ドイツ、悪妻愚母のよもやま話 -16ページ目

ドイツ、悪妻愚母のよもやま話

主婦にして家事はおざなり、興味あることだけ、猪突猛進の悪妻愚母のドイツ生活

うちの息子は柔道が大好きで、かつ柔道にしか興味がない17歳。

 

そんな彼が1週間ほど前、興奮した口調で、

「ママ、ここ見てよ。オーノがドイツでセミナーをするかもって書いてある」とスマホを差し出す。

「オーノって誰やねん」

「オーノだよ、オーノ。レジェンドだろ」

何のことかさっぱりわからない私にスマホを突き出す息子。

読んでみると、柔道の大野将平選手が、本人のインスタグラムのストーリーに「月末か来月、ドイツでセミナーをやるかも、です」と投稿。日本語で書いてあるのだが、息子の柔道仲間の一人が大野選手をフォローしまくっており、逐一翻訳アプリにかけてこの最新ニュースを教えてくれたとのこと。

 

柔道オンチの私も、さすがに二度オリンピックチャンピオンになった大野将平選手は知っている。

なんでも大野氏は現役を退いた後、指導者としてイギリスに2年の予定で留学。現在スコットランドを拠点に、招へいを受けたヨーロッパ各国を訪れ、直接指導が受けられるセミナーを開いているらしい。

息子が興奮しているのは、そのドイツでの開催場所が同じバイエルン州でうちから車で行ける距離にあるからだ。

 

「オーノと言ったら、レジェンドだよ。柔道界のクリスティアーノ・ロナウドみたいなもんだよ」

珍しくエキサイトした口調で息子が話す。

息子の興奮が伝染ったか、私もミーハー根性が湧いてきた。息子がセミナーに参加するなら私もついていっちゃおうかな。

大野さんと話す機会があったらしゃしゃり出て、「あ、大野さんですか。この度は息子がお世話になりまして。お会いできてうれしいです」とか言っちゃおうかなー。夢想する私を白い目で私を見る息子。

 

大野氏が各国で行ったセミナーの様子をネットで見ていると、

タジキスタンではスタジアム中が立ち上がって「オーノ、オーノ」と野太い声で大合唱。サイン、写真撮影はなんと10分間で危険と判断され中止。熱狂的な人達である。

すごいなー。アスリートもこれぐらいのレベルになると、こんなにたくさんの人を動かす力があるのか。

 

で、最新情報を今か今かと待っていたのだが、大野氏はいろんな国を回っているものの、なかなかドイツにはやってくる気配なし。代わりにと言ってはなんだが、隣国のスイスには頻繁に訪れている。スイスのドイツ語圏、フランス語圏、イタリア語圏すべて制覇である。

 

ケッ、何でスイスばっかりなんや。やっぱ、スイスは金があるんか。金にあかせて金メダリストを招へいしほうだいか。

 

心の中で毒づいていると、金曜日の朝、珍しく一番に起きてきた息子が、まだ暗がりの中で声をひそめながら、

「ママっ、オーノがドイツに来ることになったよッ」

とたんに私もソファから跳ね起き、

「ど、どういうことやねん、それはッ」

息子の差し出すインスタグラムを見ると、確かに11月の16日、17日ドイツでセミナー決定と書いてある。やったー、本当に来るんや。

しかし来るとなったらなったで、ドイツ中の柔道家が大挙して押し寄せるのではないか。ここは一刻も早く申し込みをせねば。

 

私にしては珍しく早く腰を上げ、まずは開催地の柔道クラブのHP、続いて大野氏のヨーロッパのHPにも申し込みの問い合わせメールを送った。

ヨーロッパの事務所からはすぐにお返事が来て、申し込みは現地の柔道クラブに直接してくださいという事だったのだが、肝心のクラブからは返信無し。

今度は息子をせかして、自分のスマホから直接WhatsAppでメッセージを送信させた。相変わらずなしのつぶて。ドイツらしいいい加減さ鷹揚さである。

週末だから、まだ見てないんだろうよ、と息子も旦那もゆったり構えたものである。

 

