『さまよう刃』東野圭吾 |   EMA THE FROG

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『さまよう刃』東野圭吾を読んだ。

娘を殺された父親が、その犯人である少年達に対して復讐をする話で、テーマとしては「少年犯罪とその刑罰のアンバランスさ」というような部分か。東野自身の意見なのかは別として、全体的には被害者側に同情的な印象を受けた。復讐に燃える被害女性の父親・長峰という男は終始「いい人」だし、反対に、実行犯である二人の少年はどこまでも「悪い人」として描かれる。そして、一連の事件を追う刑事たちは、感情的には長峰の行動に理解を示しつつ、また、少年たちの行為に怒りを持ちつつ、職務として長峰の復讐を阻止しなければならないという、「悩む人」だ。

「いい人」「悪い人」「悩む人」という3つの視点が頻繁に交代されながら、話は進む。プロットが割と単純な上に、登場人物たちはそれぞれの役割(いい人、悪い人、悩む人)を固守してほとんど脱線しないので、複数人の視点が入れ替わる群像劇の体裁を取りながらも、妙に整然とした印象を受ける。まさに「劇」というか、全員が作品の台本を完璧に暗記しているような、何度も練習したセリフを口にしているような、悪い意味の「作り物感」があった。『白夜行』『幻夜』を読んだ時には全く感じなかった事なので、ちょっと残念。ただし、アマゾンレビューでは★5がズラズラ並ぶ、超高評価のようです。

ちなみに僕は時々、<ハンムラビ法典>の事を思い出します。「目には目を、歯には歯を」っていう、あれですね。確かに乱暴な法律ではあるものの、犯罪抑止力という意味でも、被害者の怒りの受け皿という意味でも、今の日本の法律より優れた部分はあるような気もします。まあ、難しい問題ではあります。

という事で『さまよう刃』、イマイチ。