桑子真帆アナウンサーの是枝監督へのインタビュー〜山田太一作品に関すること | Atelier Scala

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こんにちは。

アトリエスカラの内藤英治です。

今年2024年もよろしくお願いいたします。

 

昨年亡くなった

脚本家の山田太一さんの作品について

NHKのクローズアップ現代で

桑子真帆アナウンサーが

映画監督の是枝裕和さんにインタビュー

した内容が素晴らしかったので

Facebook:Eiji Naitou に文字を起こして掲載しました。

 

桑子アナウンサーが

山田さんと是枝監督をリスペクトして

今を生きる我々にとって大切なことを

自らの疑問をベースに問いかける姿勢が

素晴らしかったと思います。

 

桑子真帆アナウンサー

 

 

是枝監督も

あくまで映画人として

または一表現者として

真摯に山田作品について感想を述べられていたのが

とても印象に残りました。

 

それはいわゆる評論としての意見ではなく

自分の軸を持って

何の忖度もなく感想を述べることの大切さを

教えてくれる内容でした。

 

是枝裕和監督

 

 

以下、長くなりますが

内容を掲載します。

 

 

 

 

山田太一さん

 

 

 

是枝裕和監督が語る山田太一さん

12月18日(月)放送,NHKクローズアップ現代

山田太一 生きる哀しみを見つめて

 

 

桑子アナウンサー(以下:桑)

是枝さんは山田さんを、最も影響を受けた脚本家の一人っていうふうにおっしゃっていますけれど、是枝監督にとって山田さん,そして山田作品っていうのは、どういう存在なんですか?

 

是枝裕和監督(以下:是)

う~ん、学生の頃に出会いまして、まぁ自分が脚本、映画、ドラマを志そうと思ったときに、まぁ一番お手本になった作り手の一人ですね。

 

桑:お手本ですか。どのあたりが?

 

是:あのぉ~、ドラマだけじゃなくて、エッセイとかも読んでいくと、やはりそのぉ~、

作り手がこれは描くがこれは描かないって言う、山田さんの中に明確に基準があるんです。

 

桑:そうですか。

 

是:で、決して英雄は描かない。安易な成長を描かない。何かが努力で克服されるというような事態を極力避ける。それでいてその人たちを決して否定しない。っていう明確な価値観があって、それが僕が求めてた、そのテレビドラマというものの中で、逆にすごく輝くっていう、そういうスタンスをやっぱり貫かれた方だと思います。

 

桑:でも、当時のその社会でよく見られていたドラマとは全然違う、まぁテイストと言うか・・

 

是:そうですねぇ~、あのぉ長く描かれてますから、いろんなものが山田さんの中にもあると思いますけれど、やはりそのホームドラマというものが全盛で、やっぱり家族っていいよねぇって言われてた時代に、やっぱりそのぉホームドラマに楔を打ち込むっていうんですか、冷や水をかける、冷水をかけるっていうんですか、そういうものを作られますし、まぁトレンディードラマっていうものが生まれてきた時に、あの、まぁ、

三流、そこに乗り切れない人たちにスポットを当てていく。必ずこう、時代の流れとは違うものを。そうではない人たちもいるのだってことを常に問いかけたんじゃないですかね。

 

桑:あの、普通は描かないものを描こうと思ったって、先ほど山田さんの音声の中にありましたけど、山田さんならではの視点というか目線っていうのは、どういうものだっていうふうに思ってらっしゃいますか?

 

是:う~ん、その登場人物、主人公に設定される人たちが、やはり何かに間に合わなかった、遅れてやって来た。あのぉ、大きな声を出せない、その人たちの声をすくいとっていくっていうんですかね。

常にこう勝者ではなくて、敗者の側に自分は身を置くのだっていうことじゃないかなぁ~。

それが一番大きな、僕も学んだところ、学びたいと思ってるところなんですけど・・・。

 

 

 

 

桑:そうですか。中でも「車輪の一歩」。これって是枝さんの中でどういうものですか?

 

是:今回「車輪の一歩」が特集されているのであれなんですけど、当時は実は放送では観てないんですね(笑)。

 

桑:そうですかぁ~。

 

是:「男達の旅路」というのが、タイトルもそうなんですけど、鶴田浩二、特攻の生き残りの鶴田浩二が、まぁ若い人たちに、けっこう人生論を語るっていうのが、ちょっと好きになれなくって、一話二話観たくらいで、実は離脱してたんです。

 

桑:そうですかぁ~(感)。

 

是:ただそのシリーズが進んでいったときに、「車輪の一歩」というのが素晴らしいという話が耳にも入ってきて、それでどこか、放送博物館だと思いますけど、特殊上映で観て、「あっ、こんな素晴らしいドラマが放送されてたのっ。」と反省しまして、そこから観られる限り観直したっていう出会い方なので・・・(照)。

 

桑:どういうところが素晴らしいなっていうふうに感じられたんですか?

