モリスという人(2) | 英国アンティークス・オフィシャルブログ

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英国の美しいもの、景色、すばらしい人々、そしてアンティークについて英国在住の鈴木ミアが、今の英国の楽しい情報をお伝えしております。


ある秋晴れの日、私はコッツウォルズにドライブに出かけました。



そして、そのドライブの途中にあった



「ケルムスコット・マナー(Kelmscott Manor)」

(↑日本語の情報が見られます)


を昨日はご紹介いたしました。




そこまでのお話をお読みでない方は、よろしければ以下のリンクからお読みになってくださいね。



車 ある日のコッツウォルズ・ドライブ(1) クリック


車 ある日のコッツウォルズ・ドライブ(2) クリック


家 モリスという人(1) クリック



ここからは昨日の記事の続きになります。



昨日ご紹介いたしました、ケルムスコット・マナーの一時の主であり、

英国のヴィクトリア時代の中に生きた、近代デザインの父と呼ばれる

ウィリアム・モリスという芸術家をご紹介いたします。



今回は彼が世に残した功績の大きさもさることながら、少し数奇ともいえる

プライベートな生活にも焦点を当ててみたいと思います。




ウィリアム・モリスと聞いて思い浮かぶのが、まずこんなデザインだと思います。



     



こちらは楽天市場で扱われていた壁紙なのですが、これをデザインしたのが

ウイリアム・モリスなのです。モリスのデザインはコッツウォルズの自然から

インスピレーションを得たものといわれています。




ウィリアム・モリスは1834年にロンドン・シティの証券仲買人の裕福な家庭に生まれました。

モリスは幼少の頃より病弱であったものの、とても勤勉だったモリスは4歳になった頃には

ウォルター・スコットの長編小説を読みこなしていたと言われています。


大学に入学する前からモリスは絵画や建築にも興味を持ちはじめました。

最終的にはモリスは、詩人、芸術家、家具などの製造、社会主義者として知られることになります。


モリスはオックスフォード大学のエクセター・カレッジに進学し、そこで社会評論家の

ジョン・ラスキンの書物にふれたことが彼の後の人生を方向付けていくことになります。

オックスフォード大学の中ではラスキンの書物以外にも彼の人生に影響を与え、

また喜びや苦しみを与えた人々との出会いがあります。



モリスはオックスフォード市にある、多くの英国の首相や世界各国の政治家を

輩出したオックスフォード・ユニオンという討論団体の建物の壁に、壁画として

アーサー王伝説に登場する王妃グィネヴィアを描くという仕事を仲間とともに行いました。



そこで運命的な出会いがあります。それは彼の人生を翻弄することになる女性で

後にモリスの妻となる、ジェーン・バーデンと出会いでした。ジェーンは、モリスの

親友で画家であったダンテ・ガブリエル・ロセッティのモデルとしてそこで働いていたのです。



当初、壁画はロセッティの婚約者のエリザベス・シダルという女性ををモデルに制作されていたのですが、

制作が難航したとき、ロセッティが気分転換に、と出向いたロンドンの下町の劇場で

やはり観劇に訪れていたジェーンを見つけたのです。そしてジェーンをモデルに壁画を描くことにしたのです。




英国・コッツウォルズより愛をこめて

       

        ロセッティによって描かれたジェーン



美しいジェーンは、そこにいた画家たちのミューズ的存在となり、彼らをとりこにしてしまいました。

モリスもそんなジェーンににたちまち心を奪われます。ジェーンは貧しい馬丁の娘だったために

周りの反対を受けますが、二人はその反対を押し切って結婚します。



モリスにとっては神秘的な美しい女性が彼が芸術的インスピレーションを得るために

必要であり、ジェーンにとっては経済的困難から脱却するためにモリスが必要だったのでした。



―― ここまでは、ドラマティックとはいえ、よくあるようなお話ですね。


ここからがモリスの人生の大変なところです。



二人がそれぞれ必要とするものを補いあえる結婚でしたが、問題はジェーンが

本当に愛していたのはモリスの親友であったダンテ・ガブリエル・ロセッティだった

ことでした。モリスにとってはジェーンもロセッティの両方とも必要な人物でしたので、

モリスは、ジェーンとロセッティの関係をを知りながらもジェーンと結婚したのでした。



モリスとジェーンは結婚し、ロセッティはもともとの婚約者のエリザベスと結婚することになるのですが、

それでもロセッティとジェーンは互いに惹かれあっていました。そしてロセッティの作品に

しばしばジェーンがモデルとして登場するようになってくるのです。



繊細で病気がちなエリザベスにとってジェーンの存在は、当然のごとくエリザベスの

心痛の種となります。不幸なことは重なるもので、ロセッティとエリザベスは授かった子供も

死産で失うことになります。そしてエリザベスは、ある薬におぼれるようになり、結婚2年目のある日

大量の薬を服用して自殺同然の死を遂げます。



エリザベスの死を悼んだロセッティによって描かれたのが、「ベアタ・ベタトリクス」になります。




英国・コッツウォルズより愛をこめて


「ベアタ・ベタトリクス」(テート・ブリテンで見ることができます)





