スティーブン・キング原作映画『ミスト』 |   EMA THE FROG

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長い夏休みも終わり今日から仕事です。9日間ものあいだとにかくダルダル過ごしてました。僕の実家である愛知県の小坂井と、嫁の実家である東京の目白と、移動距離こそそこそこですが、内実何もしてません。テレビ見たりネットしたり娘やエマと遊んだり、あとは酒飲んだり、時々罪滅し的にちょっと腹筋してみたり、小説も、多少だけど読んでみたり(安部公房の『他人の顔』、スティーブン・キングの『第四解剖室』など)。

それはそれで悪くない時間でした。ご飯とか奢ってもらえるしね。ラッキー。

ただ、前も書いた通り僕という人間はサイクルが一度壊れると、それをもとに戻すのが大変なんです。つまりは、連休明けの仕事が非常につらい。文章を書くという事から1週間以上も離れていたせいで、今こうしてキーを打つ指先もどこかソワソワした、地に足のついていない感じがする。いや、指だけど。

ということで、リハビリ的に、映画の感想文でも。

ちょっと前ですが、スティーブン・キング原作の映画『ミスト』を見ました。例によってアマゾンからあらすじを拝借しますと、

【あらすじ】
7月19日の夜、メイン州西部の全域が、未曾有の激しい雷雨にみまわれた。嵐に脅える住民たち。だが、その後に襲ってきた“霧”こそが、真の恐怖だったのだ。その霧は街を覆いつくし、人々を閉じ込めてしまう。時を同じく、デイヴィッドとビリーの父子は食料を買出しに行ったスーパー・マーケットで“霧”に閉じ込められてしまう。他の買い物客が建物の外に出ようとすると、次々に霧の中の何者かに襲われていく。立ち往生を強いられる中、母の待つ家に帰ろうとビリー少年に哀願されるデイヴィッド。そしてある決意を固めて絶望的な状況の中、父子での決死の脱出を図る二人の前についに姿を現す“霧”の正体とは? 人間は見たことのない恐怖の前にどのような選択をするのか。そして奇怪な霧に閉じ込められた人々の運命は?(amazonより抜粋)

という感じです。

公開前にテレビで流れていたCM を見た時点で「これは見たい!」と思っていた作品で、スティーブン・キングが原作という「間違いない」感もあって、レンタルDVDショップで発見したときには迷わず手に取りました。

で、見てみたんですけど。

大好きです。こういう話。

あらすじにあるように、要するに何十人かの住人がスーパーに閉じ込められる話なんですけど。ほら、スーパーというのはだいたい全面ガラス張りでしょう。その向こう側、つまり外が、薄灰色の深い霧に完全に覆われてしまう、と。で、何人かの人間は家に帰ろうと数メートル前も見えないような霧の中にでていくわけです。で、だいたいがえらい目にあって帰ってくる、あるいは帰ってこない、と。「この霧の中には“何か"がいる!」と頭から血を流して熱弁を振るうオッサンが現れたり、「そんな事を言って私達を騙そうとしても無駄だ!」と反論するオッサンが出てきたり、「これは神様が我々に与えた罰である」と十字を切りながらブツブツ語る宗教おばさんが出てきたり。数十人いた住人たちの中にはいつのまにか派閥ができていって、別グループの動向を血走った目で「監視」するようになっていく。まあ、『キューブ』とか『ES』とか『SAW』なんかにも通じる、極限状態に於ける人間の意識、みたいな話なんだなあ、と思うわけです。

ただ、その感覚はある瞬間に驚くべき方向転換を迫られる(こっからは軽くネタバレするんで映画見るつもりの人は読まないでください)。

いきなりね、「モンスター」が登場するんですよ。このホラー映画における恐怖の象徴とは、つまるところ人間同士の疑心暗鬼にあるのだな、と認識しかけた物語半ばで、それはあっさり現れる。巨大な昆虫のようなモンスターがスーパーのガラスの外をブンブン跳びまわり始めるのだ。やがてそれらはガラスを突き破ってスーパーの中に侵入、パニックになった住人たちは手持ちの武器で何とか応戦するも、何名かは殺される。その後もさらに巨大で強力なモンスターがガンガン登場し、「霧」つうのは、脱出を遮るだけの単なる障害の一つに成り下がる。それまでは、疑心暗鬼の直接的な原因となっていた、つまるところラスボスだったその霧は、リアルに過ぎるCG製のモンスターの登場で、あっさり脇役になってしまう。

その展開に、僕を含めた多くの視聴者は落胆を感じた(いろいろな人のレビューにそう書かれていた)。「なんだよ、そういう話なの?」って思うわけです。

ただ、その落胆を落胆のまま終わらせないのがこの映画。さすがにこれ以降のネタバレは自重しますが、精巧なCGに頼るだけの展開にはなりません。モンスターもやはり脇役に過ぎない、あるいは、キッカケに過ぎないということがまるで背後から覆いかぶさるような不気味さで実感されていく。徐々に明らかになっていく霧の正体、物語冒頭で主人公の乗る車とすれ違った何台もの軍用車両が、なぜあれほどに急いでいたかの理由、そして、衝撃のラスト。

このラスト、ほんとにインパクトが強くて、はっきりいって『ダンサーインザダーク』に匹敵する後味の悪さです。一緒に見ていた嫁は本気で凹んでました。ただ、僕はというと、非常に大好きでした。この終わり方。好きというのは、それだけ心に刺さった、という意味だけどね。

「こんな終わり方にするなんてなんて奴だスティーブン・キング!」とか思ってたんですが、ちょっと調べてみたら原作小説はラストが違うんだそうですね。違うというか、色々曖昧なまま終わっているらしい(原作は未読。いま探し中)。ということはだね、このラストは映画だけのもんらしい。

ひでえ。だからこそ最高。