「十三人の刺客」の悪役・松平斉韶の「濡れ衣」 | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

 さて、それはそれとして。
 「十三人の刺客」の悪役・松平斉韶(なりつぐ)は、実在の明石藩主の名前です。しかし、人名辞典を調べても、彼は将軍の弟でも養子でもありません。むしろ彼は、将軍から養子を押し付けられて実子を廃嫡せざるを得なかった、という可愛そうな殿様です。妻はそのことを悲しんで自害してます。
 おかしいな、と思ったら、その押し付けれた養子・松平斉宣(なりこと) のほうに「不行跡」があったらしいです。


 これは脚本書いた池宮彰一郎先生、どっかで間違えたな。


 斉韶にとっては、とんだ濡れ衣です。池宮先生の小説版では直されているようなので、再映画化に際しても名前くらい訂正してくれてもよさそうなものなのに、前作のままにされてしまっているのは、どうしたことでしょう。よほど「前の映画の印象」が強烈だったのだろうと思われます。いまさら変えても・・・というところなのでしょう。
 斉韶、可愛そうすぎます。ちなみに彼は、越前松平家の分家ですので、結城秀康の子孫ということになりますね。そう考えると、なぜか越前びいきの私としては、ますます「何とかしてやってくれ」と思えてしまいます。


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 ちなみに斉宣の不行跡とは、参勤交代の行列を横切った3歳の幼児を捕まえて斬り殺した、という話です。これだけでも私は許せんです。明石藩は彼を養子にすることで六万石から八万石に加増されたのですが、斉宣が慣例により御三家の屋敷に挨拶に行ったところ「十万石以上じゃないと正門から入れない」と言われて脇門から通された、と。それを屈辱に思い(史実でも尾張藩に遺恨があったわけだね)、「オレを十万石にしろ」とゴネて幕府を困らせたそうです。幕府は仕方なく、八万石のままで「十万石格」という格式を与えたのですが、そうなると参勤交代でも何でも「十万石並みの装備」をすることになるので、出費が分不相応にかさみ、たちまち藩財政が逼迫して、領民は重税に泣いた、と。いやあ、映画以上の馬鹿殿と言っていいでしょう。

で、さすがに参勤交代中に暗殺されたのではありませんが、二十歳で若死にしており、明石藩は廃嫡されていた斉韶の嫡子が継いだ、と。明石藩のひとびとにとっては、なんだったんだろうね全く、という話です。