pianoは「形ある物体」なのになぜaがつかない? | 『英語職人』時吉秀弥の英文法 最終回答!

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さて、コメント欄にとても良い質問がありましたのでここでご紹介します。

 

質問:「質問失礼します。崩したらそれと呼べないものにaをつけますが、なぜピアノなどにはaがつかないのでしょうか?」

 

とても良い質問、ありがとうございます。少し長くなりますが最後までお付き合いください。

①「形ある物体としての可算名詞のpiano」と「演奏機能としての不可算名詞のpiano」
a+単数名詞は「ある物体が一つの形丸ごとそこに存在している」ことを表します。ですから、例えばピアノが物体としてそこにひとつ存在していることを言いたいなら、aがつきます(例:There is a piano in my room.「私の部屋にはピアノが1台ある)。


ですが、「ピアノを演奏する」という表現の時、人間はpianoを別の視点でとらえています。例えば「ピアノを『1台』演奏する」というのは日本語でもなんとなく変に聞こえます。なぜならこの時言葉で表したいのは「物体として1台存在しているピアノ」ではなく、「ピアノは演奏することで音を奏でる」という「機能」の話だからです。つまり「ピアノを演奏する」という話をする時、人はピアノを「物体」として捉えず、「(音を奏でるという)機能」として見ていることがわかります。
これは「一回の食事」として可算名詞となるmealと、その食事を「朝用、昼用、夜用のどの機能として食べるのか」ということを表す不可算名詞のbreakfast, lunch, dinnerの関係に似ています。

 

可算名詞と不可算名詞の概念をざっと説明しておきます。

 

例えばピアノをバラバラにしてその部品や破片を「ピアノ」とは呼びません。ピアノはピアノの形が「丸ごと1つ」揃ってはじめて「ピアノ」と呼べます。こうした「形で認識する物体」のことを可算名詞として扱います。英語の世界で「数える」というのは「それ以上崩したらそれと呼べなくなる形」を「1つ」として数えることです。そして「まとまった形が1つ存在している」ことを表す単語が「a」です。一方、不可算名詞は氷や皮、粘土など、「いくらバラバラに砕いても氷は氷、皮は皮、粘土は粘土」という世界で、「材質」を指す名詞です。そして材質というのは「氷=冷やす機能」「皮=保護機能」などのように「機能」と直結しているので(だから何かを作るの時の「素材」になります)、機能を表す名詞も不可算名詞になるのが英語です

 

「食事」を意味するmealは「これで1回分」というまとまりを持ちます。可算名詞の「まとまった形」というのは言語学では「boundary(境界線)」と呼ばれたりします。つまり明確な物理的な形でなくても何らかの「まとまり」があれば可算名詞として認識されます。しかし、breakfast、lunch、dinnerは「mealの用途・機能」なので不可算名詞です。

 

機能が不可算名詞になるので有名なのはschoolですね。1個の建築物としての学校ならa schoolといえますが(例:There is a school over there.「向こうに学校がある」)、「授業」としての学校ならHe is at school now.(彼は今学校だよ=授業を受けているよ)ならschoolは不可算名詞です。


「演奏している時のpiano」は英語話者にとって不可算名詞として見られています。

②他のではなくそれを意味するthe
バンドやオーケストラなどで「〜という楽器を演奏する」時には「play the 楽器」となるのが普通です。これはバンドを構成する楽器がいくつかあって、その中で「私が担当するのは他の楽器ではなくこの楽器だよ」という意味での「区別のthe」です。

③演奏家が自分の演奏する楽器が何なのかを説明する時にはaもtheもつかないことが多い
この説明はジーニアス英和辞典のpianoの項に載っています。
I play piano in a jazz band called X.「私はXというジャズバンドでピアノを弾いている」
この場合のpianoにはaもtheもついていませんが、pianoが1台の物体ではなく演奏機能を表していることでaは不可、そして、theをつけても間違いではないのですが、実際の用法としてtheは省かれることが多いです。これはおそらく演奏家が「自分の演奏の話だけをしていて、他の楽器担当の演奏家と比較しながら何かを話しているわけではない」という心情があるからtheをつけないのではないかと思われます。

④最後に
実際のいくつかの例文を見ながら何が起きているのかを確認して見ましょう。例文はウィズダム英和辞典のplayの項からです。

Well, I'd love to play the piano. I love music, and I do play piano.
(今の職業以外になりたい職業を聞かれて)そうねえ, ピアノが弾きたいわ, 音楽が好きなの, 私ピアノを弾くのよ
→今の職業以外で演奏家になりたい、そして楽団の中で「他の楽器ではなくどの楽器を弾きたいか」ということが意識されるのでthe+楽器となっている

→演奏家が自分がいつも演奏しているのはピアノだということで、play pianoとなっている

Someone's playing a piano.
誰かがピアノを弾いている (「(どんなピアノだかわからないが)ある(種の)ピアノ」の意)
→これは「演奏機能」の話というより、誰かが演奏する音色を聴くことで「そこに物体としての1台のピアノがあるね」という「物体としてのピアノが存在している」話をしているのでa pianoとなっている

Daddy would play my piano and sing before he died.
父は生前よく私のピアノを弾いて歌ったものだ.
→これも「演奏機能」というよりは、物体としての1台の私のピアノが存在していることに注目していているので可算名詞のpianoとなり、「私のピアノ」と限定しているのでa pianoではなくmy pianoとなっている