「ハムレット」を解く(3) 「王権」はあっても「人権」はない女王 | えいいちのはなしANNEX

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このブログの見方。写真と文章が全然関係ないページと、ものすごく関係あるページとがあります。娘の活動状況を見たいかたは写真だけ見ていただければ充分ですが、ついでに父の薀蓄ぽい文章を読んでくれれば嬉しいです。

 王権、などという近代歴史学っぽい概念がこの物語にはそぐわないかも知れませんけれど、あえて言えば、「王権」は最初から最後まで、ガートルードのなかにあるんですよ。

ガートルードと結婚している者が仮に「王位」につけるだけで。

ガートルードと分かれたら、彼には何の正統性もないんです。
この場合、Queenを「王妃」と訳すから間違うんです。王の妃ではなく、彼女自身が「女王」なんです。

じゃあ、ガートルードが実は最高権力者で、王は女王に頭が上らないのかというと、それもちょっと違って。そういうふうに現代人の夫婦関係に置き換えて考えちゃあいけないんです。
 敢えて言えば、ガートルードには「王権」はあるけど「人権」はないんです(その意味では、まあ、現代皇室のみなさんと一緒とも言えますな、無理にいえば。

だから日本人にはむしろ分りが早いかも知れない)。ガートルードは、次のデンマーク王に決まった男と黙って結婚することを義務づけられている、人間ではない女神か何かなのです。恋をするなどもってのほかです。
 つまりガートルードは、姫宮アンシーみたいなものです。

薔薇の花嫁は、決闘の戦利品なのです。

わからない人は「少女革命ウテナ」を見るべし。

ニホンのアニメマニアが一番「ハムレット」の本質を理解するのに近い位置にいるかもしんない。

とはいえガートルードだってほんとうは生身の女性です。

恋をしちゃうことだって、ひそかに子供を作っちゃうことだってあるでしょう(あるに決まってます、だってそれが「物語」のセオリーだから)。

デンマーク王位を決める一大イベントである決闘が行われようとしているとき、肝心の薔薇の花嫁が勝手に恋愛して妊娠して、すでに臨月だというのが発覚したら、どうしますか?
 「ハムレット」というのは、そういう話です。

 つづく。