週末の土曜日、食料品の買い出しをしに近所の安スーパーに行ってきた。
お昼前でまだ比較的空いている。広い店内を旦那と手分けして食料品を探し、最後のコーナーを曲がった途端、二人連れカップルの女性の方と目が合った。
あ、アンドレアだ。上の娘の同級生ミアの母親でハンガリー出身。背が高く、肌はやや浅黒く、髪や目も黒い。
この人のことは前にも少し書いたことがあると思うのだが、私の周りではちょっと類を見ないぐらいドラマチックな人生を歩んでいる。
5年ぐらい前に、自分の夫と秘書の浮気が発覚。その女性とは結局別れたものの、キミとはもうやっていけないと言い渡され、子ども二人を連れて離婚することに。
80Kgを超える体躯も10Kg以上減り、当初は声をかけるのもためらわれるぐらい落ち込んでいたが、さすがと言うか、数か月後にはたくましくマッチングアプリで新しい彼氏をゲットし、住み慣れたこの町を離れて、彼氏との子どもも合わせ総勢6人、7人?のパッチワークファミリーの生活が始まった。
しかし、性急すぎた新しい関係はすぐに破綻し、1年後にはこの町に戻って来た。この時点で、上の息子はお父さんと暮らすことを選択。娘のミアだけが残った。
そのミアも詳しい事情は分からないが、何か争いがあったのか、2年ほど前に父親と暮らすことを決意し、彼女は今一人で少し離れた小さな町に住んでいる。一緒にいる男性は新しい彼氏だろう。
おまけにとどめを刺すように、上の息子が去年白血病であることがわかり、身体的苦痛を伴う化学療法の最中だという。なぜこんなに次から次へと不幸が押し寄せるのか、本当に気の毒である。
はっきり言えば、あまり会いたくない相手ではあったのだが、ここまでバッチリ目が合ってしまっては仕方がない。私は覚悟を決めて近づいていった。
「ハーイ、アンドレア、どう調子は?」
「ハーイ、すっごく元気よ。あなたは?この前ミアが友達を引き連れて遊びに来たの。リネ(うちの娘)もいたわよ。あの子本当にいい子ねー。あの4人の内で、リネだけが将来何になりたいか即答したのよ。素晴らしいわ」
明るい笑顔でいつものようにテンション高くしゃべり続ける。
でも、私はその笑顔の下に涙が隠れているような、落ち込みを隠して無理に明るくふるまっているような気がしてならない。
かと言って、ミアが離れたことも、ミアのお兄ちゃんが白血病になっていることも、一応は秘密で私は知っていないことになっているからあからさまに聞けるわけでもないし。
前の旦那さんと暮らしているときから、わけもなく激しく落ち込む時期があると言っていた。
カウンセリングを受けるとか、自分と向き合うようにしてみたら、と何度か言ってみたのだが、私、忙しいのよ。自分のための時間なんかないわ、と言うばかりで、そのうち夫婦関係は破綻してしまった。
彼女にもプライドがあるのか、また気が強いタイプでもあり、パッチワークファミリーとして新しい彼氏の住む町に引っ越した時は、SMSに「私、本当に今幸せよ。何もかもうまく行きすぎて怖いぐらい。子ども達もこれがベストな選択だったって言ってるの」と書いてきた。でも半年もたたない間に彼氏とは喧嘩が絶えなくなったという。
もう一つあった。旦那さんが浮気をする数年前だったが、一人娘を心配したハンガリーの両親が思い切ってドイツに移民してきた。
当初は両親が近くに住むとあって有頂天になっていたのだが、何があったか、2年ぐらいで年老いた両親はハンガリーに帰国し、しばらくはアンドレアと口も利かない関係が続いたという。
ここまで来ると、彼女の人間関係の破綻はおそらく彼女自身の気性の激しさ、周りの人をコントロールしたがる威圧感が招いたものだという気がしてならない。
私としても、娘同士が仲がいいだけで、彼女とはそれほど親しかったわけではない。決めつけるようなものの言い方をするので、どちらかというと苦手なタイプだったかもしれない。でも悪気はないので嫌いなわけでは決してなかった。
ただ一人の人間として、次から次へと不幸が襲い、それも大きくなっているような彼女を見るのはつらいし、本当に気の毒だと思う。
彼女のことを思い出すと、家に帰っても何となく悲しい気持ちが続き、考え込んでしまった。
旦那が、「彼女を救うのはキミの仕事ではないし、彼女は自分で招いた結果なんだということを自分で理解しなければいけないよ」と言う。全くその通りなのだが、なかなか割り切れない。
せめて今つきあっている彼氏がいい人だといいのだが。
男は全員最低のケツ穴野郎と豪語する割に、ボーイフレンドが途切れないのも不思議なところ。どうかうまく行ってほしい。