ここで、モリスとロセッティの自画像をお見せいたしましょう。



英国・コッツウォルズより愛をこめて  英国・コッツウォルズより愛をこめて

         モリス自画像                   ロセッティ自画像



モリスは結婚後も精力的に仕事をこなしていきます。そして結婚の翌年には

「アート&クラフツ運動」の鍵となるロンドン郊外の「レッド・ハウス(Red House)」に移り住みます。




英国・コッツウォルズより愛をこめて



「アーツ&クラフツ運動」は産業革命の結果、ヴィクトリア時代に蔓延していた安価で

粗悪な商品があふれていた風潮を是正しようというもので、中世の手仕事にたちかえり、

生活と芸術を統一するということを主張した運動です。



この「レッド・ハウス」は、中世のスタイルを取り入れるというモリスの意向にそって、

彼の親しい友人の建築家、フィリップ・ウェッブによって設計され、壁紙からカーペット、

タペストリーからステンドグラスにいたるまで、すべてモリスとその友人たちの手によって

仕上げられ、「世界で最も美しい家」といわれています。





英国・コッツウォルズより愛をこめて




レッドハウスとは、その時代では当たり前であった漆喰の外壁仕上げをせず

、建築材である赤レンガをそのままむき出しの外壁としていることから名づけられました。




   英国・コッツウォルズより愛をこめて

  モリスがここに住んでいたという銘板「ブルー・プラーク」




モリスにとっては思い入れのある家「レッド・ハウス」だったに違いないのですが、

諸事情が重なりここに住んだのはたった5年間となってしまいました。




諸事情というのは、「レッド・ハウス」では多くの友人たちと家を共有していたモリスですが、

そのことが家を出なければならなくなった原因のひとつとなりました。最終的には

喧騒からのがれてコッツウォルズのケルムスコット・マナーに住まうことになるのです。




英国・コッツウォルズより愛をこめて

         夏のケルムスコット・マナー



このケルムスコット・マナーに越してきたもうひとつの理由は、ジェーンとロセッティの

親密な関係を世間から隠すためだということです。この邸宅での「地上の楽園」的な生活は、

奇妙な三角関係のなか始まったのです。「地上の楽園」はモリスの叙事詩ですね。



輝く平原の物語/ウィリアム モリス



妻のジェーンに対していろんなご意見がおありになるかと思いますが、ジェーンは

ただの美しい女性ではありませんでした。彼女は刺繍家としてモリスのデザインする、

カーテンやタペストリーにそれは美しい刺繍を施し、作品を芸術の域にまで

高めるという大きい手助けをしていたのです。




ですので、このケルムスコット・マナーでの生活は、三人の共同生活のうえ、

三人各自のおびただしい芸術活動が展開されるという、

ふつうでは想像もできない生活をおくっていたようです。



その間も、ロセッティは妻への罪悪感にさいなまれ次第に心身を病み

自殺を図ったこともありました。そして最終的にはジェーンとは別れ、

晩年は世間的な成功は得たものの、お酒と薬におぼれる生活で不眠症に

なっていたようです。そして54歳という短い生涯を終えるのです。


その頃からモリスは、プロレタリアートを解放して、生活を芸術化するために、

根本的に社会を変えることが不可欠だと考え、マルクス主義を熱烈に信奉し、

カール・マルクスの娘らと行動をともにし、社会主義協会まで結成します。

そして62歳で彼の生涯を終えます。



一方モリスの妻、ジェーンはロセッティだけにとどまらずモリスとの結婚生活の

間も何人かの愛人がいたようで、最終的に75歳まで生きました。



果たしてだれが人生の勝利者かということは差し置き、この三人だけを

取り上げても様々な人生、そして各人の心模様が見え隠れしますね。



       ベル 3秒だけお時間をください!ベル


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モリスデザインの壁紙

ウィリアム・モリスの壁紙をはれば、そこは英国の中世のようなお部屋になりますね。