役所の書類みたいな小説 |   EMA THE FROG

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役所の書類は分かりづらい。記入する人のことを全然考えていないように思える。また、その中に書かれている言葉は非常に古臭くて、難解だ。僕も父親になって、役所に提出する書類を書く機会が以前に比べれば増えた。それは主に子どもに関する手続きだ。昨日家のポストに届けられていた、児童手当についての書類もその1つである。

いかにも役所らしい地味な封筒に入っていたのは、「平成21年度児童手当現況届」という書類で、その書類についての説明が書かれた別の紙が1枚、添付されていた。僕は説明書きをザッと読んでみたが、なんだかよく分からない。これが何の為の書類なのか、どういう風に書けばいいのか、どう提出したらいいのか(封筒の中には、郵送用の封筒は入っていなかった)、それが理解できるまでに僕は数回、その説明文を読み返さなければならなかった。

それはまあ要するに、子どもが生まれてすぐに申請した「児童手当」の最初の受け取りが今月なので(児童手当は年に3回、4か月分をまとめて受け取る)、子どもの名前や、生年月日、住所などの確認を行うための書類らしかった。しかしまた、書類内で使われている耳慣れない言葉(「監護」とか、「同一・維持」とか)に何度もつっかかり、たった数箇所を記入するだけなのに、書類を完成させるまでに随分と時間がかかった。そして書き終えてからも、記入が間違っていないか非常に不安で、なんだかスッキリしない。どこか間違えているんじゃないかと、ともすれば児童手当を受け取れない事態になるんじゃないかと、ドキドキする。

これを僕の理解力のせいにするのは簡単だ。確かに、この説明文を一度読んだだけで(あるいは読まなくても)その内容が充分に理解できる人は大勢いるだろう。あるいは、この手の書類に慣れている役所勤めの人にしたら、「ちゃんと過不足なく説明されているじゃないの、何で分からないかなあ」という話だろう。しかし、民間企業の(時には過剰なほどの)サービスに馴れている多くの人にとっては、やはり役所の書類は「不親切」に映るに違いない。どうして書類の記入例がビジュアルで説明されていないの?どうして返信用の封筒を入れておかないの?説明文だって、大事な部分をもっと強調するとかフォントを変えるとか、どうしてそういう工夫がしてないの?ちょっとおたく、サービスに問題があるんじゃなくって?そう思うに違いない(と思う)。

問題は、いや注目すべき点は、【小説の購買層】がこの「民間サービスに馴れている人たち」と重なるという事だ。もちろんこれは、そういう人が一般人の大多数を占めるだろうとの仮定した場合だが、小説を買って読んでいる多くの人たちが「不親切」なサービスに対して(僕のように)不満を抱くであろう事は容易に予想できる。そして彼彼女らにとって「小説」とは、大きな意味でサービスの1つなのだ。楽しませてくれると思うから、感動させてくれると思うから、知らなかった世界について教えてくれると思うからこそ、彼らはお金を払って小説を購入する。結果、その内容が不親切極まりない、閉鎖的で、古臭くて、難解で、お金を払う価値を感じられないものだったとしたら、彼らは、イケてないサービスに対してそうするように、公然と不満を表明するだろう。

とはいえ一方で、読者は小説に対してある種の「裏切り」を期待するものでもある。いくら読みやすい、理解しやすい文章で書かれていても、登場人物やプロットが余りに紋切り型(つまり、ベタ)過ぎたら、読者は不親切な小説を読んだときと同じように(あるいはそれ以上に)落胆し、不満を抱くものなのだ。

忘れてはならないのは、親切である事(少なくとも、不親切でない事)は小説を書く上での「最低限のマナー」である事、そして、それはあくまで「最低限」に過ぎないという事の2点だ。役所の書類みたいに不親切な小説を書いてはならないが、役所の書類みたいに不親切な小説でなければ即ちOK、という単純な話ではないという事。

僕は今にして、他者というものを意識し始めた。「伝えたい」という、本来であれば小説を書く最大の動機であるその事を、いつの間にか忘れてしまっていた事に気付いて。



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