だって、小説家だからさ! |   EMA THE FROG

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僕は毎週木曜日だけ「遅番」で、通常9時出社のところが11時出社になる。1年前の僕ならば、「やった!今日は2時間も長く眠れる!」といつもと同じ時間に布団に入ってしまったろうが、もうすぐ30歳、そろそろ「某か」になる道を見つけないといけないと(悪くない)焦りにまみれている今は、「じゃあいつもよりも2時間、自分の為に頑張ろう」と、眠い目をこすってPCの画面に向かい合うことになる。

そこでやる事は様々。読めていなかったニュースを一気読みしたり、面白そうなサイトを探したり、時にはもちろん、ヤフオクで好きな洋服を探したり、youtubeで素敵な音楽を聞いたりもする。しかし最近一番長く時間を使っているのが、小説に関するあれこれだ。

僕は以前から(恥ずかしげもなく?)公言している通り、小説家志望のサラリーマンである。活字離れ、書籍離れが叫ばれる昨今にあっても、たぶん世の中に五万と溢れている(あるいは、潜んでいる)小説家志望者のひとりだ。僕は24歳の時に、小説家になる事を決めた。地元を飛び出してひとり乗り込んだ大阪のボロアパートで、それから1年間はほとんど働かずに小説ばかり書いていた。しかし「これは傑作!」と自画自賛して文学賞に送った数多の作品は、みごとに惨敗。一次審査すら通らないものがほとんどだった。まあ、そううまくはいかない。

それから5年。僕はいまだに小説家になりたいと思っている。いや、なるんだ!、と思う。褒められて伸びるタイプの僕が、誰からも認められないのに(それどころか、「お前には才能がない」と小説のプロたちに言われ続けているのに)5年間も続けたっていうのはすごいことだ。いい加減腐ってもよさそうなのに。「どうせ俺はダメだよ、分かったよ、もうや~めた」となるのが当然なのに。

よく分からないが、それでも僕は続けている。夜な夜なPCの前に座り、物語の構想を練ったり、他の人が書いた小説を参考に読んでみたり、あるいは実際に、本文として長い文章を書いたりしている。基本的には、辛い作業だ。小説のことを一切忘れて、ずっとTVゲームができるならどんなにいいだろうと、素直に思う。何も文字の打たれていない白紙の原稿用紙は僕に強烈なプレッシャーを与える。「さあ、お前に自由をやろう。何を書いたって、いいんだぞ」。ひどい時には吐き気をもよおす事もある。苦しい作業だ。

しかし、僕が辛い苦しいと感じるのは「書けない」事に対してであって、いい感じに筆の進んでいる時はとっても楽しい。楽しいというか、夢中になって書いている。「この老人の汚れた皮膚を皮むき器で削ってみたらどうだろう」そんな、素敵なアイデアが浮かんだ時は興奮する。自分から思っても見なかったイケテル表現が飛び出したりすると、「やばい、オレ天才」とか思ったりする。

しかし、「楽しいから書くのか?」と聞かれると、なんでか素直に頷けない。例えば、僕がハマリにハマった戦争ゲームMODERN WARFARE2は、単純に楽しいからプレイするのだ、と言える。でも、小説はちょっと違う。

なんかもっと、義務的、なのだ。

別に誰かに「小説を書け」なんて言われた事はない。むしろ「小説なんて非現実的なことはもうやめなさいよ」と言われる(あるいはそう思われている)事の方がずっと多い(と思う)。でも僕は、なぜか「小説を書かなければならない」と強く思うのだ。なんでだろうな。「書きたい」っつうか、「書かなければならない」のがやっぱり近い。無理やり理由をひねり出してみれば、基本的に自分に自信のない僕が、アイデンティティを感じるための媒介として、自分の存在価値をかろうじて感じるための道具として、小説を選んだ可能性は高い。でも、24歳の頃の自分ならまだしも、30歳目前の今、愛する妻と子どもとワンちゃんに囲まれた幸せな生活を送れている今、それが必要なのかはよく分からない。

でもきっと、必要なんだろう。続けているっていう事は。

話は昨夜だ。今年に入ってから書いては消し書いては消しを何度も繰り返しているある小説に、僕は取り掛かっていた。これまでに消した文字量は、たぶん長編一冊分は超えている。そして今のところ目の前に残ってくれている文字量は、短編小説にも及ばないほど短いもの。昨晩はそれをあらためて読み返していたのだが、ゾッとした。なんだか、イメージと違うのだ。話はまだまだ始まったばかりで、これから様々な出来事がやっと起こり始めるというところなのに。僕は反射的に文字を全選択して、デリートを押しかけた。本当に、涙が出そうだった。何ヶ月もかかって書いてきたこいつを、僕はいま殺そうとしている。そして、なんとか踏みとどまった。ツメを立てて頭をガシガシを掻いた。自分の才能の無さを呪った。「なんだい、書けるとでも思ってたのかい?」自嘲的な囁きが聞こえてくるようだった。

それから数時間、何度も作品を「殺したい衝動」にかられながらも、なんとか踏みとどまって先を書き続けて、調子を取り戻した。夜中の3時過ぎ、PCの電源を閉じる時の気分は、わりと穏やかだった。小さな充実感すらあった。でもね、この日4時間もかけて書けたのは、たった2000文字くらいだよ。それだって、明日PCを開いた時、あっさり消される運命にあるかもしれないんだぜ。そもそもこの小説が書籍になる可能性だって、宝くじに当たる以上に低いんだ。

なんて非生産的!

バカ過ぎる!

でもやるぜ!

だって、俺は小説家だからさ!