そんな悠長に構えていて、席が取れなかったらどないするんや、と一人気をもむ私。

週明けになってまだ返事が来なかったら、今度は電話で直接訪ねてみなくちゃ。

 

45分後再び迎えに行くと・・・。

閉じられたドアから先生の「もぅ、あなた達テンション高すぎー!」という声が聞こえてきた。そういう先生もかなりテンション高いんじゃ・・・。(笑)

見えなくても、教室内のワイワイガヤガヤした賑やかな雰囲気が伝わってくる。こんなん、ドイツの学校じゃありえんわな。

可笑しくなってじっと耳を澄ましていると、授業が終わって娘が出てきた。

入っていった時と違って笑顔を浮かべている。よかった。少なくともちょっとは楽しかったみたい。

 

先生が出てきて、

「いやー、よかったですよ。今日はタミィちゃんが一番!」

と言ってくれる。あらまあ、珍しい。

ま、他の子たちは中国語の片手間で、家庭では日本語の要素がないから当たり前と言えば当たり前なんだけど、楽しめたのは良かった。

「もう、今日はテンションが高すぎてうるさかったんです。ごめんねー」と先生は謝るが、うちの娘はうるさいのは大歓迎。笑顔で首を横に振っている。むしろ、ドイツの学校ではうるさく楽しく騒げる要素がゼロなので、もともとが野生児の娘は翼をもがれた鳥のように浮かない顔をしているのだ。

 

娘に聞くと、とにかく楽しくてよく笑ったらしい。先生の言っていることも全部わかったし、内容もオンラインレッスンよりも簡単だったそう。

それでも、これは一回きりで続けるつもりはないと言う。土日はゆっくり休みたいからと。残念だけど、ま、オンラインレッスンもあるし、本人の意思を尊重せねばなるまい。

 

授業の後、ここの校長先生という台湾人女性とも少しお話しした。先生は私を台湾人と勘違いして、中国語で話しかけたり、少し日本語もわかるようで、最後の方は英語とドイツ語もちゃんぽんになったりして4か国語が飛びかう。それも楽しかった。

全体的に私はこの小さい学校にとてもいい印象を持った。外で子ども達を待つ台湾人のお母さんたちも笑顔で会釈してくれたりと、とにかく感じがいい人達なのだ。

 

ドイツ人よりとっつきやすいし、日本人より緊張感が少ないし、中国人より物柔らかだし。私は例によって台湾に対する好奇心がムクムク。こういう風に色んな国の人と知り合いに慣れるのが都会のいいところ。

 

娘がここで日本語クラスを続けないのは残念だが、台湾関係、また日本関係のイベントもたまにやると言っていたので、それにはぜひ参加させてくださいとお願いしておいた。

ドイツに居ながらにして、ラテン系に続き、台湾系とも縁が出来るかなー。

先週都会に行った折、この町で開催されている外国語のコースのパンフレットをパラパラめくっていてハタと目が留まった。

「児童対象日本語クラス、10歳以上」

見間違いじゃないかともう一度見たが、確かに日本語と書いてある。しかも10歳以下、じゃなくて10歳以上とある。

私は家に帰ってさっそく唯一日本語を習っている下の娘に報告。娘を説き伏せて、取りあえず一度お試しにそのクラスをのぞいてみることにした。

 

見学の申し込みをしたところ、このクラスは午前中、台湾人の子どものための補習校となっており、そこが日本語教室も一緒に運営しているらしい。日本人の先生が来るのだろうか。よくわからないまま、土曜日の正午過ぎ、娘を連れて出かけた。

 

私だって子どもには日本語とドイツ語のバイリンガルになってほしかったし、最初の子どもは日本語補習校に入れたりもしたけど、あまりにも大変ですぐに挫折。

その後日本人が誰もいないこの町に移り住んで、私以外誰も日本語を話す人がいない環境で、気がついたらメインの会話はドイツ語。日本にも9年間里帰りできず、子ども達の日本語もすっかり寂れてしまった。

その事がずっと悲しく心残りとなっていたので、下の娘が1年前、オンラインで日本語を習い始めた時は本当に嬉しかった。

 

