第13話
からの続きです。
~いよいよ 急カーブの謎にせまる~
さて、ここで、太陽、地球、エレニン彗星、そしてSTREO-B、この4つの天体(と探査機)の太陽系内における動きと位置関係をおさえておきましょう。これが、「急カーブ」の謎をとくポイントです。
まずは、太陽と地球。ご存知のように、地球は、太陽のまわりを1年で1周します。その軌道は、ほとんど円です。でも、完全な円ではないのですよ。見た目は円と区別がつきませんが、少しつぶれた円「楕円」になっています。それで、地球と太陽の距離は、一番近づいたときと、遠ざかったときで、1/30ぐらい違っています。
このように地球と太陽の距離は、多少伸び縮みはあります。その平均距離のことを、1天文単位(1AU:Astronomical Unit)といいます。太陽系内の天体の距離をあらわすのに、天文単位を使うと、ほぼ2桁で収まるので、非常に扱いやすい単位です。この後の説明でも、この単位を用います。
ちなみに、メートル法になおすと、1億4959万7870kmで、ほぼ、1億5千万kmときりの良い数値になります。覚えておいて、損はないと思いますよ。もっとも、われわれの日常生活では、(ある日突然、宇宙人にさらわれるようなことがない限り)得することはあんまりないです。
はい、地球と太陽の位置関係を表した図を下に用意しました。
中央のオレンジ色の丸が、太陽です。その周りの青い丸が地球を表しています。この図は、地球の軌道面を北から垂直に見下ろすような描き方をしています。地球は、2011年5月1日から、11月1日までの約10日おきの位置を書いています。ほぼ半年分の位置なので、太陽のまわりを半周した形になります。
図内の数値は、上で説明した天文単位です。地球の軌道の半円は、1天文単位であることがわかるかと思います。尚、地球が右側に伸びる軸と重なるところが、秋分点(つまり、秋分の日)にしています。
地球の動き
ここまでは、とくに難しいことはなかったと思います。
次は、エレニン彗星の登場です。この彗星の軌道は、結構つぶれた楕円になります。また、以前の話で書いたとおり、地球の軌道面とエレニン彗星の軌道面は、ほぼ一緒です。大きく傾いていません。そこで、上の図につけたして書いても、ほぼ正確に位置関係がつかめます。絵としては、2次元で済むので書きやすいです。もっとも、そのおかげで、自称「予言者」達が言うところの「直列」状態が発生し、散々「災厄」をもたらす彗星という汚名をきせられることになったのですが・・・・
エレニン彗星を付け加えた図は、下になります。追加された赤い四角がエレニン彗星です。普段われわれが、見慣れている惑星の軌道とは、似つかないものとなっています。
この軌道図から見ますと、ちょうどエレニン彗星は、地球の背後から近づいてきて、内側を回り、そのスピードで、地球の軌道より外側へでるときは、地球より先行しているはず、だったのです。が、実際は近日点通過前から分解しバラバラになって見えなくなりました。だから10月以降は、正確には、エレニン彗星が通るはずだった軌道ということになります。
エレニン彗星の軌道は、図の大きさの都合上、2011年7月1日から11月1日までの分を書いています。
地球とエレニン彗星の動き
そして、最後に、我らがSTEREO兄弟衛星の登場となります。「我らが」と書いたのは、これまで打ち上げられた数々の衛星、探査機のなかで、これまで我ら一般ピープル(天文愛好者から、スピリチュアル系まで)に、その撮影した画像を見まくられているものは、ないと断言してよいからです。もっとも、日本には「ひまわり」があります。この画像も結構見まくられていますが、日本、あるいは、東アジア限定ですからね~、やはり軍配は、STEREO兄弟にあがるでしょう。(あ、そういえばSOHOもあったな)
兄貴分にあたるSTEREO-Aは、地球公転軌道上を、地球より先行する位置で、また、弟分にあたるSTEREO-Bは、同じ軌道上を地球より遅れるようなかたちで、地球と同じ公転軌道をまわっています。今、兄と弟と書きましたが、2006年に同じロケットから打ち上げられたので、兄弟というより、どっちかというと、一卵性双生児ですね。そして、この2人ならぬ2台で、地球の右と左から、地球に影響を及ぼす太陽コロナガスなどの状況を監視しているのです。
STEREO衛星の位置情報は、NASAのこのページ
で、取得することができます。この作業はマニュアルになります。調べたい日の値をひとつひとつ打ち込んで、得た情報をもとに作ったのがこれです。
STEREO-Bは、2011年現在では、地球より約90度後ろの軌道を公転しています。こうして図を書いて、わかったのですが、実は8月1日付近で、エレニン彗星とニアミスをしていますね。細かくは計算していませんが、0.05天文単位以下までは接近したようです。もっともSTEREOのカメラは、本来の方向、太陽ー地球間を向いているので、最接近時のエレニン彗星の姿は映っていません。
これで、太陽、地球、エレニン彗星、STEREO-Bの位置関係がつかめました。
次は、STEREOBからエレニン彗星がどこに見えたか、さぐっていきましょう。前の記事では、2011年8月15日から9月2日までの画像をみましたね。その期間の、エレニン彗星とSTEREO-Bと位置関係を詳しく見てみましょう。上の図を期間限定で、表したものが下の図になります。ここでは毎日の動きを表しています。
エレニン彗星とSTEREO-Bの動き
2011年8月15日~9月2日
これで、おわかりになられました?いや、まだよくわからない、そうですよね。
ここでは、「STEREO-Bから見たエレニン彗星の動き」を調べたいのですよね。そこで、STEREO-Bに視点をあわせて、エレニン彗星の動きをみる必要があります。いわば、自分がSTEREO-Bに乗っているつもりにならなければいけません。
下の図では、STEREO-Bの動きを固定して、エレニン彗星の相対的な動きをあらわしてみました。
どうでしょうか?