 

是:あのぉこのシリーズの中で、やっぱ「シルバーシート」と僕は「車輪の一歩」が突出して素晴らしいと思っているんですけども。その「シルバーシート」もそうですが、老人に価値はないのか?老人が老人であるだけで価値はないのか?っていう問いかけ。で「車輪の一歩」に関して言うと、これはたぶん40数年前、もちろんそういう言葉にはなってないけれども、障害は個性であるっていうことを、一貫してこのドラマは訴えてますよね。

で、迷惑をかけていいのだ、ではなく、迷惑をかけなければならない

 

桑:そうですね。

 

是:という強い言い方をして、そのことによってたぶん、あのラストが描いているのは、

彼らの存在によって健常者の側がどう変わるべきなのかっていうことをたぶん、テレビを見ている人たちに訴えているんだと思うんですね。

かなり、あの、メッセージとしては非常にストレートにこちらに届いてくるドラマの回だったと思いますけども。

 

桑:山田さんらしくないっていうふうにも言えますか?

 

是:あのぉ~、エッセイなどを読むと、やはり

「正しいことを言うときには、声高にならない」っていうのが、山田さんのスタンスだと思うんですね。それはドラマの中でも繰り返し描かれてきたと思いますけれども、あのぉ~、あの回のラストはやはりかなりストレートに伝わってくる。それはやっぱり3年かけて、3年間取材を重ねた結果出てきたものだと思うから、決してあのメッセージが浮いているとは思わないけれども。あのぉ~、それだけに突出していると思います。

 

桑:ただあの山田さんの描き方、私全てを観ているわけではないんですけれど、あの柔らかい、表面的には柔らかいものが多いけれども、しっかり芯があるっていうことなんでしょうか?奥底に・・・。

 

是:そうですね。ご本人の語りも、お会いすると本当に穏やかで柔らかくて、ただ、基本的には常に描かれる前提としては時代に対する、時代の価値観に対する違和感とか、もっと言うと怒りみたいなものが・・

 

桑:あぁ~、怒り・・・。

 

是:強くあっただろうと思います。

 

桑:そうですかぁ~。

どうでしょう。今のこの時代に、山田さんが、何かその怒りや違和感をもって作品を描くとすると、どういうテーマがあると思いますか?

 

是:うぅ~んん。たぶんそのずうっと山田さんが描かれてきたものの延長線上で言えば、

生産性みたいなことで人の価値が語られるようになってしまった状況に対する、たぶん違和感

みたいなものをドラマの中心に据えるのかな、というふうには思います。

 

桑:たとえばその「車輪の一歩」は、あの時はとにかく車椅子に乗っている人がなかなか声をあげられない、頼れないという時代でしたよね。今で言うとどうでしょうか?

 

是:これもあのぉ~本を読ませていただくとですねぇ、今バリアフリーが進んで、えぇ~駅にエレベーターができて

 

桑:エレベーターが出来たりエスカレーターが出来たり

 

是:あのぉ~便利になった。

 

桑:はい。

 

是:シルバーシートも出来た。

で、その事が逆に軋轢を。そりゃぁもちろんいい事でもあるんですけど、軋轢を生まなくなっている。人と人が繋がる接点が一つ減った。

あの一般の人が、健常者が車椅子を階段を上げるということをしなくても済むようになった。ということのマイナスの面っていうのを、山田さんは自分であのドラマを作られた後に、書かれている。やっぱりそういう目線がすごい大事で、こう正しい事の中にもマイナス面があるし、間違っている事の中にも理はある、って言うそういう複雑なものの見方を常にされてると思うんですよね。

 

桑:中井貴一さんは応援歌だっておっしゃってましたけど、是枝さんはその山田さんの作品をどういうふうに言葉化されますか?

 

是:うぅ~ん(返答に困る・・・)。

応援・・、応援歌だとは思うんですけれども、ただ、そのぉ~、まぁドラマを描く、勉強すると、葛藤が克服される、っていうふうに,あの言われるんですが、葛藤はあるけど克服されない、されなくてもいいのだっていう、そういう応援歌だと思います。

 

桑:ありがとうございます。

 

 

 

桑子真帆アナウンサーの自然体のインタビューに

とても好感が持てました。

 

義理のお父さんが

小澤征爾さんであることが・・

最高の表現者が

身内に居られることが・・

少なからず影響しているのかなぁ〜と

ちょっと羨ましくも思いました。

 

全然似てはいないけれど

久しぶりに心を揺さぶられたので

いらすをも描いてみました。

 

今年も自分の軸を持って

作品について語れるような

自分でありたいと思います。