娘は、誰も知っている人がいないクラスに参加するというのでかなり気乗り薄だったが、1回だけお試しという事で渋々ついてきた。

小さなレンガ造りでヴィラ風の素敵な建物に入っていくと、中国語のクラスが終わったところで、そこら中で威勢のいい中国語が聞こえてくる。教室の扉を開けると先生らしい女性が立っていた。

さっそくご挨拶して、色々説明を受けるうちにわかったのだが、日本人だと思った先生は台湾人。ほぼ完ぺきな日本語を操るので、日本育ちなのかと思ったところ、

 

「いいえ。でも日本に15年住んでいたんですよ。ドイツ人の夫と知り合ったのも日本なんです。今でも家庭での会話は全部日本語ですよ」

ドイツ人の夫を持つ台湾人の先生がドイツで日本語を教える。なんともインターナショナルだ。

今日の参加者はたった4名という事で、娘以外は台湾人の女の子が二人、もう一人は日本とベルギーのハーフの男の子。

 

先生、「レベルははっきり言って低いんです。すごく上手になるためじゃなくて、まあ日本語に親しむためのクラスです。おまけにすごくテンションが高くてうるさいですよー」

と笑顔。でも活気があるほうのうるさいでネガティブな感じはない。

 

私はそもそも台湾の人に大変いい印象を持っているのだ。日本人に感覚が近いが、気さくで大らかである一方、中国大陸の人よりキツくないというか。

この先生も丁寧だが、人を緊張させるような堅苦しさはなく、レベルは低いです!とはっきり言うあたり、ざっくばらんで気を使わなくていい感じ。

「うるさいのはこの子もそうなので大丈夫です!」

と固くなっている娘を前に押しやり、45分後に迎えに来る約束をし、その場を離れた。

コロンビア人のパトリシアのダンス教室が始まった。

去年、ドイツの暗くて長い冬をこれでだいぶ助けられた私は今学期もいそいそと申込み。

 

今期も国際色豊かなクラスである。

ドイツ、コロンビア、フィンランド、フランス、インドネシア、マレーシア、カザフスタン、日本に加えてイランの9か国!。9か国ってすごくないか。

 

今学期から新しく参加している年上のマダムと帰り際に立ち話となり、「どこから来たんですか」と聞いてみた。眉毛がくっきりした彫りの深い顔で、何となくトルコの人かと思っていたら「私、イランのテヘラン出身よ」

!!途端に好奇心がムクムク。よその文化から来た人にはいつも興味があるが、自分が行ったことがある国は殊にもなつかしさをおぼえる。

 

「あなたは日本人なの。私、以前に日本に旅行に行ったことがあるの。気に入った国の一つよ」

「えー、私も以前イランに旅行に行ったことがあるんですよ!」

「えー、本当?びっくり!」

二人で笑ってしまう。ドイツ在住で日本へ行ったことがあるイラン人も、イランに行ったことがある日本人も珍しいかもしれない。

 

聞けば彼女は20代の時にドイツに来て早38年間。ドイツで大学を出ていて、日本旅行に行けるだけの経済力もあるからインテリ層かも。

 

私は28年前に行ったイランが懐かしくて、彼女相手にベラベラと当時の思い出に花を咲かせる。

そして疑問に思っていたことも聞いてみた。

 

「あの、最近の旅系のYouTubeで映されるイランの街を見ていると、スカーフを外して完全に髪を出している女の人をよく見るんですが、あれは大丈夫なのですか」

 

なにしろイランと言えば戒律が厳しく、外国人旅行者であっても、髪を出してはいけないという規則だった。

私達女性の参加者は、チャドルを仕立ててもらってイラン人女性のような恰好で町を歩き、それはそれで面白かったが、ずり落ちないように何度も布を持ちなおすのが大変だった。

 

「そうよ、今は大丈夫になってきたの。と言ってもここ2年ぐらいの話だけどね。私もイランへ里帰りした時は髪を隠さないわ。今じゃ半分ぐらいの女性がスカーフなしで歩いているかしらね」

 

