三木清「人生論ノート」考察14~成功 | ejiratsu-blog

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(つづき)

 

 

●成功について

 

 本項と次項で、それぞれ成功と幸福を取り上げますが、本項では、成功を幸福と対比させているので、先にみることにし、次項では、幸福を掘り下げているので、後でみることにしました。

 まず、成功は、幸福と対比させると、次のようになり、成功は、量的なので、過程・成果を数値化できる一方、幸福は、質的なので、数値化できず、相対的な半幸福半不幸は、成り立たず、絶対的な幸福か否かが、存在することになります。

 これは、半生半死や、半健康半病気の、中途半端が成り立たず、死か否(生)かや、健康か否(病気)かになるのと、共通します。

 

・成功=現代的、進歩あり、非宗教的、オリジナルでない(非個性的、追随者風)、量的、一般的

 → 過程・成果(内面の「する」)に関係

・幸福=非現代的、進歩なし、宗教的、各人でオリジナル(個性的)、性質的(質的)、人格的

 → 存在(外面の「ある」)に関係

 

 ここで、幸福を宗教的としたのは、宗教では、道徳・善を幸福と結び付け、中庸(中立で自然に調和)を道徳の主要かつ根本的な形とみているからで、オリジナルを個性的としたのは、「幸福について」の項が、「個性と幸福」という原題で発表されているからです。

 

 つぎに、成功は、幸福と同一視すると、真の幸福を理解できずに、あわれだとしている一方、冒険と同一視すれば、真の冒険になるとし、次のように、成功主義と対比させており、冒険では、人生を純粋に賭(かけ)とみています。

 

・真の冒険=成功を冒険の見地から理解 → 絶対的:真の幸福か不幸か

・成功主義=冒険を成功の見地から理解 → 相対的:半成功半失敗が成り立つ

 

 なお、古代と近代で、個人意識や型的人間を、次のように対比させ、近代の成功主義者は、型が量的に平均的で明瞭の、没個性としており、真の冒険の先に、絶対的な真の幸福か不幸かが、存在することになります。

 

・古代=個人意識が未発達、個性的な型的人間(強い型+鮮やかな個性) ~ 賢者(中世=聖者)

・近代=個人意識が発達、非個性的・量的に平均的な型的人間(型と個性の分離) ~ 成功主義

 

 ただし、「一種のスポーツとして成功を追求する者は、健全である」といっているので、成功主義をけっして否定しているのではなく、成功主義は、相対的な半成功半失敗が成り立ち、立身出世が動機となります。

 

 最後に、人間の理想は、古代には、賢者で、中世には、聖者でしたが、近代には、企業家といえ、企業家的精神は、近代的な冒険心・合理主義・楽観主義(オプティミズム)・進歩の観念を混合した最高の産物ですが、拝金主義の結果、起業家が純粋に理解されないのは、今も昔も同様のようです。

 

~・~・~

 

◎成功についての「ノート」

 

○幸福/成功=今日の倫理学の置き忘れ

・成功=現代的(古代・中世に存在せず、現代のモラル)

・幸福=非現代的(古代・中世のモラルの中心だが、現代には無関心)

 

○近代に特徴的=成功のモラル、進歩の観念、両者が密接に関係

※近代啓蒙主義の倫理での幸福論=幸福のモラルから成功のモラルへの推移

・成功=直線的な向上(進歩の観念と同様)

・幸福=進歩なし

※中庸=一つの主要な徳+徳の根本的な形 → 打破:成功のモラルの新しさ

 → 成功のモラル=近代の非宗教的な精神に相応

・成功と幸福を・不成功と不幸を同一視 → 真の幸福を理解できず憐れ

 

○他人の幸福を嫉妬 → 幸福を成功と同一視

・成功=一般的、量的、過程・成果(「する」)に関係 → 他人と比較・嫉妬しやすい本性

・幸福=各人による、人格的、性質的(質的)、存在(「ある」)に関係

※他人が成功とみても自分が無関心 → 2重に嫉妬

 

○シュトレーバー(努力家型の成功主義者)=俗物中の俗物、俗物として完全

 → 生=冒険という形而上学的真理を理解できない人間、想像力の欠如

 

○成功=人生の本質的な冒険と理解 → 成功主義=無意味に

※本質的に相違

・真の冒険=成功を冒険の見地から理解

・成功主義=冒険を成功の見地から理解 → 人生=賭(かけ)の言葉を勝手に理解・濫用

 

○一種のスポーツとして成功を追求するのは健全

・純粋な幸福=各人でオリジナル

・成功=オリジナルでない → エピゴーネントゥム(追随者風)=成功主義と結び付く

※近代の成功主義=型が明瞭、個性なし → 現代文化の悲劇・喜劇

・古代=個人意識が未発達、型的人間=個性的(型と個性の一致)

・現代=個人意識が発達、型的人間=量的・平均的・非個性的(型と個性の分離)

 

○成功のモラル=オプティミズム(楽観主義)が支持、オプティミズムの根柢=合理主義・主知主義

 → オプティミズムが洗練化 → 成功主義が残存せず

・成功主義=非合理主義 → 恐怖

 

○企業家的精神=近代的な冒険心+合理主義+オプティミズム+進歩の観念を混合した最高の産物

・古代・中世の理想:賢者、聖者

・近代の理想:企業家精神 → 近代の拝金主義の結果:一般には純粋に把握されず

※権力者が成功主義者を制御 → 立身出世のイデオロギーを吹き込む

・ニーチェのモラルの根本=成功主義者への極端な反感

 

(つづく)