最近、私の夫に友人ができた。
正直この新しい友人に、夫はいささか戸惑っている様子だ。
キャメル25歳モロッコ人。 がちがちのイスラム教徒。


つながりの元を辿れば、私の夫とキャメルの父親の友情から始まる。
この父親には今年7歳を迎えた末息子、ビレンがおり、
そのビレンがうちの息子の同級生であり、不幸にも2人で仲良く留年したのが発端だ。

私の夫はいつしかビレンの父親になつき、彼の営業する小さなショップにしょっちゅう顔を出しては長話をするようになったのだ。


キャメルはビレンの何番目かの兄だ。
さすがはアラブ人、兄弟姉妹は無数にいて、総勢何名になるのか私にはわからない。

キャメルは夫に言う。
僕らは正義と戦って死んだら、必ず天国へ行く。
天国では74人の女性が暖かく迎えてくれるんだ。

澄んだ目で懸命にイスラムの教義を説き、夫に入信を薦める。
しかし、夫の耳に届いたのは上記の内容のみらしい。

貸りてきた分厚いコーランの本を片手に、興奮気味にそう報告してくれる夫。
オマエのような不純な動機をアッラーが受け入れてくれるものか。


神を真剣に信じる彼を否定はしない、が肯定しきるのもちょっと抵抗がある。 でも心優しい彼とは親しくしていたい。 しかし対応を間違えば彼を傷つけてしまうかもしれない。 どうしたものかと、夫は少々悩んでいる。


今夜も、夫はキャメルの家へ出かけて行った。
なんでも、夫が鬱に悩まされるのは、よからぬ霊が夫の体内に入り込んでいるせいだそうだ。なので彼が除霊を施してくれるらしい。


…。 

運転をしているとつくづく思う。
道路を行き交う歩行者たち。

一体何のために信号機というものが付いているのかと。

アルルの車道は、わが道を行く歩行者の天国だ。
子供の手を引きながら堂々と赤信号を渡ってゆく人々。
悠々堂々と横断していくスーツのサラリーマン。
青信号のはずの車がなぜか急停止しなくてはならない交差点。


私は根気よく息子に教えている。

赤信号は渡っちゃダメ。
横断歩道は右見て左見てもう一度右見て渡りましょう。

至って基本のはずだ。

控えめなはずの夫がついにブチキレたのは、

暑い暑い炎天下の、ある真夏の日の事だった。
ギラつく太陽に晒される中、青信号で3度も停まらせられ、

彼のイライラは頂点に達していた。
止まる意思のカケラもなさげな、子連れの女性が車道を渡ろうとしたその時、
私には理解不能なガラの悪い語彙で夫は怒鳴りつけた。

しんごうみやがれてめーはあかだろ


暑さで上半身裸に無精ひげの、ガラの悪そうな夫。
隣に私、日焼け防止の黒装束に、サングラスの東洋人。

怖かったのだろうか…
子連れ女性以外にも渡ろうとしていたその他大勢は直立し、車に道を譲ったのだった。


はっきりいって気分が良かった。







ラヴィエクサントリック ラヴィエクサントリック ラヴィエクサントリック


アルルから東へ、フォンビエイユの街を通り抜けて

岩の突き出た山あいに入って行く。 
切り立った崖の上に見える城跡。

les beaux de provence(美しきプロヴァンス)

私がプロバンス地方で最も気に入っている街だ。
崩れかかった城跡を頂点にして、街そのものが岩肌に直接刻み込まれたかのような町並みが、例えようもなく美しい。 

城跡に登ると、眼下には平野が広がる。 
右手に広がる大地は大自然のカマルグ地方。 

左手に広がる大地は南仏有名なプロバンス地方。


何千年も昔から、この城がまだ新しかった頃でさえ、この姿はずっと変わらずこうしてここにあったのだろうね。 
そしてこれからもずっと、このままの姿を新しい世代に引き継いでいくのだろうね。

歴史を目の当たりにする時はいつだって、

決して飽く事のない感動があると思う。