クーンツというおっさん |   EMA THE FROG

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    roukodama blog

芥川賞作家・三田誠広の提唱(?)する、小説書き方3箇条なるものを先日紹介しましたが、個人的にはその内容に若干の抵抗感を覚えつつも、小説が「人に読んでもらうこと」を想定している以上、やはり書く方にもそれなりの「作法」は必要だよなあと思いまして、『ベストセラー小説の書き方』なんてそのままズバリなタイトルの本を買ってみたりしました。

この本を書いたディーン・R. クーンツというおっさんを僕は今回はじめて知ったんですが、ちょっと調べてみるとかなり有名な作家さんのようで、Wikipediaには「モダンホラー作家のスティーブン・キングと比べられることも多いが…」なんて文章もありました。うわあ、それってすごい。むしろどうして今まで知らなかったんだろうと不思議に思って読み進めてみたら、「キング同様に作品の映像化も多数行われているが、そのほとんどが「不出来」という評価を受けており、その影響もあってか日本での知名度はキングに比べて低い」んだそうです。ふーん。

ともあれ僕が、数ある(本当にたくさんある)「小説ハウツー本」の中でも、特にエンタメ色の強い小説を書くらしいこのおっさんの本を選んだこと自体、我ながらちょっとした衝撃だった。誤解を恐れずに言うなら、僕は今まで、いわゆる「エンターテイメント小説」を憎んでいた。そこにあるのは文字通り「娯楽」だけで、芸術性とは無縁の文体に(というより、意識的にそれを排しているとさえ思えるその文体に)、僕はいつもひとり苛立ち、そしてそれを消毒するかのように、本棚から純文学小説を引っ張り出してきて、読んだ。そこにはやはり、芸術があった。物語などという「人工物」を必要としない、凛として美しい日本語が、誰からの賛美も拒否するような孤独な日本語が、ただそのものとして、そこにあったのだ。

……確かにあったのだが、悲しいかな純文学というのはだいたいが「つまらない」。だから僕はちょっと前から、「美しくて、かつ、つまらなくない小説」を夢見るようになった。今回、クーンツのおっさんの本を自ら手に取ったのは(取ったというか、ネット注文ですけど)、そのレビューの内容から、この本の中に「具体的な書く技術」が紹介されていることが推測できたからという点の他に、エンタメ小説の持つ「娯楽」の仕組みを、ちょっとだけ覗いてみたくなったから、という理由もあるのだと思う。あくまで、「美しくて、かつ、つまらなくない小説」を書きたいがために。

(※ここで「美しくて、かつ、面白い小説」と書かないところが、我ながら微笑ましい)

それで、いま半分くらい読み終えましたが、面白いです。思っていた以上にタメになる。そして、思っていた以上に読むのに抵抗がない。クーンツのおっさんが教えてくれるのは主に「構成」とか「プロットの立て方」みたいな事で、あるいは「してはいけない表現」についてで、「文体」とか「世界観」みたいなことについては、「そのへんは教えたくても教えられません。読んで読んで読みまくって、書いて書いて書きまくって、自分で見つけていくしかないんです」というスタンスだ。要するにおっさんは、想像力の「のりしろ」をキチンと残しておいてくれる。おっさんは、読者(僕)の想像力そのものについては口出ししてこない。「こっから先はあんた、自分で考えて書きなよ」という感じなのだ。だからこそ僕は、自分でも笑えてしまうくらい素直に「へえ」「なるほど」と感心しながら読めるんだろう。

いやあ、いい本に出会った。



追記:

でもよく考えたら、文体とか世界観なんてことを教えてくれるハウツー本なんて、そうそうないよな。だからクーンツのおっさんが空気よめるヤツだったというよりは、むしろそれは小説ハウツー本の常識なのかもしれない。ま、この手の本を読むのが初めてなので、他はわかりませんが。


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