あなたは「ウェールズという国」を知っていますか?「イギリスの一部」じゃないぞ。 | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

(同じ記事が二つ投稿されてしまいました。とはいえ「いいね」とかついちゃってるので、しばらく両方残しておきます、すみません)。
 
イギリスという国はありません。
あの国をイギリスと呼んでるのは日本人だけ。正式国名は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」、このユナイテッド・キングダムという英語を略して「U.K.」です。
合併や合同ではなく、「連合」です。
この「連合」している4つのネーション(国)が、イングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズです。つまり、ウェールズはU.K.を構成する「国」です。
民族的にも、イングランドはアングロサクソンであり、ウェールズ、スコットランド、アイルランドはそれぞれケルト系の別民族、言葉も違う、別の国です。
もちろん現実としては、中世から近世にイングランドが周辺の国を征服したんですけど、あくまでアイデンティティーが違うそれらを併合はせず、形式的には国として残し、イングランド王が他の三国の君主を兼任する、という形式にしたんです。
しかし、そもそも別の国であるという意識は強く、抵抗運動、独立運動が常にあった。アイルランドは激しい武力闘争の末にアイルランド共和国が独立しました(北部アルスター地方のみ連合王国に残った)。スコットランドも古くからイングランドと戦争を繰り返してきたライバル関係で、最近も「国民投票」をやって独立宣言をしようとしたのは、記憶に新しいでしょう。
ウェールズは、事実上征服された時期が古く、規模も大きくはないので「大公国」というひとつ格下の扱いです。シェークスピアの歴史劇を見るとよく分かりますが、ウェールズ人といえば必ず気骨の塊のような独立戦争の闘士です。ウェールズの支配はイングランド王太子の責任担当であり(だからプリンス・オブ・ウェールズが王太子の称号になります)、王太子たるものウェールズ人と戦争して勝って初めて一人前、みたいな描写がされてます(もちろん、イングランド人のシェークスピアが書いた芝居の中での昔話ですけど)。
現在ではさすがにウェールズ独立運動までは起きませんが、やはりイングランドとは別の国であるという意識は根強い。
そういう歴史を知らずに「ウェールズって、イギリスの田舎の地方でしょう?」とか言っちゃうのは、日本人として知的怠慢と言ってもいいくらいです。イングランドが語源のイギリスという日本語で、あの国をまるっと呼んじゃうのは、無神経ってもんです。ウェールズやスコットランドで「おたくはイギリスの一部ですよね?」なんて言えば、下手をすれば張り倒されます(と聞いてます、知らんけど)。
そもそも、サッカーやラグビーの「国際試合」というのは、スコットランド人やウェールズ人が、「戦争では負けて征服されたけど、せめてスポーツでイングランドをやっつけたい」という欲望から始まった対抗戦なんです。それがだんだん世界に広まったのが「ワールドカップ」という大会です。だから、当たり前のように「ウェールズ代表」「スコットランド代表」は、国代表として出てきます。彼らが戦う動機は、世界一になりたい以前に「イングランドに勝ちたい」なんです。
ウェールズにもスコットランドにもIOCがないので、オリンピックには国として出られません。なんでか、オリンピックはU.K.人が作った仕組みではないからです。だからラグビーやサッカーの世界は、オリンピック種目になることに最初から消極的でしたし、今もそうです。だからサッカーの世界では、オリンピックはU23なのにオーバーエイジあり、なんていうインチキ・エキジビション大会だと認識されていて、真面目にでてこないんです。
ウェールズ、スコットランド、北アイルランドは、現代の概念でいう「独立国家」「主権国家」ではありませんが。あくまで「国(ネーション)」であるという自意識は、間違いなく持っています(あとは「国」という日本語の定義の問題になりますけど)。
ちなみに、「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」のことを「大英帝国」なんて訳すことがありますけど、これは勘違い。「グレートブリテン」てのは偉大なって意味ではなく「大ブリテン島」っていう、あの島国の地理的呼称です。グレートは面積が大きいって意味、何に対してかというと「ブリュターヌ半島」という、フランスのあの半島に対して、と言われています(諸説あり)。アングロサクソン人がこの土地を征服する前に住んでいた原住民「ブリトン人(たぶんケルト系の民族)」の居住範囲は、今のフランスのブリュターヌ半島にまたがっていた、ということです。シェークスピアでいえば「リア王」がこの時代です。