これは、2年ほど前の夏。
我が家に王妃様と王女様がダブルでご滞在された時の記録である。


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今、我が家には王妃様に加えて王女様も御滞在中だ。
王妃様が義祖母であるという事は、以前紹介した気がする。
王女様、すなわち王妃様の娘。 王女マリアンヌ様の事だ。


マリアンヌという名前は実名と少々違うという指摘もあるが、
たいした違いではないのでこれでいい。


最強のお二人と私たち家族3人が、
3部屋しかない小さな我が家にひしめいている。

窮屈でかなわないが、出稼ぎ労働に出てしまった私に代わって、
マリアンヌ様が王妃様と我が子の世話をしてくれる為、文句は言えまい。

マリアンヌ様は、御自身の生誕時からあるのではなかろうかという
年代物の洗濯機を過信されている。
肌着もタオルも靴下も雑巾も、一緒くたにしてぎゅうぎゅう詰め込んでしまわれ、
熱湯で一気にお洗いになる。 
洗濯機はぐおんぐおんと断末魔の大悲鳴をあげながら任務を遂行し、
終了時には10センチほど元の位置からズレてしまっている。 
洗いあがった洗濯物は、髪の毛やら木のくずやらが付着したまま干され、取り込まれる。

王女様は自己満足が大好きだ。
風が吹いて曇っている日でも、かまわず我が子をビーチへとお連れになる。
なぜなら彼女は、子供はビーチが大好きで、必ず毎日連れていけば
我が子がうんと喜び満足すると信じておいでだからだ。


我が子は寒い海で泳がされ、手足を冷たくして帰ってくる。


王女マリアンヌ様。 彼女は、基本的に悪気はない。大変感謝もしている。でも。
育ちが良すぎたせいなのか、家事も御自分の息子(私のダンナ)の育児もメイド任せだった為なのか、何かが少しおかしい気がする。


だから私は、たまに出稼ぎ以上に疲労する…。





アメリカ合衆国S市のチャイナタウンの端。
そこに古くから創業する、こぢんまりとした和食レストランがある。
ここに集う人々を、私は今でも家族だと思っている。


オーナーやスッタッフは身内、お客さんは親戚縁者といった様に気心が知れている。
馴染みの常連客はほとんど高齢だが、暖かく、どこまでも愉快な人々だ。
内訳は主に日系2世や3世、または古くからこの地に住む日本人達。
そしてなぜか一部の留学生達だ。


私の親友であり、良き理解者であるウエイトレスのY子さん。
彼女の経歴や年齢を詳しく聞いた事はないが、
戦時中は台湾に、終戦後は米国人と結婚してアメリカへ渡った、
波乱万丈な人生を送ってきた人だ。
彼女は非常にキツイ性格だが、時間をかけて打ち解けてみると
思いやりに溢れ、サバサバした人柄が実に気もちいい。
強くなければやってこれなかった世代の人なのだ。
彼女は余計な時に余計な事は言わない。
私が今生の大失恋をして撃沈している時も、ただ静かに傍に座り、
自分の昔の色恋沙汰をぼちぼち話して聞かせてくれた。
意外と心に深く浸み渡り、耐え難い胸の痛みは耐えられるものなのだと知った。
人はこの世にある、どんな苦難も乗り越えられるものなのだ。



若気の至りであの世界を飛び出し、はや8年が過ぎる。
あの頃のお腹の胎児は無事生まれ、今年で8歳を迎える。
レストランのオーナー、Jさんとはたまにメールでやりとりしている。
Y子さんとは5年ほど前に℡で話したきりだ。
常連客の一人、Kちゃんが4年ほど前に肺癌で急逝した。


夜遅くなるといつも家まで送ってくれたHさん。
いつも無言でお皿を洗っていたKさん。
世界一のお寿司をふるまってくれたH.Rさん。



次に皆にあえる日はいつだろう。
皆、年を取っていく。 
遅すぎるなんて事がないように。
早くあの人達に会いに行きたい。

ふと、私が見たこの世の果てのお話をしたくなりました。


あれは、某日某国某場所。


その日、私と夫は飼い蛇のアントワン君を連れて、
サボテンの密生する山へとドライブへ出かけたのです。 
もう時は夕刻が迫っていました。 

それでもまだまだ真夏のうだるような暑さが続く夕べのひと時でした。

その場所に差し掛かった時、
私は自分にとっていつまでも、心に残る特別な風景を見たのです。

真っ赤な夕日を背景に、黒々と電柱のようにそびえる無数のサボテン。
それらが、大地の熱気に揺らめき、存在感を誇示しています。
直径20センチくらいの亀が、サボテン砂漠を横切って行く、
そのわずかな音だけが存在する静寂。

この世に果てがあるのなら、きっとここなのだと思ったのです。
私は、とうとうこの世の果てまで来てしまったのだと。
だから今、私と一緒にここにいるあなたと、これからもずっと生きていこう。





あの風景を、もう一度見に行きたい。
何としてももう一度。
何かが破綻した私たちの心を取り戻しに。


きっと、あそこに欲しいものがあるはず。

人それぞれ、その人の感じるこの世の果ての風景が、
何処かにあると信じています。 
私の場合は、あの時のあの風景でした。




※で、アントワン君はといいますと、暑い砂漠に大ハッスル。 
私の腕に巻き付いてぎゅうぎゅう締め付け、首を振って歓喜しておりました…。