「ワーリャ、見て。この色ならシャツとスカートに合うかな?」
ウクライナ国立民族舞踊団の稽古場。スカーフを首に巻きながら、団員がヴァレンチーナを愛称で呼び止める。
彼女はベテランの衣装係。若い団員から”お母さん”と慕われる。
2000年(平成12年)、民音招聘で日本の初公演が決まった。あまりなじみのない極東の国。進んで手を挙げる希望者は少なかった。
しかし──公演初日。第一幕が終わった瞬間、舞台裏のヴァレンチーナの背筋は、ぞくりとした。ステージがら帰ってきた団員も顔を紅潮させている。
「聞いた?ものすごい拍手だよ、すごい!」
全国20都市以上で公演。どこでも同じ歓呼で迎えられる。興奮は、それだけではない。
「ワーリャ、このステージも広いね。照明も工夫されているよ」。海外公演では、意思の疎通が難しいこともあって、狭くて古い劇場をあてがわれることも日常茶飯事だ。
宿泊先にも差し入れが届く。しかも、どの菓子が減っているかを調べ、人気の品から補充されている。
「果物以外、食べちゃ駄目よ。太ったら衣装を縫い直さないといけないんだから」。ヴァレンチーナが、きっとにらむほどである。
それにしても──。
いつも伝言をくださる創立者って、どんな人だろう。
「異文化を尊重するのが仏法である。異文化と協調し、平和を目指していくのが文化である。文化を大切にして、決して相手を粗末にしてはいけない」
創立者の信念である。
3年後、2度目の日本公演が決まった。団員たちは、こぞって日本に行きたがった。
フランスのピアニスト、マドレーヌ・マルロー。2007年11月、音楽愛好家らの招きで来日。ピアノリサイタルを記念して届けられた胡蝶蘭に目が止まった。
「日本滞在中にお礼の手紙を書かなければ」。それは、かつて夫とパリ近郊の館で対談を行った池田会長からの贈り物だった。
夫は小説家アンドレ・マルロー。ド・ゴール政権下で、情報相、文化相を歴任した。ナチスの魔の手から芸術の至宝を守った夫との語らいは、対談集となった。
理念を述べる人は多い。だが、現実に実行する人物は少ない。
民音は、約100カ国・地域との文化交流を広げている。なんとダイナミックな活動だろう。
「音楽は、普遍的な言語であり、人々をつなげる文化です。民音は、池田先生の歩み、そのものですね」
2009年、民音は創立45周年を迎えた。