STEREO-Bを固定したときのエレニン彗星の動き
2011年8月15日~9月2日
ずいぶん、簡単な図になりましたね。
エレニン彗星は、STEREO-Bから遠ざかっているように動いてます。これまで我々は(何となく)、距離は変わらず、横とか縦に動いているものと思っていましたが、そうじゃなかったのです。
さらに良く見ると、エレニン彗星は、ただ遠ざかっているだけではなく、わずかに上方向に反りながら、遠ざかっています。
実は、これが「急カーブ」の原因だったのです。上の図では8月15日から8月27日まで、STEREO-Bから見て右側方向に「移動」するようにみえますが、その後はこの「反り」のため左側に「移動」して見えるのです。
こんな、よくわからない「反り」で、そんなに動いて見えるはずがない!!、と否定的なあなた、前の記事の図を思い起してください。右左の動きは、わずかに3度ほどなのです。具体的な数値を押さえておかないと、ころっとだまされてしまいますよ。(前の記事を戻って見なくて良いように、この下にも図を再掲載しておきます。)
そして、これまで説明を省いていましたが、エレニン彗星の軌道面は、わずかに傾いているので、このころは南から北にわずかに移動しています。上で使った図でいうと、画面奥から手前に登ってくるイメージです。この南から北への移動はほぼ一定です。しかし、STEREO-Bから見ると、最初は距離が近いため、大きな動きになり、遠ざかるに従い小さな動きになっていきます。
この2つの動きを組み合わせた結果、どのように見えるかというと、これです。
これで、みなさんお分かりに、そして納得されたかと思います。
これを、簡単な言葉でまとめてみますね。
(1)「非常に、ゆるやかなカーブあっても、見る位置によって、急カーブに見えることがある。」
それに付け加えて、前の記事にかいていた文言を、もう一回繰り返します。
(2)「まして、この対象(エレニン彗星)は地球から1億kmも離れた天体です。時間や距離のスケールが日常のものではない」
そのため、時間や距離や今度の場合、とくに、角度の値を正しく押さえておく必要があります。
そうしないと、観測された結果は正しいものであっても、今回みたいに、情報発信者個人の感覚や感想や感情だけを用いて、ばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていない、議論をはじめてしまうのです。それを何も考えずに垂れ流すだけの人も居ますが・・・
そういうものに限って、感情で先走った言い方が多いせいか、妙に他人の心をとらえ、広がってしまいます。
今回の「エレニン彗星、急カーブ!!」のデマに限らず、あまりにもそんな話が多すぎます。(怒り)
(気持ちを落ち着かせます、ちょっと待っていてください)
~ 余談1 ~
以上説明は、おしまいですが、上でかいた(1)のようなものが、私たちが日常生活で普段目にするようなものでないか考えてみました。
「ゆるやかなカーブ」ということで、つり橋のメインケーブルなんてものは、どうでしょう。全長が長いつり橋のケーブルは特にゆるやかなカーブをしていますよね。これは橋を真横から見た場合です。
これが橋を渡ろうとするとき、つまり橋に沿った方向からこのケーブルをみると、「急カーブ」をしているように見えます。つり橋は、まだまだ我々の「日常生活」の一部なので、我々はケーブルは、自分がいるところから、奥に向かって伸びているいことを知らず知らずのうちに認知しています。そのため、誰もケーブルが「急カーブ」しているとは言いません。当たり前のことですから。
これが今回のエレニン彗星の観測画像のように、奥行がわからない、つまり遠近感がわからない対象となると「急カーブ」だ!と見誤ってしまうのです。
実は日常生活でも、3次元を2次元に落とし込む時、ありてい言えば、絵を描くとき、これが実感できます。つまり絵を描くときは、ケーブルは「急カーブ」に書かざるをえないのです。
「つり橋」で思い出したのですが、今をさること17年前、1995年、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジ(金門橋)をエマはスケッチしたことがあります。それを、ここに掲載します。記憶では、もっと大きく描いたつもりでしたが、端のほうでしたね。でも、この橋のケーブルがくいっと「急カーブ」しているのが、わかるかと思います。
「金門橋とサンフランシスコ市街」 エマ(1995)
