I'M PRIVATE ARMY / THA BLUE HERB |   EMA THE FROG

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    roukodama blog

最近は不景気なりに仕事が忙しく、これまでとんと縁のなかった会議というものにも参加する機会が増えた。発言だって割とする方だ。必要な時に必要な情報を提供し、それがカチッと伝わった時には充実感さえ覚える。5年くらい前までの僕は、隣の席の同僚と話す事も嫌だったのに、もとい苦手だったのに、人間は変わるものだ。

とはいえ今でも、人と話す事が得意になったわけでは決してないので、会議だ取材だ打ち合わせだと続いた日には、非常に疲れる。そんな日には、会社から家に戻る間も、ipodで自然と暗い曲を選んで聞いてしまう。「…気を遣われるのを恐れて気を遣い 何故かやわらかい親切に無意識に後ずさり 愛想笑ってすぐうんざりと愛想尽かし ありもしない裏書きと裏切りを疑い…」痛くて優しいTHA BLUE HERB、BOSSのコトバ。肌寒くなった秋の夜空の下を、いつもの通りを、ポケットに両手を突っ込んでうつむきながら歩く。どこか、自分の行動が演技じみてくるのに気付きながら。

車通りの多い国道16号を横切って、甘い金木犀の匂いが立ち込める通りを進み、左に曲がると途端にあたりは暗くなる。たった数メートル後ろにある喧騒が、まるではるか昔の記憶のように遠ざかる。ベンチが2脚あるだけの小さな公園の真ん中を通り抜ける間、わざとらしく空にかかる無数の枝葉を見上げる。複雑な形状をした黒い葉の間からかすかに見える、群青色の曇り空。イヤホンからは変わらずBOSSのつぶやきが聞こえる。「…毎日は後ろから落ちていく橋だ いやでも忘れていくそれぞれの旅だ BORN ALONE DIE ALONE ラビアンローズ 感情をまとって俺は俺に仮装する 俺は俺に俺がどう見られてるかを想像する 動揺する 密かにほっとする…」公園を抜けるとボンヤリした光が見える。乗客が一人もいない、寂しい巡回バス。この寂しい道をひとり寂しく進む運転手の顔を想像する、のっぺらぼう、動揺する、しかし眩しいライトのせいで顔は見えない、密かにほっとする。

そんなこんなで家に到着し、扉を開けると、オレンジ色の明るい光。おかえりーと元気な声、足元まで走り寄るかわいいエマ、がおーがおー、がおーがおー、モンハンの飛龍そっくりに咆哮を挙げる愛娘ハンナゴン。うわはははは、パパゴンのおかえりだ~、がおーがおー、がおーがおー、うわはははは、パパも負けねえぞがおーがおー、がお-がおー、今日?ああ疲れたけどね、え?エマがお風呂マットの上にウンチ?こらエマ、お前何してくれて……、いや、そんな悲しそうな顔すんなよ、え、うん、その縫いぐるみを?こう手に持って?あっちに投げるの?わかったよ、そら!がおーがおー!がおーがおー!ああうん、ハンちゃんも抱っこね、そら抱っこ、あ、エマちゃん、え?また投げるの?分かったよ、そら!え、ハンちゃん下降りるの?ああ、BABY TV見るの?わかったよ、パパご飯できたよ~、ああ!待ってました、今日の献立は…ヒレカツ!?ヒレカツ!?いいねえ、うまいねえ、え?大根おろしとドレッシングで食べるって、すげえうまそうじゃん。うん、うまいうまい。うまいよ、俺きょう会社で会議出てさあ、うん、発言とかバンバンしちゃってさ、プレイ?そらそうさ、演技だよ全部、いやでも楽しかったりもしてさあ、え?今日エマが道行くおばあちゃんに吠えた?すごい優しそうなおばあちゃんに?いやエマって絶対おれらに見えないさあ、そう霊的な何かが、だってほら、こないだだって………

「解脱はあながち不可能でもない I'M PRIVATE ARMY」