『わらの犬』
1971年 アメリカ
《スタッフ&キャスト》
監督・脚本 サム・ペキンパー
原作 ゴードン・M・ウィリアムズ
脚本 デビッド・Z・グッドマン
撮影 ジョン・コキロン
音楽 ジェリー・フィールディング
出演 ダスティン・ホフマン/スーザン・ジョージ/デビッド・ワーナー/デル・ヘニー/ピーター・ヴォーン/ピーター・アーン/T・P・マッケンナ
《解説》
殺らなければ、殺られる!人間の奥に潜む凶暴性が爆発する!
イギリスの作家ゴードン・M・ウィリアムズの小説「トレンチャー農場の包囲」を原作に1971年製作された、監督は「ワイルドバンチ」の名匠サム・ペキンパー、彼がメガホンをとった初めての現代劇であり、代表作である
田舎町の住人たちからの冷酷な仕打ちに耐えかねた主人公が、内なる暴力性に目覚めて繰り広げるバイオレンスシーンが壮絶、本作の後、1970年代には被害者が加害者に対して復讐する映画が増え、「わらの犬症候群」と呼ばれたほど大きな影響を与えた
《物語》
アメリカ出身の若い数学者のデイビッドは妻のエイミーと共にイギリスに渡った、コーンウォール州の片田舎の農家出身のエイミーの実家に移って来たのだ、エイミーがこの町に移って来るとたちまち若者たちの目を引いた
その中にはエイミーの元恋人のチャーリーもいて、デイビッドのいない間に彼女を口説く、職人のチャーリーは納屋の屋根の修理を買って出てデイビッドも彼に任せる事にした、しかしデイビッドはエイミーとチャーリーの過去に嫉妬
デイビッドは自らの信念で平和主義者で、暴力に満ちたアメリカの体制に嫌気がさしたのだ、コーンウォールの人たちはアメリカ人に偏見を持っている、何者にも煩わされる事なく数学の研究に専念しているデイビッドは変態扱い
研究に没頭するあまりエイミーと衝突してしまう、構ってもらえないエイミーは黒板の数式を消してしまう、エイミーはデイビッドに戦う勇気がないからここに逃げて来たと、デイビッドに構ってもらえないエイミーはチャーリーらが屋根の修理中にシャワーを見せ付けるように浴びる
そんなある日、エイミーの猫が家の中で殺された、エイミーは修理をしているスカットかクリスだと疑うがデイビッドは何もせず黙っているだけ、そんな煮え切らない態度が不満なエイミー
デイビッドはチャーリーたちに狩りに誘われる、狩場に出掛けた留守中にチャーリーがエイミーに乱暴をする、しかし乱暴されながらもチャーリーを受け入れてしまうエイミー、そこに現れたスカットにも乱暴されてしまう
狩りから戻ったデイビッドに何事もなかったように接するエイミーだったが臆病者のデイビッドに涙が溢れてしまう、翌日にはデイビッドは彼ら全員をクビにした
町の教会で懇親会が開かれデイビッドたちも出席、しかしエイミーは楽しめなかった、そこにはチャーリーとスカットもいたからだ、乱暴された時の恐怖と苦痛、それとは矛盾した快楽が交錯したのだ、気分の優れないエイミーを気遣って教会を出たデイビッドとエイミー
懇親会に出席していた精神薄弱者のヘンリーが町のませた少女ジャニスに誘い出されて納屋へ、ジャニスとヘンリーが姿を消した事を知ったジャニスの父親のトムは息子たちと捜すが、気配を感じたジャニスが慌てた事でヘンリーが驚きジャニスを羽交い絞めし、そのまま絞め殺してしまう
ヘンリーは事態の重大さに気付いて道路に飛び出して、そこに帰宅中のデイビッドの車に撥ねられてしまう、デイビッドはヘンリーを乗せて帰り医者を呼んだ
ヘンリーとジャニスを捜していたトムの耳に入り、トム一家はヘンリーの引き渡しを要求、だがデイビッドは聞き入れようとはしなかった、彼を渡せば嬲り殺しにされる事が明らかだ、デイビッドは戦う決心をした
《感想》
アメリカの暴力に満ちた体制に嫌気がさしてイギリスの田舎町に引っ越して来たのですがこちらの方にも暴力に満ちており、自らも暴力に染まってしまうのです
数学者のデイビッドを演じるのはダスティン・ホフマンで、見た感じは如何にも事なかれ主義で平和主義者って感じ、争いごとは苦手でこの町に引っ越して来たんです
その気持ちはよくわかります、好んで争う必要はありませんものね、でも争いが好きな人間もいるのです、暴力的な人間もいます、それらを避けてここに来たのに、巻き込まれてしまう
本作の魅力はやはりエイミーを演じたスーザン・ジョージでしょう、最初の登場シーンからノーブラでまるで挑発するように町を歩いているんです
若い男たちはエイミーに釘付けです、ノーブラの胸を揺らして歩いているのですから、エイミーの元彼が近付いて来て口説くんです、デイビッドはタバコを買いに行きその隙にね
エイミーは何故かチャーリーを納屋の修理に雇うようにデイビッドに言うのです、地元に詳しいエイミーの言う事ですから渋々雇うのですが、まあ働きませんわ
スカットとクリスもチャーリーの仲間で雇われますが働きません、そんな状況を見て見ぬふりをするデイビッドに不満なエイミーは屋根を修理しているチャーリーらに裸を見せ付けるんです
チャーリーはデイビッドを狩りに誘うのですが、山の上にデイビッドを置き去りにしてチャーリーは留守番をしているエイミーを襲うのです、乱暴にエイミーを脱がしてセックス
エイミーは最初は嫌がるのですが遂にはチャーリーを受け入れて積極的に快楽を得るのです、その後にスカットが現れて更に乱暴にエイミーとセックスをするのです
戻って来たデイビッドはそんな事が起こっているとは知らずに、涙を流して全てが終わったと訴えるのです、しかし乱暴された事実はさすがに言えません、でもその後の懇親会でそのチャーリーとスカットがいて気分が悪くなるんです
それは乱暴に体を奪われたのに、嫌なのに快楽が体を支配した事に対する嫌悪感なのか、それともデイビッドとチャーリーを比べてしまった事への罪悪感なのか、それにスカットにまで乱暴された悲しみなのか
本当はこのシーンはもっとバイオレンスだったそうですが、降板騒ぎにまでなったスーザン・ジョージが嫌がったのでこれくらいになったそうです、それでもスーザン・ジョージはラストにかけて痛々しかったね
スーザン・ジョージはダスティン・ホフマンと会う時は緊張したけど、彼はすごく優しくてユーモラスで緊張を解してくれたそうです、それにとても魅力的だと、でも第一印象は小柄だなって、監督のサム・ペキンパーの事は天才だと絶賛しています
田舎町で残酷な仕打ちを受けた男の狂気が暴発する!バイオレンスの巨匠サム・ペキンパーの美学が光る衝撃作 それが『わらの犬』です。
最初に出てきた動物用の罠が強烈に痛そうです、ダスティン・ホフマンの凶暴性が素晴らしく素敵です。
更に過激な続・裏237号室の『わらの犬』のレビューはこちらです。