前回に引き続き、日本語の「まだ」の意味を探ります。
前回あげた「まだ」のポイントを再掲します。
- 「まだ」の基本意味は「ずっと同じ状態が変わらず続くこと」
- しかしその奥には①「まずい状態が続くことで圧力が高まる(我慢の限界が近づく)」②「同じ状態が続くところから時間が止まる・静止のイメージが出る」
- そして「静止のイメージ」から、「事態が動くかと思ったら実は変わらない、という『意外な気持ち』」の意味が出てくる
「まだ寝てる」のように「(寝てる)状態が変わらず、ずっと続く」という基本の意味から、「まずい状態の継続」により、「まだ寝てるのかよ。いい加減にしろ。」というふうに「我慢の圧力が高ま」ったり、「まだそのままだ」のように、「状態が変わらない=時の静止」のイメージが出たり、さらに、「まだ夜も明けないうちに」のように、「本来、夜が明けているはずなのに、実は夜のまま時間が止まっている」というイメージから「意外性」という意味がでるというお話をしたのが前回までの内容です。
前回のブログでお話したとおり、「まだ」の根っこの意味に興味を持ったのは「昨日はまだ太陽が出ていたのに、今日は・・・」という時の「まだ」に「何だこれ?」という感覚を持ったからです。みなさん、この「まだ」の意味を外国人にちゃんと説明できるでしょうか?私も「?」となりました。そこでちゃんと考えてみます。
表題にある、かくれんぼで出てくる「まーだだよ」の「まだ」は、要するに「隠れることができない状態が変わらず続いている」という、「まだ寝ている」とか「まだ宿題をやっていない」と同じ、「状態が変わらず続いている」ことを示す、「基本的な『まだ』」です。これを「そいつはまだマシだよ。」の「まだ」と比べてみましょう。
「まだマシ」の「まだ」は、「もっとひどい状態に比べれば、なお良いと判断される」状態を表現しています。つまり「想定していることよりマシ」という意味で「意外性」の意味に近そうです。つまり「まだ夜も明けないうちに」の「まだ」で出てきた「意外性」と共通点がありそうです。
「まだ夜も明けないうちに」の「まだ」では、「本来なら夜が明けてから動くのが普通なのに、実際には暗い状態がずっと続いたままだ」というという「時間の止まった」感覚が「まだ夜も明けない」→「まだ夜も明けないうちから」という「意外性を表す」使い方へと広がっています。この「事態が展開していると思ったら、意外にも事態は変わらないままだ」という「意外性の『まだ』」が「そいつはまだマシだよ」の「まだ」へと繋がっているのではないでしょうか。
「そんなのまだマシだよ。こっちなんてさぁ・・・」という時、「こっち」では「そっち」と比べて、もっとひどい方向へ事態が「進行・変化」しているのだ、ということを表そうとしています。そして「意外性の『まだ』」は、「事態が展開していると思いきや、変わらないままだ」ということを表しています。「そんなのまだマシ」の「まだ」は「こちらに比べれば、そちらは事態が止まっているように見えてしまうよ。こっちはそこからさらに、もっとひどい方に進行・変化・展開しているんだ」ということを表していることになります。
さて、ここまでわかってくると 、「昨日はまだ太陽が出ていたのに、今日は・・・」という時の「まだ」の意味が射程に入ってきます。この「まだ」は、「昨日はここまでで事態が止まっていたのに、今日はさらに事態が進行・展開してしまっている」ということを表しているわけです。
まとめてみましょう。
本来「状態が変わらず続く」ことを表しているのが「まだ」です。しかし、ただ単に「状態の継続」という意味だけではありません。元々は「いまだ」という言葉であり、漢字を当てれば「未だ」となるように、「まだ」には「達成しないままの状況が続く」というイメージが含まれています。つまり「満足いかない状態の継続」というイメージがあるわけです。ここから「まだなの?」という苛立ちや、「あいつはまだまだだな」、という「未達成」の意味も出てきます。「あいつはまだ寝てるよ」とか「宿題をまだやっていない」などもこうした「満足いかない状態の継続」からくる「圧力(不満)の高まり」のイメージを付随して持つことになります。
そして、「状態が変わらず続く」というところから「時が止まる」イメージ、「静止」のイメージが出ます。さらには「状況が変わっていると思ってたのに、実は変わらず、動いていないままだった」という「意外性」のイメージへとつながります。「まだ夜も明けないうちから」の「まだ」にはこの「状況が止まったまま(まだ夜のまま)であることの意外性」が表されています。
最後に、「あるレベルで止まっている状態と、さらに進んでしまっている状態を比較する『まだ』」があります。「まだマシだよ」や「昨日はまだ太陽がでていたのに、今日はもう雨だし、寒いし。」の「まだ」がこれです。「そんなのまだマシだよ。こっちなんてもうさぁ・・」では「そっちの状況はそれで止まっているよね。こっちはさらにそこからひどい方向へ進んでしまっているんだ」ということで、「昨日はまだ太陽が出ていたのに、今日はもう雨だし・・」というのは、「昨日は太陽が出る、というレベルで止まっていたのが、今日はそこから進んで雨になって・・」ということを表しています。
実はこの「昨日はまだ太陽が・・・」という例文は、今勉強している中国語(台湾華語)の教科書にあった、
昨天還出大太陽,今天就又颳風又下雨。(中国大陸の簡体字では「昨天还出大太阳,今天就又刮风又下雨。」)
(昨日はまだしっかりと太陽が出ていたのに、今日はもう風が吹くし雨も降ってるよ。)
という例文から取ったものです。この「還」(中国大陸の簡体字では「还」)は未達成という意味での「まだ」という意味で使われるのがおなじみで(還沒來(还没来)=まだ来ない)、これが「まだ(太陽が出ていたのに)」という意味で使われるのが不思議であり、でも、日本語話者としてこの異なる2つの「まだ」のイメージが何となく理解できてしまうことから、ちょっと考えてみたくなりました。前回のブログで言及した英語のstillと同様、中国語の「還」も日本語の「まだ」も偶然ですが、とてもよく似た構造・意味の広がりを持っているようです。
(おしまい)
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