江戸川乱歩 『孤島の鬼』 |   EMA THE FROG

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江戸川乱歩の書作品の中でも最高傑作の呼び声高い『孤島の鬼』読了。

いやあ、めっちゃ面白かった。ごっさ面白かった。これまで読んだ乱歩作品はほぼ全てが短編で、有名な『人間椅子』とか『芋虫』とかは人並み以上に楽しめたクチですが、でも、『孤島の鬼』がダントツで一番。もともと登場人物に感情移入するタイプではないけれど、今回は特に、「うわあ、これ書いてる時、乱歩さんはノリノリだったんだろうなあ。楽しかったんだろうなあ」と、久々に「著者」に感情移入できた作品でした。

例によってアマゾンからあらすじをコピペしますと、

<密室状態での恋人の死に始まり、その調査を依頼した素人探偵まで、衆人環視のもとで殺された蓑浦は、彼に不思議な友情を捧げる親友諸戸とともに、事件の真相を追って南紀の孤島へ向かうことになった。だが、そこで2人を待っていたのは、言語に絶する地獄図の世界であった…!『パノラマ島奇談』や『陰獣』と並ぶ、江戸川乱歩の長編代表作>

だそうです。

う~ん。いつも思うけどこの紹介文じゃ作品の魅力の1割も説明できてないぜ。まあ、とりあえず、殺人事件を発端とした(あるいは、「言い訳にした」とも言える)悪趣味博覧会みたいな小説です。特に、奇形趣味についての掘り進み具合がひどい。軽くネタバレになりますが、吉ちゃん秀ちゃんという双生児(身体の一部がくっついている男女)の、秀ちゃんの書いた日記がひどく素敵。彼女(彼)は幼い頃から暗い土蔵にずっと閉じ込められて育ったせいで、一般的な人間の姿を知らず、食事を運んでくるなどの世話をする数人の人間の方が、つまり、手足がそれぞれ2本ずつしかなく、頭が1つしかない人間こそを「かたわ」だと信じていた……、みたいなくだりは最高です。彼女(彼)には4本ずつ手足があり、頭も2つあって、それが当たり前だったのだから無理もない。そして、吉ちゃん(乱暴で馬鹿な男の子)が自分の片割れである秀ちゃん(日記を書いた賢い美少女)に恋をし、性的な行為を強要してくる場面に至っては!ああ、なんて野郎だ乱歩!最高。

僕個人は悪趣味からは遠く離れた、むしろ普通すぎるほど普通な感覚を持った人間ですが、悪趣味を描いた本や映画を見るのはなぜか大好き。その秀ちゃんの日記の後も、諸戸屋敷に閉じ込められていた(閉じ込められていたというか、作ら……いや、さすがにこれはネタバレ過ぎか)たくさんの奇形たちが登場したりして、何だか、これほど自分の好みにあった世界を描いてくれた乱歩さんに感動すらしました。

物語は(あらすじにもあるように)殺人事件を軸にした推理小説的な感じで幕を開け、やがてそれが宝探し的な冒険小説になって終わる、という感じなんだけど、僕はそういう部分じゃなく、ただただその世界観の描写に、あるいは、それを描こうと信念を持ってこの作品に向かい合った乱歩という作家に、非常に感銘を受けたわけです。文体そのものにはそれほど魅力は感じないけれど、とにかく乱歩さんの感覚が素敵。「ああ、こういう小説を待っていたんだ!」とひとり興奮しながら読みました。

まあ、リーダビリティがどうとか、セカイ系がどうとか、携帯小説がどうとかいう中では、この作品は明らかに「異端」とされるでしょう。下手したらアグネスさんとか出てきて「子どもに対する虐待よ!」とか叫びかねない。でもさ、まあ、落ち着けよ。これは小説だよ。フィクションだよ。これを読んで同じような悪行をしてやろうと思う奴なんていないし、仮にいたとしたら、そいつはこの作品を読まなくたっていずれ同じことをしたさ。

ああ、話が逸れていった。とにかく、『孤島の鬼』、最高。