1995年といえば、野茂英雄がドジャースに入団した年です。このとき、私はサンフランシスコジャイアンツとの試合を観にいきました。野茂が先発2安打完封、おまけに、打つ方でも初打点をあげて大活躍した試合でした。いやー、なつかしいです。
以上、せっかく描いたスケッチを、埋もれさせておくのはもったいなく、どこかで発表の機会を狙っていましたが、ようやく日の目を見させてあげることができました。これで、弊ブログ「エレニンニモマケズ」をつくった甲斐があったというものです。
余談続きます。
~余談2~
今回の謎ときのポイントのひとつは、STEREO-Bを視点とした、ということでした。
さて、相手も動いているが、自分も動いているようなとき、どのような見え方をするか、おもしろい例を2つほどあげてみましょう。
その1 「月はどのように動いている?」
お月さんは、太陽と同じように、東から昇って西に沈みます。ここでは、もうちょっと突っ込んで、天球上(星座の中)の動きを考えましょう。
まず、月が新月のときは、太陽の方向にありますそれから太陽に対して東向きに進み、半月後には太陽と反対側の位置にきて満月となります。あと半月で再び太陽の方に戻ってきます。つまり、1周360度を約30日でまわります。実際は、ひと月たつうちに、太陽は天球上(星座の中)を30度東向きにすすむので、360+30で、390度です。
では月は、1時間あたり何度進むことになるでしょうか?
計算は簡単です。 390(度)÷30(日)÷24(時間)で、求めることができます。
計算の結果は、0.54度になります。月の見かけの大きさが、約0.5度なので、ちょうど1時間で月の直径分移動することになります。
さて本当にそうでしょうか?
いつものように、ステラナビゲータで、「地上」からの月の見え方をシミュレーションしてみましょう。時刻は、2011年の大みそか(12月31日)正午から、年明けて2012年元旦(1月1日)正午まで、1時間間隔の月の位置です。ちょうどこのころ、月は上弦で、うお座付近にあります。
結果の画像はこれです。
大変です!!月が変な動きをしています。
月は、普通変な動きをしません。
種明かし:月は、地球を中心として(正確には、地球との共通重心)、一定の速度で公転しています。そのため、「地球中心」からみると、上の画像の月の間隔は一定になります。ところが、今回観測している我々が居るところは、地上ですよね。地上にいると、地球の自転のために、1日周期で見る位置が変わってきます。そのため、上の画像のようないびつな見え方が発生します。月自体の動きが変なわけではありません。
その2 「あのハレー彗星は今、どこに」
1986年に太陽に接近し、一大ハレーフィーバーをおこした張本人、ハレー彗星さまさまは今、どこに?
ちゃんと、ここ「うみへび座」の方向にいます。地球上からの、見え方を1987年から約12年分まとめてシミュレーションしてみましょう。
大変です!!ハレー彗星がぐるぐる回る回る
変な動きをしています。
ハレー彗星は、普通ぐるぐる回る回る
変な動きをしません。
種明かし:ハレー彗星も、楕円軌道を描いて太陽の周りをまわっています。太陽から遠ざかるとスピードは遅くなっていきます。ハレー彗星の動きだけでは、こんなぐるぐる回る動きにはなりません。ところが、観測している我々が居るところは、地球ですよね。地球にいると、地球は太陽の回りを1年でひと回りする(公転)ために、1年周期で見る位置が変わってきます。そのため、上の画像のように、ハレー彗星がぐるぐる楕円を描いて回る動きをしているように見えるのです。ハレーがまだ地球に近い時は大きな楕円、遠ざかるに従って小さな楕円になります。ハレー彗星自体の動きが変なわけではありません。
というところで、本件、「エレニン彗星、急カーブの謎」はお開きにしたいと思います。
おわり
※皆様のご感想、ご意見をお寄せください。そのときは、コメント欄からお願いします。(私の承認後に表示されます)
さてさて、今回の アフィリエイトは?
最後のハレー彗星の見え方から、「♪まーわる、まーわるよ 時代はまーわる」の「時代」(中島みゆき)にしようかと思いましたが、「♪まわって、まわって、まわって、まわるぅーるぅーるー」の「夢想花」(円広志)が、より回っているので、こちらにします。
- ポプコン・マイ・リコメンド 円広志/円広志
「夢想花」収録
- Amazon.co.jp
- P.S.
- 「夢想花」は、80年代にはやった曲ですが、2000年代になってもCDがでていますね。
- このCDはカスタマーレビューの評判も良さそうなので、あらためて聞いてみようと、この自分のアフィリエイトから注文しました。