「道徳警察に取り締まられたりしないんですか」

ヒジャブを適切にかぶっていなかったとして、警察に拘束された若い女性が死亡するという痛ましい事件でイラン全土にデモが広がったのは記憶に新しい。

「今や、スカーフなしで歩いている女性が増えすぎちゃってコントロールできないのよ。ここまで来るのに本当に長い道のりだったわ。

今でも髪を出すことに恐怖を感じる女性も多いわよ。批判されたり、面倒なことになったり、仕事を失う可能性さえもあるからね。ゆっくりゆっくりだけどこのムーブメントは広がっていっているの」一つ一つ考え込むように答えた後、彼女は笑顔を見せた。

 

また来週ね、と手を振りあって別れた。新しい出会い、新しい国籍の人と知り合いになることはいつもワクワクする。

私はこの8か国の人達に好奇心がうずうず。出来るなら一人一人根掘り葉掘り聞いていきたいくらいなのだが、ドイツではあまり好奇心をむき出しにすると変な顔をされる恐れもあるからゆっくりゆっくり気長に行こう。

ダンス教室の帰り、バスを待っているとき、ベビーカーに乗せた女の子を連れた若いお母さんが隣にいた。

女の子と目が合ったのでニッと笑いかけてみたが、女の子は知らん顔で、下に目を落とす。

驚いたのは3歳にも満たないであろう女の子はピンク色のスマホを手に持ち、一心に見入っている。ケータイからはピーチクパーチクロシア語が流れているので、ロシアかロシア語圏の人だろう。

長い金髪をなびかせたお母さんはお母さんで時折自分のスマホに見入り、娘のほうには無関心の様子。

女の子はどう見ても3歳未満。こんな小さな子に携帯を与えておいてこの子の将来はどうなってしまうんだろう、と他人事ながら心配になってしまう。

 

バスに乗ったら乗ったで、学校帰りの気が利かないティーンエイジャーにムカッ。

乗客が増えて通路に人が立っているのに、自分の隣の席にリュックサックをドーンと置いて席を譲らない輩がこの日は何人いただろう。目の前の2席占領している女の子の足元にドサッと荷物を置いたけど、それでも席を空けようとしない。私は2駅で降りるので何も言わなかったが、もっと長く乗っていたら確実に「ちょっと席を空けてもらえるかしら」と言っていただろうな。

ドイツのバスは中央にベビーカーや車椅子の人のための場所が大きくとってある。誰もいない時は折り畳み式の椅子になっているが、いったん歩行器やベビーカーの人が乗り込んでくると、みんなすぐに席を立って譲る。ドイツの若者のそういうところが好きだったのに、この日はなぜかぬぼーっと腰かけたままの子が多し。自分さえよければいいのか。とても腹が立ってしまう。

そりゃあ私だって人様に何か言えるほど大した人間じゃありませんよ。しかしこういう公共のモラルというのか、これは常識の範囲ではないだろうか。

実にけしからん、とオッサンのように一人で憤慨。

 

ベビーカーを押したお母さんや歩行器の高齢者が乗って来たのに、ぼーっとして席に着いたままの若者。もっともさすがドイツで、お母さんやご老人の方も声を荒げて「ちょっとー、席を空けなさいよ」とズンズン突き進んでいくのは頼もしいところ。

 

 

うちの娘がこんなことをしたら説教してやる、と意気込んで家に帰り、

「あんた達は大丈夫やと思っているけど、ああいう時、ちゃんと席を譲っているでしょうね」

と確認したところ、反抗期らしく、あーあー、ハイハイと面倒くさそうに言った後、

「そんなこと言ったって、そもそもちゃんと乗り物が来るかどうかがあやしいもんだわ」

 

・・・そうだった。うちの田舎鉄道はやたら遅延やキャンセルが多くてみんな慣れっこになっている。今週の水曜日も、線路に木が倒れて運航不可能。遠足は中止ですので、保護者の方はお子さんを迎えに来てください。と9時前に学校から通達があったばかり。

 

うちの場合、席を譲る云々の以前にそもそも乗り物がきちんと運航されるかどうかという問題があるのだった・・・。