「十三人の刺客」の稲垣吾郎の芝居を、私は支持したいです。
「異常な殿様」をもっと異常にやれる「達者な」俳優は、は、ほかに沢山いるかも知れません。
でも、この物語の松平斉韶は、「見るからに明らかな異常者」ではダメなのです。何故なら、兄の将軍(家慶らしい)は、彼の異常に全く気付いておらず、むしろ「頼もしい弟」くらいに思っているわけですから。
いわゆる「個性派の怪優」をここにキャスティングしまうと、異常なところをいかにも異常にやってしまいそうです。しかし、それは逆に物語のリアリティを殺ぐのです。「十三人」が芸達者揃いならなおさら、彼らと同じ土俵に降りたら「負け」なのです。十三人合わせたより大物だ、くらいに見えることが理想です。つまり、この役は設定と脚本で充分すぎるほど異常なのだから、逆にこの役は抑制を効かせなければならない、「へんな芝居をしすぎない」くらいのほうがよいのではないかと思うのですよ。
「端正で、一見凛々しくて、実はものすごく異常」という針の穴を通すようなセンをつかなけでばならない。その意味で、稲垣きんは絶妙な線をついて成功してると思います。
最近の稲垣くんは、真面目な映画からスマスマの再現ドラマまで「境界型の異常者」が多い。これがうまくハマっています。吾郎ちゃんは「鉱脈をアテた」と言えるでしょう。
(註・最初、褒めるつもりで勢いでいろいろ書いたら「けなしてるようにしか見えない」というご批判をいただきました。確かに。これはまったく本意ではありませんので、訂正してお詫びします。オレ、あの稲垣クン大好きですよ、はい)