僕の脳みその奥のほうで、好奇心と危機感が同じ量だけ配分された、どこか痛みに似た信号がパチパチと音を立てる。

僕はもう、それがなんであるかのかを知っている。そして、それがレタスの上に存在してはならないことを、少なくとも、家庭の食卓の上に並んだレタスの上に存在してはならないことを、僕はよ~く知っている。

青虫。そう、青虫。別名イモムシ。
何の幼虫かは知らないけれど、それは体長3ミリほどの、青虫だった。

そいつは、水気を帯びた(恐らく非常に)新鮮なレタスの上で、呑気に身体をくねらせていた。プールサイドで日光浴をするように、こたつの中でうたた寝するように、緊張感というものとはおよそ無縁な、無邪気にすら見えるその動き。

「ねえ、これ」ボソっと僕が呟くと、隣の嫁もそいつに気付き、「あ!」と声をあげる。どちらかと言えば、「あ♪」というようなトーンで。

「どうしよっか、これ」「う~ん、どうしよっか」「さすがに食べない方がいいよね」「うん、それはそうかもね」「電話、しようか」「そうだね」「こういう場合、思い切りクレーマーになった方がいいのかな」「そんな必要はないよ、事実をそのまま、淡々と」「ああ、そりゃそうだね」「……青虫だね」「そう、青虫なんだよ」「生きてる」「そう、生きてんだよ」

ということで、このお店のお弁当が大好きなだけ、何となくお伝えするのが心苦しかったのだけど、でも、一応電話してみたわけです。「あの~、なんというか……」口篭る僕。「はい!いかがされましたでしょうか!」明るく丁寧な対応。あ~、言いづらいなあ。「さっきそちらでサラダを頼ませてもらったんですが」「は……サラダに何か……」走る緊張感、ああ、言いたくない、言いたくない。「青……虫が…ですね」「え!?そ、それは……」「青虫がね、レタスの上で……」「レタスの上に!」「生きてるんですよ、そいつ」

「……も、も、も」

ジョジョの奇妙な冒険で言う「ゴゴゴゴゴ」という擬音みたく、受話器の向こうから迫ってくる「も、も、も」という声。それは徐々に音量をまして、やがて水風船が破裂するようなインパクトを持って、僕の耳元で炸裂する。

「も、も、申し訳ありません!!!!」

電話口の向こうでその人はひらすらに僕に謝り続け、僕のほうが恐縮してしまうくらいだった。彼はそして、今すぐに同じサラダを作り直すこと、その際は野菜およびその他の素材のチェックを徹底的に行うこと、出来上がった商品は現在配達に出ているスタッフをすぐに呼び戻し最優先でお届すること、などを本当に申し訳なさそうな態度で僕に伝え、最後にまた何度も「申し訳ありませんでした」と付け加えて、やっと電話を切った。

30分かからずに家のチャイムが鳴った。僕はその時、間抜けにもトイレに入っていて、嫁が対応した。トイレの扉越しに、作り直したサラダを持って現れたスタッフさんらしき男性と嫁とが、いろいろ話しているのが分かる。何を話しているのかまでは分らなかったが、それはしばらく続いていた。

やがてひときわ大きな声で嫁が僕の名前を呼んだ。僕はトイレに座ったまま「なに~」と大きな声で返した。「出てこれないよね?」と嫁が言うので、「うん、とても出ていけないね」と返すと、声の大きさは元に戻り、僕には二人が何を話しているのかまた分からなくなった。

しばらく後、スッキリした僕がトイレから出ると、ちょうどスタッフさんが帰ったところだった。嫁の手には、作り直されたサラダと、なぜか大きなパック入りのアイスティー。「どうしたの、それ」「なんかね、迷惑かけたからって、くれたの」「へえ、さすが」「これも」そう言って嫁が差し出したのは、美味しそうなチョコレートケーキ。「これも、よかったらお食べくださいって」「へえ、すごいね。何かむしろ、悪いね」「そうなの」「さっき呼んでたけど」「ああ、うん。ご主人様にどうしても直接謝りたいって言ってて……店長さん直々に来てくれたんだよ」「え!そうだったんだ。すげえなあ、筋通してくるねえ。素敵」「本当にすみませんでしたって何度も謝ってくれて」「もう……なんかむしろ、もっと好きになるわ」

結局、サラダ青虫事件に対する某ファミレスの対応をまとめると、まずは電話で誠意ある謝罪。しつこいくらいの謝罪→通常配送よりも短い30分以内で作り直した商品を届ける(もちろんそのサラダに青虫は乗ってなかった)→謝罪をした上で、1リットル入りのダージリンティーのパックとチョコレートケーキ1ピースを渡す→電話をかけてきたご主人(僕)にも、ぜひとも直接謝らせてほしいと誠意を示す、ということになる。

こういう場合のマニュアル通りに対応したのかもしれないけれど(恐らくはそうだろう)、少なくとも僕には彼らの謝罪が「場をつくろうためだけの見せかけ」になんて思えなかった。そして、アイスティーやチョコレートケーキだって、「それで機嫌直してね」という意味で持ってきたわけではなくて、謝罪(と新品のサラダ)がまずあって、プラスアルファの「気持ち」として「よろしければおたべください」という意味に留めている(のだと思う)。ニクい対応だ。

ということで、非常に気持のいい対応をしてもらって、青虫のことなんてどこへやら、「あのファミレスは客への対応を分かってる」ということでむしろ株は上昇。お弁当もサラダも美味しく食べて、「また頼もうね~」なんて感じでした。繰り返しますが、僕は彼らの対応がマニュアル通りだったと思ってます。こういう場合はこういう対応をしろ、というマニュアルがちゃんとあって、彼らはそれに従っただけだと思います。でも、非常に気持ちが良かった。その事実は揺るぎません。さすが大企業、わかってますね、と感心します。

さて、久々の更新でいきなり何の話やねん、という感じかとは思いますが、まあ、期待以上のことをされると、好きなモノはもっと好きに、嫌いなものだって割と好きになっちゃうもんだってことですかね。うちの上司もよく言います。期待以上のことをしなけりゃ、感動なんてしてもらえない。その通りだと思います。クレームだって、対応次第じゃ大チャンスです。むしろ、クレームの時こそチャンスだと思う。

そういうとこ、わかってない企業もたくさんあるけどねえ。インターネットのプ○○とか。ガスト見習えよ、マジで。あ、名前書いちゃった。まあいいか。