まあ、聞いた話ですけどね。
江戸時代の大名、殿様というのは、贅沢三昧の特権階級というものではなかった、ということです。
藩というのはすべて独立採算の、企業のようなものです。何万石の大名でございといっても、その収入を殿様が全部貰えるわけではなく、そこから社員(藩士)の給料を払い、参勤交代だ何だという必要経費をまかない、そのうえ地元の公共事業にカネを使わなければ国は治まりませんから、たいていの藩は赤字経営でヒーヒー言っていた、というのが実情です。
つまり、殿様というのは中小企業のオヤジみたいなもんで、半沢直樹でいえば釣瓶や赤井英和みたいなものです。この不況のなか、苦労して経営するより、とっとと工場売り払って隠居できればそれに越したこたあない、んですけど、江戸時代の殿様には「領地を売り払う自由」なんかありませんから、未来永劫、ヒーヒー言い続けなければならないわけです。
ところがそこに、明治新政府というのが現れて、「あなたがたの領地をまるごと買い取ってあげましょう、以後は面倒な経営は一切合財こっちでやります、あなたがたには「華族」というものになっていただき、東京のお屋敷で遊んで暮らしてください」というんですよ。殿様たちはみんな大喜びで領地を差し出しました。
これが「廃藩置県、版籍奉還」というものです。三百諸侯は煙のように消滅して、アッというまに魔法のように「中央集権国家」というのが出来上がりました。
ただし、ごく一部だけ、勘違いしている殿様がいたのも事実で、島津の殿様は「ワシはいつ将軍になれるのだ」と言っていたら、いつのまにか領地を取りあげられて、「大久保や西郷に騙された」とブツブツ言い続けていたそうですが。こういうのは例外です。
ほとんどの大名は「経営者のプレッシャー」から解放されて、大喜びだったんだ、そうです。まあ聞いた話ですがね。