横綱白鵬はなぜ敵役なのか | のぼこの庵

のぼこの庵

大河ドラマの史上最高傑作『独眼竜政宗』(1987⇒2014再放送)と近年の最高峰『平清盛』(2012)の感想です。
ついでに『江~姫たちの戦国~』(2011)、『八重の桜』(2013)、『軍師官兵衛』(2014)、『花燃ゆ』(2015)の感想も。
あとは爺放談?

かつて、日本国中が万歳コールに包まれた相撲がありました。

それは、昭和50年(1975年)春場所千秋楽。

初優勝を目指す大関貴ノ花は、本割りで横綱北の湖の上手投げに完敗し、ともに13勝2敗となって優勝決定戦に臨みました。

当時の貴ノ花は、相撲ファンであるなしや老若男女に関わらず幅広く絶大な人気があった力士でした。

一方の北の湖は、その風貌と土俵態度がいかにも傲岸不遜に見え、憎たらしいほど強い土俵の第一人者です。
いわば完全無欠の悪役・敵役でした。

そんな北の湖が、本割りで圧倒的な力で貴ノ花を土俵下に投げ捨てたのを見せつけられた観客やテレビ桟敷の視聴者たちは、半分諦めながらも祈るような気持ちで優勝決定戦を見守りました。

そして、貴ノ花が、北の湖得意の右上手を引かれながらも右腰に食らいつき、投げをこらえて堂々と寄り切った瞬間、館内だけでなく日本中で歓喜の声が響き、万歳が何度も叫ばれたのです。

間違いありません。
あの時代を生きた人ならわかるはずです。

大鵬の時代からテレビで大相撲に親しみ、琴桜が横綱に上がるころからの相撲ファンを自認している私ですが、あれほどの感激を覚えた一番は後にも先にもありません。

さて、

九州場所十四日目、白鵬-稀勢の里戦後の万歳コールも、あの北の湖-貴ノ花戦と同じく、館内が異常なほどの歓喜と興奮に包まれた結果として、自然発生的に沸き起こったものだと思います。

私には、万歳を叫んだ観客の感情が理解できます。

おそらく彼らは、「万歳なんて横綱に失礼だ」とは思っていません。
なぜなら彼らにとっての白鵬は、あの時の北の湖と同じく悪役・敵役なのです。

とうとう悪が屈した。正義が勝った。それも胸のすくような勝ち方をしてくれた。
その喜びを、万歳コールという形で爆発させたに過ぎません。

白鵬という横綱は、あの悪の権化のような横綱朝青龍の対抗馬として台頭し、連勝数をはじめとする数々の記録を作っていることなどから、同じく記録横綱である双葉山や大鵬と同じような「正義のヒーロー」なのだという印象を持っている方々も少なからずいるようです。

また、白鵬本人も、そう思い込んでいるフシがあります。
勝ち続けることで、記録を作ることで、ヒーローに、英雄になれるのだと。

とんでもない。
昔からの心ある大相撲ファンにとって、白鵬とは、あの時の北の湖以上の悪役・敵役・ヒールです。
それは、白鵬の土俵態度や相撲ぶりのズルさ、卑劣さを見ていればよくわかるはずです。

つまり、
ふだんから白鵬の相撲ぶりをよく見ていた人々こそが、今回万歳コールをしたのでしょう。
そして、白鵬の相撲をろくに見ていない人々が、万歳コールを批判しているのではないでしょうか。

そう思います。

$端屈記-ファイル0002.jpg