うちの息子は柔道が大好きで、かつ柔道にしか興味がない17歳。
そんな彼が1週間ほど前、興奮した口調で、
「ママ、ここ見てよ。オーノがドイツでセミナーをするかもって書いてある」とスマホを差し出す。
「オーノって誰やねん」
「オーノだよ、オーノ。レジェンドだろ」
何のことかさっぱりわからない私にスマホを突き出す息子。
読んでみると、柔道の大野将平選手が、本人のインスタグラムのストーリーに「月末か来月、ドイツでセミナーをやるかも、です」と投稿。日本語で書いてあるのだが、息子の柔道仲間の一人が大野選手をフォローしまくっており、逐一翻訳アプリにかけてこの最新ニュースを教えてくれたとのこと。
柔道オンチの私も、さすがに二度オリンピックチャンピオンになった大野将平選手は知っている。
なんでも大野氏は現役を退いた後、指導者としてイギリスに2年の予定で留学。現在スコットランドを拠点に、招へいを受けたヨーロッパ各国を訪れ、直接指導が受けられるセミナーを開いているらしい。
息子が興奮しているのは、そのドイツでの開催場所が同じバイエルン州でうちから車で行ける距離にあるからだ。
「オーノと言ったら、レジェンドだよ。柔道界のクリスティアーノ・ロナウドみたいなもんだよ」
珍しくエキサイトした口調で息子が話す。
息子の興奮が伝染ったか、私もミーハー根性が湧いてきた。息子がセミナーに参加するなら私もついていっちゃおうかな。
大野さんと話す機会があったらしゃしゃり出て、「あ、大野さんですか。この度は息子がお世話になりまして。お会いできてうれしいです」とか言っちゃおうかなー。夢想する私を白い目で私を見る息子。
大野氏が各国で行ったセミナーの様子をネットで見ていると、
タジキスタンではスタジアム中が立ち上がって「オーノ、オーノ」と野太い声で大合唱。サイン、写真撮影はなんと10分間で危険と判断され中止。熱狂的な人達である。
すごいなー。アスリートもこれぐらいのレベルになると、こんなにたくさんの人を動かす力があるのか。
で、最新情報を今か今かと待っていたのだが、大野氏はいろんな国を回っているものの、なかなかドイツにはやってくる気配なし。代わりにと言ってはなんだが、隣国のスイスには頻繁に訪れている。スイスのドイツ語圏、フランス語圏、イタリア語圏すべて制覇である。
ケッ、何でスイスばっかりなんや。やっぱ、スイスは金があるんか。金にあかせて金メダリストを招へいしほうだいか。
心の中で毒づいていると、金曜日の朝、珍しく一番に起きてきた息子が、まだ暗がりの中で声をひそめながら、
「ママっ、オーノがドイツに来ることになったよッ」
とたんに私もソファから跳ね起き、
「ど、どういうことやねん、それはッ」
息子の差し出すインスタグラムを見ると、確かに11月の16日、17日ドイツでセミナー決定と書いてある。やったー、本当に来るんや。
しかし来るとなったらなったで、ドイツ中の柔道家が大挙して押し寄せるのではないか。ここは一刻も早く申し込みをせねば。
私にしては珍しく早く腰を上げ、まずは開催地の柔道クラブのHP、続いて大野氏のヨーロッパのHPにも申し込みの問い合わせメールを送った。
ヨーロッパの事務所からはすぐにお返事が来て、申し込みは現地の柔道クラブに直接してくださいという事だったのだが、肝心のクラブからは返信無し。
今度は息子をせかして、自分のスマホから直接WhatsAppでメッセージを送信させた。相変わらずなしのつぶて。ドイツらしいいい加減さ鷹揚さである。
週末だから、まだ見てないんだろうよ、と息子も旦那もゆったり構えたものである。
そんな悠長に構えていて、席が取れなかったらどないするんや、と一人気をもむ私。
週明けになってまだ返事が来なかったら、今度は電話で直接訪ねてみなくちゃ。
